第2話 ハニーミルクの妖精とフレッシュボーイズ ー後編ー
貼り出されたクラス表には多くの生徒が集っていて、血の気の盛んではないといろは人の塊から少し離れた所で待つことにした。
「といろちゃん、同じクラスだといいね♪」
(おやおや妖精さんが眩しい)
いつの間にか雫が横のちょこんと立っていた。腕を後ろで組んで可愛らしい。
「そうだねー」
といろは少し照れながら答えた。
その場にほのぼのとした空気が流れる。といろはその空気の旨さを感じていた。
その時、1人の男子生徒が横切った。ほんのりピンクがかった茶髪の生徒だった。そして、少し経つとその生徒を追うように女子生徒が何人か素早くといろたちの目の前を通っていった。
「もうファンがいるのか」
「あの男の子が''いかにも漫画から出てきたイケメン''かな……?」
「もう二つ名があるのか」
「入学式前、会場にちょうど入る時に隣にいた女の子たちの話が聞こえたの。今日の朝''いかにも漫画から出てきたイケメン''を見かけたって話してたの。そのイケメンが誰なのか分からずじまいだったけど、あの子なのかも」
「ふーん」
「あ、といろちゃん、だんだん人が減ってきたし、そろそろクラス表見に行ってみよう?」
2人はゆっくりクラス表の貼られている、玄関口に向かう。といろは指を差しながら確認する。
「えーっと、んー……あ、あった!A組だ。あっ」
聞いたことのある名前も並んでいた。
「といろちゃん!私もA組!」
「おおー!」
「これからよろしくね♪」
「こちらこそ、てへへ」
(どうしようキモい笑い方しちゃった)
自分のクラスを確認した生徒は、自分の名前の書かれている下駄箱を探す。
「A組の下駄箱はここみたいだね」
「私の名前あった〜。といろちゃんのも見つけたよ!そこ!」
「うおっ見つけるの早っ」
そして中には名前が刺繍された上履きが入っている。
「上履きっていつもらえるんだろうと思ってたけどここだったんだ」
もちろん制服採寸の時に上履きのサイズも測っているので怖いくらいにサイズはぴったりである。
廊下に誘導の教師であろう人が立ち、どんどんと生徒を上の階へ上げていく。といろと雫も階段を上り、自分たちのクラスへ移動した。
「ここか」
ふんわりと木の匂いがする。新しく建てられたのもあるが、木を基調としたとても落ち着きのある可愛らしい校舎である。
2人は教室の後方の戸から入り、黒板にデカデカと書かれた座席表を見て、軽く手を振ってから各々の席についた。
(普通に名前の順だ)
といろは人見知りな方である。雫の様子を伺う。もう周りの生徒と話していた。
(コミュ力がちげぇや)
そんなこんなでといろは誰とも話すことなく、その場を切り抜けた。
−♪−
チャイムが鳴った。大体の学校で使われているであろうキーンコーンカーンコーンではなく、謎の音だった。教室は静まり返る。
教室に教師が入ってくる。黒髪ロングに丸眼鏡。なんとも真面目で優しそうな先生が教壇に上がった。
「では、チャイムがなったのでホームルームを始めます」
(始まった!)
ちなみにといろにはひとつドキドキしていることがある。自己紹介である。ただ、今回自分の番はどうでもいい。といろはもともと発表などをすることに特別緊張を感じるタイプではない。朝、ルリに言われたことを思い出す。今日といろは同じクラスの人の名前をできるだけ覚えるという課題が出たのだ。
(そんな真面目に覚えなくていいんだよなたぶん……できるだけって言ってたし、でもなんか緊張してきた)
といろは若干真面目だった。
「まずは、みなさん入学おめでとうございます!」
ホームルームでは明日からの授業についての説明を受ける。時間割りが配られ、さっと目を通す。学校でのルールや学校施設の使い方、生徒が利用できるオリジナル学習アプリなどなど、たくさんの説明を受けた後、ついに自己紹介タイムに突入した。
「はーい、最後に出席番号順に簡単な自己紹介をお願いします」
教室に緊張が走る。
(何回やっても慣れないよなー。自己紹介は)
出席番号1番の生徒がおもむろに立ち。緊張した声色で自己紹介を始める。
(始まったー!)
かなりテンポ良く次へ次へと自己紹介は進んでいく。といろは集中する。
(もう何人か名前忘れた。まあ仕方ない。っていうかもう隣の席まで回ってきた!)
といろの番はすぐにきた。
「はい、ありがとう。次は戸咲さん。お願いします」
といろは席を立ち話し始める。
「戸咲といろです!好きな食べ物はうどん。好きな飲み物は水です!これから一年間よろしくお願いします」
「はーい、ありがとう。じゃあ次は、名雲くんよろしくお願いします」
(ふぅー落ち着いた)
といろは胸を撫で下ろした。といろは引き続き集中してできるだけ名前を覚えるよう努力した。唯一安心して聴けたのはすでに名前が頭の中に入っている友人、の富代雫自己紹介だけだった。
ようやく自己紹介も終わり、といろも何人かの顔と名前を覚えることには成功した。
「みなさん、これから一年間よろしくお願いします!これで今日のホームルームは終了です。よく寝て明日も元気に学校に来ましょう!号令する係さんを決めてないので私が号令します。起立!」
そうして、今日の学校は幕を閉じたのだった。
といろは雫と一緒に寮へ向かう。
(これから部屋に帰ったら研究課題開示タイムが始まってしまう……)
「といろちゃん、疲れた?」
「うーん、これからまた疲れそうだなって」
「といろちゃんこれから研究課題発表される人?」
「うん!ていうか、みんな同じ日に発表されるんだと思ってたんだけど、違うの?」
「え!あっ、ううん。たぶんみんな一緒だと思う!き、気になっちゃってー、発表日みんな一緒なのかなー?って!といろちゃんも今日ってことはみんな一緒なんだね〜♪もう寮着いちゃったね!あ!私あそこの自販機で紅茶買ってから帰るからといろちゃん先帰ってて!また明日ね!」
「う、うん。またね……」
(よっぽど今紅茶の舌なんだろうなー)
外は夕暮れである。
(あまり長い時間を過ごした感じはしなかったけどもう夕方なんだなー)
といろはそんなことを考えながら寮に入った。
駆け足で自販機に向かっていた雫は自販機にたどり着く前に足を止め、といろが入った後の寮の入り口を片腰に手をあてながら見つめる。
「はぁ、今日は完璧♪また明日ね、といろちゃん」
オレンジ色の夕陽が辺りを照らしていた。
「さて、といろさん初めての高校生活どうでしたか?」
「面白かったですよ」
「友達できました?」
「できました」
「研究課題お伝えしますね」
「はい。……って唐突!助走なしでですか?」
「ちゃんと助走したじゃないですか。質問して心を和らげました」
「もっと研究課題発表前の助走をください!今緊張感ゼロで全てが駆け抜けていく流れでしたよね」
「まあまあ落ち着いてください。めんどくさいのでもう発表しますよ」
といろはドキドキしてきた。
「といろさんの研究課題それは……」
「それは……」
「それは……
"在学中に恋愛を経験すること"
です」
「はあ……」
「なんかあまり驚いてないですね」
「うっすらとそんな気はしてました」
「とまあ本題はここからです」
ピロンッ
といろの携帯にルリからメッセージが送られてきた。送られてきたメッセージには5人の名前が書かれていた。
「今、名前を送った5人ですが、この一年間のといろさんに親密な関係になって欲しい人たちです。これからといろさんはこの方たちと仲良くなって、誰かと恋をするんです」
(さ、先行きが怪しくなってきた……)
といろは唖然としていた。
読んでくださり、ありがとうございます。
花時計たおるです。
次回は8月の5日に掲載します!




