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第七十五話 罪人

 エマが椅子からよろよろと立ち上がる。


「大丈夫か、エマ」


「うん……ありがとう」


 クリスが彼女の肩を支え、拷問質の扉に手を掛ける。


 エマは歩こうとしたがうまく力が入らず、地面に崩れ落ちてしまった。

 衰弱した身体、恐怖に震える手。


「あれれ、ずっと昔を思い出しちゃうなぁ」


 エマがぽつりと言った。


 脳内で甦る病院での日々。

 まるで鳥かごに捕らわれたかのようなトラウマが頭の中に浮かんだ。

 死の不安に押しつぶされそうになりながら過ごした病室。


 心臓が胸をドンドンと叩き、息が苦しくなる。


 眩暈が、吐き気が、ヘドロの様な不快感、そして真っ黒な孤独が彼女を襲う。


「――大丈夫。深呼吸して」


 エマがパニックになっていると、隣から懐かしい声が聞こえた。

 彼女の視界が現実に戻り始める。


「大丈夫。手、握って」


 クリスに言われてその手を握る。


 何度も聞いた声のような気がする。エマはそう思った。


 前世でも、あったな。


 こんなことが……


 しかしエマの心臓は変わらずにバクバクと早鐘を突いている。

 それはさっきまでの重い鼓動とは違って、軽いステップを踏むように鳴る鼓動。


 不意にクリスの方を見るも、何故か恥ずかしくて目を逸らしてしまった。


 クリスは変わらず不安そうにエマを見る。


「……あ、ありがとう。もう大丈夫」


 エマがクリスに言った。


 エマがもう一度立ち上がろうとした時、外から声が聞こえて来た。


「何があった!な、何だこの有り様は」


「……」


 クリスはエマを背中に背負うと立ち上がる。


「ま、待って!私重いかも」


 エマが急に担ぎ上げられて焦る。


「軽いだろ。こんなに痩せて、弱ってて歩けねぇよ。嫌だろうけど我慢して、しっかり掴まってろ」


 クリスがそう言うとエマがこくりと頷いた。


「ありがとう」


「じゃぁ、行くぞ」


 クリスがエマをおんぶして廊下を歩いて行く。


 誰とすれ違うこともなく、馬小屋のような場所へ戻ってきて、エマを前にして馬に跨る。

 入口へ辿り着くと、重々しい扉が自動で開いた。


「――さ、帰ろうぜ」


 クリスがそう言って馬の脇腹を蹴ると、彼は再び砂漠へと駆けだした。





「一か月ほどで、健康に戻ります」


 太った看護師はそう告げ、のしのしと部屋を出て行く。


「水いる?」


 クリスは、手を包帯でぐるぐる巻きにされたエマの側で言った。


 病室の窓からは、果てしなく広がる砂漠の風景が見える。

 遠くには揺らめく陽炎、時折風が吹き砂を巻き上げる音が聞こえる。


 外の厳しい環境とは対照的に、煤けた病室内は静かで落ち着いた雰囲気が漂っていた。


「大丈夫。少し落ち着いたし」


 エマは笑顔で返す。


「私、実はクロノス教団の教祖がお母さんなの」


「クロノス教団の教祖と言えば、リリィ……なんとかさんの?」


 エマが頷いた。


「じゃあ、私のお母さんのこと――?」


 クリスは首を横に振った。


「いや、詳しくは知らない。俺ぁ末端にいるからね」


 エマは穏やかに、そして静かに自身の人生について話し始める。


 リリィによって育てられたこと、様々な発明をしていること。

 しかし、唯一、前世の記憶があること話さなかった。


 それは到底信じてもらえないだろうと思ってのこと。


「……で、今の私があるってわけ。是非クロノスに戻って来てほしいなと思ったけど、余計なお世話かな」


 エマがそこまで話し終えると、丁度リラが病室へやって来た。


「エマ、心配したぞ!良く生きていた!!」


 部屋に入るなり、リラがエマに抱きついた。

 リラがひとしきりエマを抱きしめた後にクリスの方へ向く。


「クリス殿、エマを助けてもらい、厚く感謝する!」


 リラがクリスに頭を下げた。


「いいや、エマにデカい怪我が無くてよかった」


「拙者、最初はクリスを指名手配犯だと思って信頼していなかったが、こんなに優しいし、やっぱりあれとは別人だったんだな」


 指名手配犯という言葉を聞き、目を潜めるクリス。


「……いや、あれはホントだよ。指名手配犯……列車の件だろうけど、大量殺人鬼なのは確かかもな。列車のはルーシー先輩に聞けばわかる」


「お主、ルーシーさんを知っているのか!?」


 クリスは頷いた。


「勿論。軍部で世話んなってるよ。色々あってラオに来てて、ここでするべきことを終えたらステティアに戻ろうと思ってるし……半吸血鬼化してしまったのもクロノス関連で」


 エマが閃いたように言った。


「じゃぁ、半年後に私が迎えに来るのはどう?注文さえあれば、クリスのためにとっておきの武器も作っておけるし、私ならクロノス本部の場所も分かるし」


「良いね!それなら半年後、修行を全部終わらせてラオで待ってようかな」


「決まりだな。拙者もステティアで待っておく。それまで、お互いそれぞれの場所で頑張ろう」


 リラがクリスに言った。

 三人は互いに頷き、半年後、成長した姿で再びステティアにて合うことを約束する。





 ステティアの薄暗い路地で一人の男が女の腕をつかんで壁に押し付ける。二人の顔は、まつ毛が触れ合う程密接に近づき、女は顔を赤くした。


「駄目よ。こんなところで」


 黒髪で片眼鏡を付けた大柄な紳士風の吸血鬼が、金髪で麗しい女性の首筋を舐めた。


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