表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーク01、咲ける場所を探しに行こう。〜異世界召喚先はステータスが全ての婚活会場!?〜  作者: ニャルC


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/4

第1話婚活会場に異世界召喚される

 酸性雨がネオンの光を乱反射させ、視界をサイケデリックに歪ませている。

 シン新宿。この過密した掃き溜めでは、空気さえも汚染された利権の味がした。

「――ソフィア、左だ! 3秒後に遮断機をハックする!」

 耳の奥のインプラントから、相棒のデッカーの声が響く。

 ソフィアは泥水を跳ね上げ、路地裏を疾走していた。

 背後には、企業の私設警備員が放った殺人ドローンの駆動音が迫っている。

「遅いよ。……2秒でやって」

 彼女は振り返ることなく、計算された最短距離の軌道で角を曲がった。


 逃走劇から2時間後。

 安物の合成酒と、油の焦げた匂いが充満する地下居酒屋「赤提灯」に、二人の姿はあった。

 相棒は、ハッキング中にショートして火傷を負った指先を氷に突っ込みながら、不敵に笑った。

「……さっきの論理爆弾、もっとスマートに発火するはずだったんだがな。計算違いだ」

「失敗か?」

 ソフィアは、酒の入ったグラスを見つめたまま、温度のない声を出す。

「何? 俺は今、『この暗号化プロトコルには、さっきの手法は冗長だった』という貴重な真実を発見したんだぜ」

発明王エジソンかよ」

 ソフィアの皮肉に、相棒は肩をすくめた。

「いいか。失敗はイノベーションの母だ。『失敗する自由』がない世界なんて死んでるぜ。だろ?」

「……失敗だって、認めるんだな」

 ソフィアは酒を呷った。彼女にとって、失敗は死に直結するコストでしかなかった。

だが、相棒のその「不完全さを肯定する傲慢さ」は、この街で唯一、人間らしい熱を持っていた。


「供給過多なんだよ、サムライもデッカーも」

 ソフィアは空になったグラスを置く。

「企業に飼い馴らされた中堅は掃いて捨てるほどいる。

ボクが最高に輝けるショートヘッド(ニッチ)はどこにあるのか……」

「出たよ、その衒学趣味ペダンチズム。お前はいつもそうだ。戦う理由にまで理屈をつけたがる」

 相棒が笑う。

 勝者総取りのレッドオーシャン。

この街では、暴力の専門家であるソフィアでさえ、代替可能なパーツの一つに過ぎない。

 どんなにロジックを磨いても、供給過多の暴力は安売りされ、やがて使い捨ての駒として摩耗していく。

「お前はもっと楽に生きればいいんだよ、ソフィア」

 相棒のその言葉が、この世界で交わした最後の会話になった。


 居酒屋「赤提灯」の喧騒が、ノイズ混じりに掻き消えた。

 次の瞬間、肺に流れ込んできたのは、酸性雨の臭いではなく、徹底的にフィルタリングされた無機質な、死んだ空気だった。


視界が開けると、そこは豪華なシャンデリアが輝く大広間だった。

 中世ヨーロッパの貴族のような装束に身を包んだ男女が、一斉にこちらを見ている。

 彼らは

「ステータス・オープン」

と唱えては、浮かび上がるホログラムの数値を互いに見せ合い、品定めするように笑い合っていた。

時にマウントをとるようにも聞こえる。

何らかの選別か、あるいは資源配分のための儀礼か。

ソフィアには、その不気味に清潔な集まりの正体は分からない。


「……なっ!? 職業:未定義!? STR:3……だと?

資格:文字化け……おい、何だこの、社会のゴミはーーーっ!?」


場を仕切る「赤い貴族」が、ソフィアを指差して叫んだ。

STR:3?だが、ソフィアは動じない。

「資格? ……ボクにあるのは、生きる資格だけだね」

シン新宿で「中堅」まで生き残った実績に比べれば、この世界の鑑定数値など吹けば飛ぶようなデータエラーだ。

 ソフィアは淡々と出口へ向かおうとする。

「どこから神聖な婚活パーティーに迷い込んだ?不愉快だ。

警備員、この『無資格者』をつまみ出せ。マッチング率が下がるではないか」

「言われるまでもない」

 ソフィアはそのまま、大人しく会場の外に出るつもりだった。

 未知の環境での紛争はコストが高すぎる。


 だが、その時だった。

 会場に一人の少女が飛び込んできた。

マントの下にボロボロの服を隠した彼女は、エリートたちから冷笑のつぶてを浴びせられる。

「また下層民か。……適性検査で『マッチング率0%』を叩き出した、あの救いようのない無能ではないか」

 少女は震えていた。その姿を見た瞬間、ソフィアの脳内で「プロの計算」と「抑え込んできた感情」が火花を散らす。

(……無視しろ。介入のメリットが不明瞭だ。ここで騒ぎを起こせば、生存率は低下する)

 脳内にある生存本能が警告を鳴らす。

(だが、不愉快だ)

 かつての相棒が言っていた「失敗する自由」。

このシステムは試行すら許さず、一方的な計測値で人間の価値を損切りしている。

それはシン新宿のレッドオーシャンで供給過多な駒として摩耗していた自分自身の姿と重なった。


 貴族の冷酷な声が広間に響く。

「警備員! このゴミもろとも排除しろ。目障りだ」

 赤い貴族の無慈悲な宣告と共に、二人の警備員が立ちはだかった。

 彼らは無防備なソフィアを威圧するように、揃って唱えた。

「ステータス・オープン!」

 頭上に浮かび上がるのは、青白いホログラフだ。


『STR:30 / 資格:逮捕術・警棒術』

「このステータス差を見ろ。抵抗は――」


 言い終わる前だった。

 ソフィアは最短の踏み込みで男の懐に入り、重心を刈り取っていた。

 ストリートで磨き上げた実戦柔術。男の巨体は、自重に従って無様に地面へと叩きつけられた。


「な……な、なんだと!?」

「迷ったらトリガーを引け。ストリートのルールだよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ