三十話 「現魔王VS初代魔王」
エヴァルシオンは一瞬にして、アラディアの右腕の鎧を剥ぎ取った。
(これは……『窃盗』……!?)
エヴァルシオンが次にアラディアに向け使用したのは、『スタン』。
しかし、アラディアはそれをかけられていることにすら気づかず、エヴァルシオンを捉える。
その一瞬で、エヴァルシオンはアラディアとの圧倒的な力量差を悟った。
(そうか……『無尽蔵の魔力量』ゆえに、常に身を超高密度の魔力で護っている状態……ルシウスや他の魔族が逆らわないわけだ……)
───アラディアは、遍く全ての魔術を、質と量のみで跳ね除ける。
「素晴らしい……!」
宙を飛び回りながら、エヴァルシオンは考察する。
(だが、あくまで無効化されるのは本人にかける魔術のみ……鎧を奪うだけの『窃盗』は無効化されなかった……それに……)
「〜〜っ!!」
アラディアは、凄まじい魔力の塊を、無造作にエヴァルシオンへと乱発する。
それを躱しながら、エヴァルシオンは嗤った。
(コイツ……やはり争いに慣れていない……)
「このっ……!!」
(私は『魔王』じゃなきゃいけない……! こんなところで負けるなんて……ダメに決まってる……!)
アラディアは魔力を結集させ、天にまで届くほどの巨大な大剣を生成する。
そして、エヴァルシオンへと一気に振りかざした。
衝撃で大地は地平線の先まで真っ二つに割れ、轟音が響く。
(やった……?)
「だが、普通に戦ってもつまらんな……」
「えっ……」
気づけば、アラディアはエヴァルシオンに背後を取られていた。
そして、その手には、奪われた『左腕の鎧』があった。
(また……いつの間に……)
エヴァルシオンは、兜越しに呆然と見つめるアラディアに、ある提案をした。
「そうだ。お前の鎧を俺が全て剥ぎ取ったなら、俺の勝ちにしよう。それまでに俺にかすり傷一つ入れられたなら、お前の勝ちだ。好きにしろ」
「えっ……」
エヴァルシオンはふっと笑うと、手から黒い炎を放った。
「っ……」
その炎が晴れた時には、既にエヴァルシオンの姿はなかった。
(……魔力量が少なすぎて、行方を追えない……! どこ行ったの……!?)
「どうすれば……!」
アラディアは、一つ一つが核のような威力を持つ魔力弾を、辺り一帯に連発する。
その時、自分の過ちに気づいた。
(あっ……仲間に当たっちゃう……!)
アラディアは自らが放った魔力弾に先回りし、魔物の軍勢から軌道を逸らす。
「何をしているんだお前は」
「……あっ」
気づいた時には、足首の鎧が奪われていた。
エヴァルシオンは再度炎で煙幕を作り、行方をくらます。
(まずい……経験も、技術も、レベルが違いすぎる……! 勝ってるのは唯一、魔力量だけ……! どうすれば……!)
エヴァルシオンは、冷静にアラディアの隙を狙い、息を潜める。
(かすり傷……とは言ったが、当たった瞬間に消し飛ぶのは明確。こちらに有利なルール付けをしたまでの事だ……)
「これしかない……!」
アラディアは、全方位に小さく尖った魔力の棘を飛ばす。
エヴァルシオンは、それを見て鼻で笑った。
(味方を巻き込みたくないんじゃなかったのか……?)
しかし、その棘は、エヴァルシオンの魔力を感知すると、それを追ってホーミングしだす。
(なるほど……)
「捉えた……!!」
アラディアは、飛ばした無数の棘に、魔力を込める。
すると、棘が変形し、長い鎖へと変貌する。
「っ……!!」
その鎖は、エヴァルシオンへと絡みつき、完全に動きを封じた。
(これは……抜け出せん……!)
「……ようやく見つけました。私の勝ちです」
アラディアは、巨大な魔力の大剣を形成していく。
それでもなお、エヴァルシオンは嘲笑ってみせた。
「……お前、本気で『殺す』覚悟があるのか……?」
「っ……!!」
エヴァルシオンは確信していた。
コイツは、一度も命をその手で奪った経験がない。
『殺す』事の重さを、まるで自覚できていない。
「……やってみろ。その手で、『命』を終わらせる覚悟があるのならな……!!」
「〜〜〜っ!!!」
アラディアは、魔力の大剣を、分解した。
光の束が、塵になって散っていく。
「……降参……するんですよね……?」
「……誰がそんな事を言った」
「えっ」
エヴァルシオンは舌をベろりと出す。
そして、出した舌が裂け、『口』を作り出した。
「『二重詠唱』……『瞬間移動』✕『窃盗』」
「っ……この……!!」
アラディアは、脚の鎧を剥がれた。
ついに、残るは胴体の鎧と、兜だけになってしまった。
アラディアは、認識を改めた。
(そうだ……本気で勝ちに来てるんだ……! 戦場に持ち込む覚悟が、甘かった……!!)
アラディアは、深く深呼吸をする。
そして、舌をぺろりと出した。
「『八重詠唱』……!」
その瞬間、場を支配していた空気が、一変した。
「『次元支配』✕『時空支配』✕『完全封印』✕『魂破壊』✕『無限牢獄』✕『消滅返し』✕『世界拒絶』✕『破滅』……」
世界が反転し、途切れる。
アラディアが目を開けると、そこには既に肉片のみとなったエヴァルシオンが居た。
「ぁ゙……が……」
「最後の言葉を聞くために、まだ生かしています……言い残す言葉はありますか?」
しかし、呻くだけで、言葉は返ってこない。
「……すみません、加減……できませんでした。今楽にしてあげますから」
しかし、アラディアは一つの事に気付いた。
(集中し過ぎてて気づかなかったけど……胴体の鎧が剥がれてる……)
「……さすがでした」
アラディアは、エヴァルシオンの肉片へ、小さな魔力弾を放つ。
肉片は、呆気なく消し飛び、何もなくなった。
「私の勝ちで──」
「馬鹿が」
「……は」
その瞬間、アラディアの視界が、やけに明るくなった。
「俺の勝ちだ」
「ぁ……ぇ……?」
その言葉の意味が理解できるまで、少し時間がかかった。
そして、ようやく理解した。
全ての鎧が、剥ぎ取られていた。




