表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/27

第二十六話 情報戦はちゃんとしとけバカ➁

 階段下から上がってきた気配が、ふいに止まった。

 次の瞬間、鋭い視線がこちらを捉える。


 ――見つかった。


 声が上がるより早く、槍の穂先が前へ突き出された。

 ロランの反応は、わずかに半歩遅れる。


「――ッ!!」


 肩口を掠め、ローブが裂けた。

 布の下で生温(なまぬる)い熱が広がり、赤い液体が滲む。


 最前列は槍持ちだった。

 通路は狭く、背後も塞がれている。


 クリスとロランに逃げ場はない。


「ここで応戦するぞ、ロラン!」


 クリスが銀製のダガーで穂先を叩き落とす。

 乾いた金属音とともに、火花が散った。


 だが、この数はさすがに受け止めきれない。

 単純に戦力の数が違った。


「おいおいおい、所詮ガキ二人じゃ勝てねぇぞ!降参しろ、クロノス教の手下共!」


 声の主は一歩後ろにいる。


 敵はざっと見て二十人ほど。

 前列に盾役と槍、その後ろに剣持ちが控える、無駄のない配置だ。


 ロランは応戦しながら、敵ながら整った隊列だと感じていた。


 クリスが踏み込む。

 槍を一本引っ掛け、力任せに引き抜く。

 奪ったそれで薙ぐが、振り慣れていない。

 浅いく、刃も装甲を貫かなかった。


 じわじわと距離を詰められる。

 槍の壁が、若きクロノス教兵士二人を追い詰めていく。


「ロラン。このままじゃ押される。一回、前を消す。目ェつぶれ!!」


「了解」


 短く返す。


 同時にクリスは懐へ手を入れ、丸い物体を一つ取り出した。

 躊躇なく、それを階段下へ転がす。


「いくぜい!!ボカァーン!!」


 クリスが叫んだ直後、空気が割れた。

 光が来て、そのすぐ後に音が来る。


――パァァアアアアアア!!


 階段一面を覆う、白。

 蒸気兵達には、もう何も見えなていなかった。


「何だこれはァッ!!め、目が見えんぞ!!」


「うぎゃあああ!!」


 遅れて、耳が潰れたような感覚が襲ってきた。

 叫び声なのか悲鳴なのかも判別できない音が、階段を満たす。


 ロランは直前に目を覆っていたが、耳への衝撃までは防げなかった。


「何だよこれ、クリス!!」


「フラッシュバングレネードだぜ?エ〇ペックスとか、C〇Dとかで見るやつ……つっても分かんねぇか」


 クリスは悶える敵兵を前に、リボルバーを構える。


「悪く思うな――」


 ――パン。

 ――パン。


 短く、乾いた音。


 一拍ごとに、何かが崩れる気配がする。

 誰かが倒れ、誰かがぶつかり、誰かが叫ぶ。


 ロランの耳に、ようやく音が戻り始めたころ――。


「ク、クリス……!」


 呻き声の中に、驚きに満ちた声が響いた。


 視界が戻る。

 階段下は混乱していた。

 槍は揃わず、兵士たちは目を押さえ、頭を抱えたまま立ち尽くしている。


 いや、立っている者もいるが、床に伏して悶えている者もいた。

 床に伏す者は皆血を流し、激痛に顔を歪めている。


 そしてその隙間を縫うように歩くのは――クリスだった。


 手にあるのは、見慣れない黒い塊。

 ハンスの忘れ形見だ。


――撃つ。


 敵兵の肩から血が噴き出す。


 倒れない。

 だが、隊列は崩れ、兵士は恐れおののく。


「ぎゃぁあああ!!何だこれはッ!!」


――また撃つ。


 引き金を引く動作に迷いはない。

 反動を抑え、ただ淡々と距離を詰めていく。


 殺してはいない。

 それでも、一方的な暴力が彼らを襲った。


 蒸気兵達の肩に、これまで感じたことのない痛みだけが残る。


 不意に、彼らの中の一人が叫んだ。


「ま、魔術だ! 魔法を使いやがったぞ!」


 さらに誰かが叫ぶ。


「一回退け!こりゃぁ……俺達に負える仕事じゃねぇ!!」


 命令と同時に隊列が崩れ、兵たちは負傷者を抱えたまま後退していく。

 混乱した足取りのまま、引きずられるようにして次々と階段の下へ消えていった。


「す、すごい……圧倒的だよ……クリス」


 敵兵が一度退避するとクリスは辺りを見回し、安全を確認してから、ピストルの銃口から出る煙を口でフーっと吹いた。


「俺、これ一回やってみたかったんだよね」





 一方のロータスとカトレアは、ラムズスの待つ部屋の前で足止めを食らっていた。

 護衛兵は十人ほど。廊下を塞ぐ形で陣を取り、奥には短弓を構えた女がいる。


 無闇に踏み込めば、視線の先から矢が飛ぶ。

 狙いは正確で、牽制のつもりで前に出ただけでも眉間に照準が合う。


「……厄介だな」


「牽制します。隙を作るので、距離を詰めてください」


 カトレアは答えると、小刀を数本指の間に挟んだ。

 一本を弓手へ投げる。

 命中はしない。

 

――だが、弓がわずかに下がった。


「ここだなっ!!」


 その瞬間、ロータスが踏み込んだ。

 相手の近接兵が前に出て来て槍を構えるが、ロータスは槍ごと兵士を真っ二つにする。

 敵兵の血がロータスにかかり、鬼神の様な気迫が相手を恐れさせた。


「オラァ!次の犠牲者は誰だ?出てこい!」


 叫びと同時にフロア全体へと圧が走る。


「お前、よくも俺の仲間をォ!!」


 次に立ち塞がったのは、同じ戦斧を持つ男だった。

 互いの巨大な斧がぶつかり、火花を散らす。

 廊下の壁や天井ごと、辺りを全て破壊していった。


 カトレアはもう一度弓手に小刀を投げるが、相手はそれを見事に弓ではたき落とし、すかさず矢を打ち返した。

 放たれた矢は廊下の中央で戦う二人の僅かな隙間を抜け、カトレアの右頬を掠って飛んでいく。


「……思った以上ですわね」


 頬から血が落ちる。

 弓手は次の矢を番え、狙いをロータスに移した。


 丁度カトレアの位置からでは敵が邪魔で、矢の進路へ干渉できない場所で矢が放たれようとしている。


 そして、それにロータスも気づく。


「まずい――」


 相手の弓手はロータスの頭へ向けて寸分の狂いもなく矢を発射させた。

 恐ろしいスピードで接近する矢に、ロータスは避ける暇も無い。

 矢は動いているロータスの眉間に吸い寄せられるように、着実に迫っている。


 ロータスも敵の斧と矢を同時に避けようとするが、どうしても矢の軌道上に頭が来てしまう。


「クソッ!!カトレアぁ!!俺はァお前が――」


 ドスッ。


 血が跳ね、ロータスの顔が赤く染まる。




――敵兵の血で。


 矢が突き刺さっていたのは、ロータスと組み合っていた戦斧男のこめかみだった。

 弓手が一瞬、理解できずに動きを止める。


 戦斧の男は訳が分からず、味方からの凶刃に弓手を睨んだ。


「……何を、している?」


 それを見たカトレアは、艶やかな口元を歪めた。


「私程にもなれば、小刀で人を転ばして……矢の着弾点に頭を持ってくるくらい造作もないですわ。ホホホ……」


 敵兵の足元を見ると、小刀が深く刺さっている。


 矢の進路に干渉できない、味方を動かせない――なら、その間に敵を割り込ませて、敵に矢を当てる。

 それが彼女のとった戦術だった。


 矢が刺さったのは、体勢を崩したその一瞬。


 これにはさすがのロータスにも冷や汗が伝った。


「……お、おぉ……え、怖っ(小声)――いやいや、そんなことやってる場合じゃねぇ!!」


 あっけにとられた敵兵を前に、すぐにロータスが敵の中へ突っ込み、一気に数人ずつ薙ぎ払っていく。

 カトレアも後方から援護し、気づくと部屋の前にいた敵は一人もいなくなっていた。


「オラァ!!おうおうおうおう、一芝居やってくれたなァぁあああ!!」


 そのままロータスがドアを蹴破り、ガタガタと震えているヒッタ派の首領(ドン)、ラムズスを見つける。


「さぁ、私達に洗いざらい、喋ってもらいましょうか。ラムズスさん……?」





「まずい!こいつ強すぎる!」


「やべぇ……銃弾が弾かれんだけどっ!!」


 同刻、クリスとロランは新たな敵と出くわす。


 怯えきった兵士たちの奥から出て来たのは、厚い鋼鉄の鎧を被った巨漢の狂戦士(バーサーカー)


 魔法や科学なんて関係ない。

 圧倒的力(フィジカル)でごり押してくる秘密兵器が、彼らの前に立ち塞がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ