【51】説明書の印刷準備~同行する~ユリアに謄写版印刷機製作者を紹介してもらう
トランプの試作を指示したら今度は説明書です。どうやら印刷で準備するつもりです。
この後は木製トランプの試作ができて問題がなければ販売用の生産に入る。それと同時に見本を持って商会長の所へ行かなくてはならない。でもそれまでにやらなくてはいけないことがある。
「ブランシュ、トランプの遊び方を書いた説明書を作らなくちゃいけないね」
「それを印刷するためにユリアさんに印刷機を作らせて欲しいってお願いしたんですよね?」
「そうなんだけど、了解をもらったとしてもおそらく最短で一か月はかかるだろう。それだと発売に間に合わない可能性が高い。だからBプランを準備しておきたい」
「また知らない言葉が出ましたね。Bプランってなんですか」
「予定通りいかなかったときに違う方法の準備をすることさ」
「なるほど」
「どちらにしても説明書の原稿は用意するとして、新聞社の空き時間に使用料を払って印刷機を使わせてもらうのさ」
「そういえば日曜日は新聞がお休みですわ」
「じゃあ日曜日に説明書を印刷すればいいね」
「説明書用の植物紙を注文しないといけませんよね。新聞用しか作ってないと思うんですけど」
「それならこの間テオ宛の手紙に新聞用の他に毎月100枚くらい上乗せして作ってもらいたいと書いておいたんだ」
「まあ、アラン様ったら抜け目ないですね!」
「それじゃあ説明書の原稿を作っちゃおうか。僕が口で説明するからブランシュはそれを書きとって欲しい」
【トランプ取扱説明書】
トランプとは、四つのマーク(スペード・ハート・ダイヤ・クラブ)と、1から13までの数字の組み合わせが描かれたカードにどのマークでも数でもない「ジョーカー」を加えた合計五十三枚のカード一組を指します。これで一人から数人までが遊べる様々なゲームがあります。このスターター・キットでは三種類の遊び方のルールを説明します。(無地のカードは予備)
【神経衰弱】
ジョーカーを除いたすべてのカードを裏返しにして、順番に二枚ずつ表に返して同じ数字だったら獲得する。獲得できた人はもう一回同じことができる。最後に一番多くのカードを獲得した者が勝ち。
【ゴルフ】
プレーヤーの前に二枚ずつカードを配り、残りはプレーヤーの中央に重ねて置く(山札)。自分の前に配られた二枚の札を伏せて置き、順番に山札から一枚引いて、自分の伏せ札と入れ替えるかそのまま捨てる。最終的に表に返した数字の合計が一番小さい人が勝ち。慣れてきたらカード三枚~四枚に増やしてもよい。
【ドブ】
順番に山札をめくっていき、前の人と「同じ数字」が出たら、場に溜まったカードをすべて引き取らなければならない。山札が無くなった時に一番少ない人から順位をつけ、最も多く持っている人がビリ。
「説明書はこれでいいね」
「アラン様、これを清書していたら、早く遊んでみたくなりました。このゴルフという遊びは計算の練習にぴったりですね!」
「紙製のトランプではなくて木製のトランプができたら、使い心地を試しながらプレイしようか」
「そうですね」
翌日になるとユリアから手紙の返事が届いた。印刷機を作った職人を紹介するから土曜の新聞を印刷し終わった後に新聞社に来るようにとのことだった。日曜は休刊だから午後になれば時間ができるそうだ。手紙が届いたのがちょうど土曜の朝の内だったので、昼食後に僕とブランシュは新聞社へと向かった。
「こんにちは、アランです。ユリアさんとお約束しています」
新聞社のカウンターにはこの前もいた、彫りが深くいかつい熊のように屈強な男が立っている。前回は怖くてよく観察できなかったが、よく見ると短く刈り込んだ栗色の髪にこげ茶の瞳をしている。今度は二回目の訪問なのでちゃんと取り次いでくれる。
「社長、お客さんですぜ」
野太い声でユリアを呼ぶ。よく見ると彼の右眉の上には古傷がある。
「ガストン、ちょっとそこで待っててもらって。私も一緒に出掛けるから」
奥からユリアの声がした。
「社長は今来るから待っていろ」
ユリアの声が聞こえているのに野太い声でガストンが言うものだから僕とブランシュは顔を見合わせて微笑む。
「お待たせ。さあ、行きましょう!」
「今週の最終号の新聞は送り出したので、ほっと一息つけるわ」
「日曜日以外の毎日発行するのは大変でしょうね。僕にはできません」
「わたしも」
ブランシュが頷く。
「そうね、今のところは助手が一人しかいないので、もっとスタッフが欲しいわ。私が記者兼編集長をして社長業もやっているし。せめて副編集長を任せられる人材がいれば、私の自由になる時間も増えるのだけれど。あなたを手伝う時間もね」
歩きながらユリアがそう愚痴をこぼす。
「この世界で記事を書くことができる人を探すのがそもそも難しいでしょう。領主様の館で働いていた元文官くらいではありませんか?」
ブランシュが言う。
「元文官?、うん、それはいいかもね」
「あ、それ僕たちのところにも来てほしいよね」
「待ってー、それじゃ争奪戦になっちゃう」
ユリアと僕たちは笑い合った。でも冗談ではないかも。
次は下町へユリアと一緒に出掛けます。神経痛の痛みを堪えながら書いていますが、もしかすると間が空くかもしれません。次回は5/12のつもりですが…




