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【79】引越しの準備をする〜荷造りする〜ブルーノが意外な申し出をしてきた

いよいよ事務所移転の準備です。人手も増えたので、そんなに大変ではないようですよ。引越しの準備の最中に新しい人材の話が浮かんで来ます。

 レイモン商会の二階に間借りしていた事務所をブラン地区に移転する時がついにやって来た。

「あ、その書類は箱に詰めて『図面類』と箱の表に書いてちょうだいね」

 ブランシュがブルーノに指示している。今日は明日の事務所の引越しに備えて荷造りだ。ブルーノが商会から手伝いに来ている。カトリーナとトビアスもいるので人手は足りているように思えるが、本人が是非というのでそれならばと手伝ってもらっている。


 前世のようにダンボールがある訳ではないので、木箱や籠に入れて運ぶことになる。大きさが揃った箱ばかりではないので、入れる物に応じて箱を選ぶ必要がある。規格が揃っているということは効率アップになるとよくわかる。とは言うものの、一年足らずの間に溜まった荷物はそんなに多くはない。現代日本のようにコピー機・パソコンや冷蔵庫などという物は存在しないので、謄写版印刷機が一番の大物かもしれない。大体片づいたので、後は店の閉店後に一階に荷物を下ろしておけば、明日の荷馬車の積み込みの準備は完了だ。


「ブランシュ、カトリーナ、トビアス、ブルーノ、みんなありがとう。荷造りは完了だ。明日また積み込みと、引越し先での荷下ろし・開梱があるけれど、そちらもよろしくね。きょうはお疲れ様。これで解散していいよ」

「はい、アラン様」

 みんなが揃って言った。その後小声でブルーノが僕を呼んだ。


 ◇


「アラン様、おりいってご相談があります」

「なんだい、ブルーノ」

 一瞬躊躇ったように見えたが、意を決したように口を開いた。

「旦那様にはお話ししてあるのですが、私をアラン商事の一員に加えていただけませんか?」

「それはまたどうして?」

 意外な申し出に面くらってしまった。

「リヴェルトでの打ち合わせに同行させていただき、秘密保持契約も結んだでしょう。アラン様がなさることはどれもこれま今までにないことばかりで興味が尽きないんです。なんかもう胸の内がワクワクして。ですから営業担当としてアラン様のお役に立てないかと思いまして」

 残って側にいたブランシュが頷いた。

「そうか、営業の人材は僕も欲しかったところだ。ただ、移転して新開発の商品が納入されるまでまだ時間がある。すぐにはブルーノに給料が払えないと思うけど」

「その点は旦那様とのお話で、アラン商事が軌道に乗るまでは兼任ということで、レイモン商会からお給金をいただけることになっております」

 レイモンもアラン商事の船出を応援してくれているのか。後で礼を言わなくちゃ。

「そこまで話がついているのなら断る理由はないね。ようこそ新しい船へ」

 僕はブルーノとがっちり握手をした。ブランシュも微笑んで見ている。


 今度はブランシュが僕を正面から見据えた。

「ところでアラン様、引越しをしたらお食事はどうされるおつもりですか?今までは我が家で召し上がっていましたよね。普通は料理人を雇うのですが。まさかご自分でお料理なさる気では…」

 前世での僕は卵焼きや野菜炒め、チャーハンなど簡単な料理はできた。でもこの世界では調味料も食材も違うので、自炊するのは難しいだろうな。

「おっと、うっかりしてた。そうだよね。領地からコレットに来てもらえるだろうか?彼女は料理のスキルもあるから。でもあちらは領地が拡がって兄様も執務をするようになったからメイドを貸せないだろうな。新規に雇うとすると、身元がしっかりした秘密の守れる人じゃないといけないよね」


「そうですね。一般家庭なら家政婦紹介所に頼めばすぐに見つかるでしょうけれど、そうして来た人がここで見聞きしたことを他でべらべらとしゃべらない保証はないですし。貴族に仕えていた人ならば迂闊に秘密を漏らすことはないとは思うのですが、普通の側仕えは料理ができません。料理のできるメイドとなるとかなり数が絞られますね。平民向けの家政婦なら料理も家事もできますけれど。」


「う〜ん、当面は外食で済ませるかな。幸い飲食店などもある地区のようだし」

「そうですわね。早いうちにメイドを探すとして、当面は外食なさればよろしいでしょう。時々は我が家へ食べにいらっしゃいな」

「そうさせてもらえると嬉しいな。偶には家庭料理も食べたいしね。じゃ、また明日」


 ひとまずブランシュにはそう言ったが、僕は頭の中に一つの考えが浮かんだ。秘密を守れる人材を一から育てるのはだめかな。少年探偵団のルークに言って素質のある女の子の孤児を連れて来てもらうのだ。その子を実家に送って料理とメイドの仕事を仕込んでもらう。もちろんその子の生活の面倒は全部見るのだ。こうすれば忠誠心の高いメイドを手に入れられる。女の子にとっても僕にとってもWin-Winじゃないかな。


 ◇


 まだ陽があるので犬笛を吹いてルークを呼び出した。直ぐにやってきたので、今日は彼がこの近くにいたのだろう。

「ボス、お呼びですか」

 ルークもなんだかしっかりしてきてホームレスだった頃の面影はない。こうしてみると案外精悍な感じのイケメンはないか。


「よく来た。用事は二つある。簡単な方からいこう。傭兵ギルドに行って、シャノアという女に伝言を残して欲しい。『ブラン地区にアラン商事を開業したから、いつでも訪ねて来るように』と。ギルドの受付に言えば伝えてくれるだろう」

「了解!」


「二つ目は、ルークにちょっと相談したいことがあるんだ」

「そんな、ボス、相談だなんて。命令してくださいよ」

「うん、あのね。ホームレス仲間に女の子はいるかな?」

「ああ、オイラたちの縄張りの近くに女子おなごばかりのグループがいる」

「その子たちはどんな感じなのかな?」

「女子は男と違って年頃になってくると、どこかに引き取られていなくなるから、人数はそんなに多くなくて、年上の子はいないです」

「そっか。その中に料理やメイドとしての見習いができそうな子はいないだろうか」

「それだとあまりガサツな奴はダメだよな……。ああ、一人だけ元は商家の娘だったけど、親が借金で店を潰して一家がバラバラになったって子がいる。確か文字も読めるし計算もできるよ」

「それなら仕事が見つかりそうだけど、なんでホームレスなんだ?」

「なんでも借金の方に引き取られた奉公先で、ひどい扱いをされて逃げ出して来たらしい。それで、あちこちに手を回されて働き口が見つからないって聞いたかな」


「歳はいくつぐらい?」

「多分、十歳は過ぎているように見えた」

「じゃあ、今度その子を連れて来てくれるかな、新しい店の方に。仕事を世話できるという話をして」

「了解、ボス!連れて行く前に、探偵団の誰かを前触れにやります」

「あ、言い忘れたけれど、探偵団も今度からはブラン地区が本拠地になるよ」

「へい、引っ越しするって聞いてっからわかってますって」

「それじゃよろしくね」

 女の子が承知してくれるといいなと思いながら、ルークの後ろ姿を見送った。


ブルーノの初登場の時から予感はしていましたが、こうなりましたね。それと料理人兼メイド。家事は大事です。洗濯機や掃除機などの家電、電子レンジのない世界で男の子が家事をするのは難しいですよね。次は7/14更新予定です。

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