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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第一章 少年編
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番外編➀ クラクーファのその後

 クリスとロランがクラクーファを去ってから、数日が過ぎていた。


 街は穏やかな空気に満ちていた。

 誰の命も奪われず、誰の支配も受けない自由。


 朝には市場が開き、子どもたちが石畳を走り回る。

 夜になれば灯りがともり、酒場には笑い声が響く。


 それらすべてが、かつては当たり前で、いつの間にか失われていた光景だった。


「……ここに残ってほしかったんだけどね」


 小さな礼拝堂の控室で、ピュラは窓の外を見ながら呟いた。


「そうだね。でも、クリス君と、ロラン君にはやりたいことがあるから」


 隣で衣装を整えながら、ヤクブが穏やかに答える。

 二人の視線の先、街の中心広場には、青い光を放つアルマトストーンが鎮座していた。


――不思議だけど、大切な石。


 人の心に反応するように輝き、時に災いを呼び、時に街を守る。

 今はただ静かに、澄んだ青色をたたえている。


「……あの二人がいなかったら、こんな街にはなってなかったね。きっと」


 ピュラは小さく微笑み、胸元で手を組んだ。


「ちゃんと、お礼言えなかったなぁ」


「きっと伝わってる。言葉にしなくても――」


 ヤクブのその言葉に、ピュラはほっと溜息をついて彼の方を見た。


 やがて、結婚式開会の時間が迫る。

 街の人々が集まり、祝福の準備が進んでいく中で――。


 ピュラは、もう一度だけ窓の外を見た。


「……遅い」


 ぽつりと、不機嫌そうに言う。


「まさか、今日まで来ないなんて思わなかった」


「無理に来なくてもいい、と言ったのは君でしょ?仕方ないさ。まだ街との因縁も深いし――」


「それは、そうだけど……」


 ピュラは唇を尖らせる。


「でも、こういう時くらい、父親らしいことをしてもいいのに」


 その言葉には、怒りよりも、寂しさの色が強かった。


 まだ諸悪の根源であるゼリクからの介入はない。

 嵐の前触れのような不穏さも、今は感じられない。

 だからこそ、この時間は貴重だった。



 クロノス教の鐘が鳴り、結婚式が幕を開けた。



 ヤクブはピュラの前に立ち、真っ直ぐに彼女を見つめる。


「ピュラ。何が起ころうと、僕は君を守る」


「……はいっ!」


「誰かが君に傷をつけることは絶対ない……神に誓います」


 誓いの言葉はロマンチックでも、派手でもなかったが、彼女の不安を一瞬にして全て取り払った。


 司祭が一歩前に出て、静かに頷く。


「それでは――誓いのキスを」



――その瞬間。



 礼拝堂の扉が、勢いよく開いた。


 軋む音が響き、人々の視線が一斉にそちらへ向く。

 そこに立っていたのは、一人の老紳士。


 質素だが整った衣服、度のキツい瓶底眼鏡。

 無言で礼拝堂に足を踏み入れた彼は、長年何かと戦い、様々なものを背負ってきた者としての貫禄が出ている。


 だが今日は、少し不安そうに、迷子になってしまった子供の様な切ない表情をしていた。


 ピュラは息を呑み、言葉を失ったまま、その姿を見つめる。


 青く輝くアルマトストーンの光が、窓越しに差し込んだ。

 老紳士の影を長く床に落とす。


「ピュラ、ヤクブ君――。

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