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異世界転生2257  作者: 自彊 やまず
第八章 最終決戦編
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第百二十五話 戦争

 時刻は旧時代の表記で、ちょうど正午だった。

 昼だというのに空は夕闇に覆われ始め、一番星が頭上に現れる。


――常夜(トコヨ)が始まった。





 カシムらゼリク軍本隊はラオ北東の門を(くぐ)り、各地でバリケードを作る革命軍・クロノス教徒との戦闘を始めた。

 ステティアの街は戦場と化し、阿鼻叫喚の地獄となった。


 反乱軍を率いるのはライとロータス。


 何の前触れもない吸血族の強襲だったが、反乱軍の兵士達からその統率力を推され、この二人が選ばれた。


「ライさん!東からユマ教の軍隊も来ているとの情報が」


 ロータスが吸血族と斧を交えながらライに叫ぶ。

 少し離れた場所で、ライもマスケット銃を構えながら答えた。


「ワシも聞いた。今ギリギリ人数で勝っているが、吸血族一人に対して三人で対応している状況。援軍が来たらひとたまりもないぞ」


 ライは弾の無くなった銃を素早くリロードし、吸血族に向けて再び銃弾を放つ。

 暗い街に閃光が走り、銀の弾丸が放たれた。


 弾丸を喰らった名もなき吸血族は、それでも手刀を構ええてライに接近する。

 その刹那、ロータスは大斧を振り上げて吸血族を一刀両断した。


「――そもそもライさん、この戦いの終わりはどこなんスか!クロノス教徒を南に逃がした後は?反乱軍の残りは?逃げながら戦うなんて無茶苦茶すぎるっスよ」


「すまん……助かった……頃合いを見てワシらも退却せねばならん。ルーシーとカトレアに任せた市民達と合流するしかないが、その先は分からん!隣国に助けを求めるか、ビサの隅で耐え忍ぶか」


「八方塞がりってこういう時に使う言葉だった気がするっス」


 ロータスは斧を大きく振って血を落とすと、迫りくる大量の吸血族を見ながら叫んだ。


「――よっしゃ、あと十人斬ったら撤退しましょう、ライさん!」





 一方、エマら四人は町中が炎に包まれ、悲鳴の聞こえる中、やっとの思いで図書館へと辿り着いた。


 皆限界まで体力を使い切り、息も切れ切れに走ってきた。

 地球を救う為の鍵があると信じて。


「着きましたね……エマさん!!」


 ロランは図書館の扉を開ける。

 かつてカシムを逃がしたこの空間に、少し胃が痛くなった。


 頭脳派の面々は図書館の中を通り過ぎ、マンナズ戦の時に訪れた地下保管庫へと直行した。

 大量の古文書が残された保管庫の中で、エマは必死に地球を救う手立てが隠されていないか辺りを探し回る。


「違う!違う!これでもない――これも!」


「落ち着くんだエマ、拙者も手伝う!」


 リラもそれらしい本を探し、エマに持っていく役割を始めた。

 ロランとキリは出口を見張り、襲撃に備える。


 エマは暫くの間一心不乱になって本を探していたが、不意にリラが持って来た山の中から、ある一冊の本が目に留まった。


――“対宇宙災害型地球防衛システム 通称ノアについて”


「これじゃない!?」


 エマはその本を取り、古びた表紙を慎重に開いて、中に記された内容に目を通し始めた。

 ページは時間の経過で黄ばみ、所々読みにくくなっていたが、確かにこの本で間違いないようだ。


「ノアプロジェクト.…..地球防衛システム……大災害への対応策……」


 エマはつぶやきながら読み進める。

 突如として、彼女の目はあるセクションに釘付けになった。


“このプロジェクトは、(きた)る2300年頃における地球規模での隕石群遭遇・地磁気反転・放射線量増加・自転、公転周期の乱れによる極夜または白夜に酷似した現象への対応策として発足したプロジェクトであり、これによって作られたシステムは地球の状態を現在の状態に戻し、フィードバックを負に戻して人間に住みよい地球を保つことができる”


 これを読んだエマは思わず声を上げた。


「隕石群――が来るの?」


 それを聞いた他の三人は自分の耳を疑ったが、エマはそれでも文書を読み進める。


“このシステムはロケットで打ち上げられる仕組みになっており、専門知識がなくても一般の人々が起動できるように設計されている”


「これなら我等にも起動できそうだな」


“ただし、装置を起動する際には現地に赴く必要があり、AIによる状況の確認が行われた後、ロケットの操縦が求められる。これらの手順をすべて完了すると、ノアシステムが作動し、地球全体を覆う電磁防護壁が展開される”


 そして、さらにエマが次のページをめくると、ノアの位置が描かれた地図が現れた。


「これは……この地図は――ルバモシ!」


 そこにはルバモシ島の地図と、ノアの操作方法が事細かに解説されていた。

 元々ルバモシ島は人工島で、ノアの為だけにできた新しい島であることが書かれている。


「そうか、分かった!」


 隣で地図を覗いていたリラが急に手を叩き、エマの方を向いて言った。


「始まりの地にて、母を守りし子、王を待つ。この王はクリスのことだったのだ!彼の出生地に母守りし子、つまり地球を守る装置があるってこと!で、王はクリスだから、冥王の導きをもって救世せんと、星に人集まれり――は、彼をルバモシまで届けるために、皆が結託することを示しているのか!」


 その解説にロランとキリも納得し、キリはまさにそれだと言わんばかりに髪をかき上げた。

 しかし、エマだけは頭を傾け、納得していない様子だった。


「多分……あってると思うけど、何か間違っているような……いや、今はそんなこと言ってらんないね。とにかくルバモシに行かないと。隕石群が地球に降り注ぐ前に!」


 エマはそう言うと、その本を大切に抱えて図書館の外へ向かって走り出す。

 リラ、ロラン。キリもその後を付いて行き、無事外まで辿り着いたが、ステティアの様子は既に悲惨な状況だった。


 各地で炎が燃え上がり、マスケット銃や刀剣による暴力の音が響き渡る。


 空は黒く沈んだ色で頭上に覆いかぶさり、近くから飛んで来た火の粉と共に、無数の星達が人類をあざ笑うかのように煌めいていた。


 突如付近で爆発音がすると、そこから傷だらけになった反乱兵一人と、アーティファクトを手に持った二人の吸血族が現れた。

 吸血族は懐からダガーを取り出すと、反乱兵の胸に突き立てる。


 ここでは秩序も倫理も――何もかもが失われていた。


 エマは咄嗟に進行方向を向いたが、そちらからも吸血族の軍が迫っている。


「早く逃げないと、逃げ場が足りなくなりますね――ッ!」


 キリがそう叫び、瞬時に獣化する。


 彼の顔の形が変化し、鼻が伸び、牙が鋭く輝きを放つ。

 背や腕には毛が生え始め、来ていた服を裂いて大きくなり始める身体。


 目は鮮やかな紺色に染まり、人間だった面影はもうどこにも見当たらなかった。


「ここは任せてください。後で追いつきます」


 瞬時に殿(しんがり)を務める判断をしたキリの言葉に、エマは一瞬迷ったが、彼の決意に満ちた目を見て、すぐに頷いた。


「分かった、気をつけて!」


 彼女は仲間たちを促し、吸血族の軍が迫る方向とは逆へと走り出した。


 キリはその場に立ち止まり、迫り来る吸血族の軍を睨みつける。


 彼の体は筋肉が隆起し、鋭い爪が地面を掘り返していた。

 紺色の目は敵を見据え、まるで今から狩りが始まることに興奮しているようだった。


「来るなら来てください……僕が全て屠りますよ」


 キリは低く唸り声を上げ、敵に向かって突進した。

 吸血族たちはその圧倒的な力に一瞬怯んだが、すぐに攻撃を開始する。


 キリの爪が吸血族を裂き、吸血族の攻撃がキリの分厚い毛皮に阻まれる。

 しかし、いくら体格差があろうともキリの防御力は絶対でないらしく、所々から血も流れていた。


 それでも数を減らし続ける吸血族。

 たった一人の獣人だけで、数十人の吸血族がここまで押されると思っておらず、中には逃げ出す者も現れた。


「バケモンだ!あれは戦っていい奴じゃねぇ!」


「逃げるな!ゼリク様の為に立ち向かえ!」




 そこからキリは数十分、休まず敵兵と相対することになる。


 そしてやっと吸血族が退ききった時、彼は既に全身に傷を負っていた。

 空気銃や銀の剣で貫かれた表面の傷もあれば、吸血族の途轍もない握力によって粉砕された内部の傷もある。


「これで、やっとエマ様の護衛に戻れる……」


 キリがそう言った瞬間、彼の視界の隅におぞましいものが映った。


 その姿は妖艶な美女だが、その体からあふれるオーラは人間のそれとは違った。

 まさに残忍――その言葉がぴったりと合うようなオーラを放ち、口元を血まみれにして近づいて来る。


「あらあら、追いついたかと思ったのに、まだ厄介なのがいたのね」


 キリは女がそう呟いた時、瞬時に受け身を取った。

 彼は頭で考えることなく、本能のみで受け身を取った


――が、僅かにタイミングが遅れ、一瞬で全身を時計台まで吹き飛ばされてしまった。


ドゴォォォォォオオ!!!


 瓦礫の中に打ち付けられ、全身に痛みを感じながら立ち上がるキリ。

 たとえ体の組織筋肉全てが悲鳴を上げようとも、彼の目は未だ闘志を失っていなかった。


「へぇ。私の一撃を喰らって耐えるなんて、何年ぶりなのかしら。やるじゃなァい」


 女はそう言うと、再びキリへと距離を詰めた。

 今度はキリがそれに対応し、カウンターを狙って爪を突き出したが、女は難なくそれを躱す。


「お前が……カーミラだな」


 爪を突き出す瞬間、キリが女に問いかけると、彼女はにこりと笑って答えた。


「えぇ、私がカーミラよ。こんにちは、私の餌食くん」


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