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リッチはエディリラとの戦いを終えると、魔力を使い果たして力尽きたイフリートの亡骸に優しく手を当ててしゃがみ込んだ。
「イフリートさん……。あなたは最後までお子さんたちを……」
するとその時、遠くまで下がっていた子供たちがイフリートの元へと駆け寄ってくるのが見えた。
「イフリートのお兄ちゃん!」
「ねぇ、生きてるよね!?」
「起きて! 起きて!」
イフリートの亡骸は子供たちに囲まれた。
リッチはその悲しい光景に落ち込み、そしてその様子を見ていられずに立ち上がった。
そして、首を失ったエディリラの体を肩に抱えると小さく呟いて歩き出した。
「首を失ったとはいえ、お子さんたちの近くに置いておくのは危ないですね……」
リッチはそう言って1人奥へと進み、ミノタウロスの元へと向かった。
◆
大きな扉の奥へと進むと、ベヒーモスの角で胸を突かれながらもベヒーモスの首を腕で締めてベヒーモスを絶命させているミノタウロスがいた。
それを見たリッチはエディリラの体を地面に置いてミノタウロスの元へと駆け寄った。
「ミノタウロスさん!! ミノタウロスさん!!」
その時、ミノタウロスが血まみれの顔で少しだけ笑って答えた。
「リッチ殿……」
それを聞いたリッチは驚きながら答えた。
「ミ、ミノタウロスさん!?」
リッチの声を聞いたミノタウロス満足そうに言った。
「この先に行けば地上に出られる。子供たちを連れて行ってくれ……。だが……」
「……だが?」
「このおれと、ベヒーモスを焼き払ってくれ。子供たちに、ミノおじさんが負けた所を見せたくないからな」
「そ、そんな! 負けていませんよ! ミノタウロスさんは勝ったんです! 焼き払うなんて出来ませんよ!!」
「おれは、もうじき死ぬ。……だが、勝てずに相打ちなど負けたも同然。格好悪いじゃないか。最後まで強いミノおじさんでいたいんだ……。ミノおじさんはベヒーモスを倒し、残った敵を追っていったと言ってくれぬか……」
「ミ、ミノタウロスさん!! 嫌ですよ!! そんな事を言わないでください!! お気を確かに!! ミノタウロスさん!!」
リッチがそう言った瞬間、ミノタウロスが驚きながらリッチに言った。
「リッチ殿……、逃げろ……。エディリラが自分の生命の力を放とうと……、している……。アンデッドのあなたが喰らえば……、大変な事に……」
それを聞いたリッチが後ろを振り向くと、なんと首を失ったエディリラの体が自らの胸に手で穴を開け、白い光を放とうとしていた。
そしてその時、遠くからエディリラの声が聞こえてきた。
「あーはっはっは! 憎きアンデッドよ!! 死人のお前が、蘇ったこの私の膨大な生命の力を食らえば、間違いなくお前は消滅する!! おまえは道連れだ!!」
パァァアアアアアアア!!!
エディリラは生命の力の光でリッチの体を消滅させようとした。
しかしリッチの体には何も起こらず、リッチは魔法の杖を出現させて炎の最高魔法を放った。
それを見たエディリラは思わず叫んだ。
「なっ! なぜ効かぬ!? なぜだ!! ……、ま、まさか……。お前は……、黒魔術で生きながらにして……」
その声はリッチの魔法によって徐々に掠れていって風にかき消されていった。
するとエディリラの生命の力は破裂するように大きく広がって飛び出し、その光は離れたイフリートの亡骸やミノタウロス、そしてベヒーモスまでにも降りかかった。
◆
その後しばらくして、難民の町の学校には4人の転校生がやって来ていた。
先生はその4人を優しく教室の前に整列させると、生徒たちに笑顔で言った。
「みなさーん! 今日は新しいお友達が来ています。仲良くしてくださいねー!」
先生がそう言うと教室の子供たちは嬉しそうに手を上げて答えた。
「「はーーーい!!」」
それを見た先生は嬉しそうに転校生の紹介を始めた。
「はい、では紹介しますね。こちらの赤い体の男の子はイフリートくんでーす!」
先生がそう言うと子供の体になっていたイフリートは恥ずかしそうに言った。
「お、おれはイフリート……。よろしくな」
そして同じく子供の体になっていたミノタウロスも先生に紹介された。
「で、こちらの獣人さんはミノタウロスくんです!」
先生に紹介されたミノタウロスは笑顔で生徒たちに言った。
「みんな、よろしくな! おれはミノタウロス! 力仕事なら任せてくれよな!」
すると同じく子供の体になっていたベヒーモスがミノタウロスに言った。
「お、おい! おれだって力仕事が得意なのに!」
ベヒーモスがミノタウロスにそう言うと、それを聞いた先生がベヒーモスに言った。
「まぁまぁ、力仕事が得意な子が沢山いれば助かるわね! じゃあ、紹介するわね。こちらの魔族さんはベヒーモスくんよ」
紹介されたベヒーモスは少し恥ずかしそうに頭を下げた。
「よ、よろしく」
そして最後に先生は子供の体になったエディリラを紹介した。
「最後に、この子はエディリラちゃん。とっても魔法がお上手なの。何もないところから、お水を出せるのよぉ」
それを聞いたエディリラは恥ずかしそうに下を向いて何も声を出さなかった。
その様子を教室の奥から覗いていたリッチは笑顔になりながら呟いた。
「ふふふ。エディリラさんが最後に放った生命の力をみなさんが吸収して蘇るだなんて。……ですが、生命の力が四等分になったせいか記憶も体も完全にお子さんになってしまいましたね。可愛いですねぇー」
その時、教室にいたアイイと、一緒にダンジョンに行っていた子供たちは笑顔で拍手しながらイフリートたちを迎えたが、子供たちの1人が心配そうな表情を浮かべながらアイイに言った。
「リッチ隊長が大丈夫だって言ってたけど……、エディリラちゃんって、あの怖い魔法使いだったんでしょう? ぼく、やっぱり怖いよぉ」
しかしアイイは両腕を組みながら自信満々な表情で答えた。
「大丈夫だよ! だって今のエディリラちゃん、シワシワのおばあちゃんじゃないもん。きっとエディリラちゃんはシワシワのおばあちゃんになる呪いをかけられてたの!」
「ええっ!? そのなの!?」
「間違いないよ! 今のエディリラちゃん、怖い感じがしないもん。それにお水の魔法ができるなんてすごい! お話してみたい!」
アイイがそう言うと、その会話をすぐ近くで聞いていたリッチが先生に進言した。
「あ、あの、すみません! こちらのアイイさんがエディリラさんとお話してみたいみたいでして……。もしご迷惑でなければ、エディリラさんをアイイさんの隣の席にして頂けましたらと……」
それを聞いた先生は笑顔で答えた。
「あら、それは良いわね! ではエディリラちゃんはアイイちゃんの隣の席にしましょう!」
するとアイイの隣に座っていたリーダー的存在の子供は席を譲り、空いている後ろの席に移動しながら先生に言った。
「先生! 僕はベヒーモスくんに隣に来てもらいたいです。よろしいでしょうか」
それを聞いた子供たちは先を争うように次々に手を上げた。
「僕はミノおじさ……、えっとミノタウロスくんの隣がいい!」
「おれはイフリートくんがいい!」
「あたしも!」
あのダンジョンで、子供へと生まれ変わったミノタウロスたちを見ていた子供たちには、優しかったミノタウロスとイフリートが大人気だった。
その時、エディリラがアイイの隣の席に座り、アイイは待っていたかのようにエディリラに話しかけた。
「エディリラちゃん。あたしアイイ! よろしくね!」
するとエディリラは恥ずかしそうに答えた。
「う……、うん。よろしくね」
「エディリラちゃん、魔法がつかえるんだね! すごいね!」
「うん……。でもね、わたしの魔法はまだまだ全然だめなの。けどね、わたしね、いつかね、わたしの魔法で、みんなを幸せにしたいとおもっているの」
「わぁあ! すごいねエディリラちゃん! エディリラちゃんなら、きっとできるよ! やっぱりエディリラちゃんはシワシワの呪いにかかってたんだね!」
「……えっ? シワシワの呪い?」
「あ、ええと……、ううん、なんでもないの! それより、その髪のおだんご、かわいいね!」
「……えっ、えっ……。……これ? これ……、わたしのお気に入りなの」
「かわいい! あとでアイイにもしてくれない?」
「えっ……、うん。……いいよ」
「わー! やったー! ありがとうエディリラちゃん!」
アイイが喜んでいると、横からリッチがエディリラに言った。
「エディリラさん。もしあなたが本当に魔法でみんなを幸せにしたいと思うのでしたら、私が魔法をお教えします。私は四属性全ての魔法と古代魔法を扱えます。いかがですか?」
それを聞いたエディリラは目を輝かせながら、しかし驚いた表情を見せて答えた。
「えっ……? ……私が良いの……?? だけど……、だけど、教わりたいです! 私の魔法で、みんなを幸せにしたい!」
その声にリッチとアイイは笑顔になり、エディリラの運命は時を越えて正反対に動き出したのだった。
―― リッチ・ザ・ウィザードマスター 完 ――




