第百七話 金属が降る砂漠の謎➀
「アレックス……暑い。もっと離れてくれ」
「文句言うな。僕だって好きで君に掴まってるわけじゃない……この機械が怖いんだよ」
「諜報班の異端児アレックスさーん?ほんとに異端児で合ってます?問題児の間違いじゃ――」
「――それに、僕は正面切って戦ったりできないから、そこんとこよろしくね」
そう言われたクリスはバイクを走らせながら頭を掻いた。
ただでさえコートを着て、誰にも顔を見られないようフードを被っているのに、灼熱の下二人がバイクの上に跨って、熱くないわけがない。
「クソ暑い。溶けそうだな」
見渡す限り灼熱の荒野が広がる中、クリスとアレックスは最北東にある警察庁へと進んでいた。
荒野にあるのは岩か、毒々しい色のサボテンだけ。
昼を過ぎ、日差しが強くなってきたためか、アレックスは防砂ゴーグルを掛け直す。
クリスにしがみつきながらも、感じたことのない風圧に身を震わせていた。
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クロノスから正式に革命軍へと配属されたクリス、そして諜報班から革命軍に異動したアレックスに課された仕事は二つ。
警察庁の事前偵察と、アダム、シトラス部隊への情報報告。
これは、クロノス教において警察への諜報活動を続けて来たアレックス、シトラスを中心に警察庁を潰し、ゼリクの情報を得るとともに、ビサの中心的な守衛機関を機能不全にしてしまおうという作戦だ。
革命軍がこの国をひっくり返す方法は唯一つ。
――ビサの首都ステティアでの暴力革命である。
もはやだれにも止められない、憎しみの連鎖の最先端を走るのがライだった。
革命を成功させるための警察庁襲撃。
第一段階はクリス、アレックスの偵察。
第二にアダム率いる各地の革命義勇軍、シトラス率いるクロノス軍の突入。
そして最後は警察長官エクス、副長官アオイの捕縛、または抹殺。
ここまで大々的に行われるクーデターは、半分失敗に終わったラオ反乱軍の一件を除けば、第四紀始まって以降初となるだろう。
そのためライとリリィは、これが成功すれば各地で反旗を翻す革命軍がさらに現れると予想。
特に共和制国家ビサにおけるエクスの信頼度は絶大であり、諸国家を征服した時のビサ軍総大将として、彼の正体を知らない民衆からは英雄とも言われている。
彼を政府から外せることができれば――成功が近づく。
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「アレックス、警察庁まであとどのくらいだ?」
クリスが聞くと、アレックスは少し考えてから答える。
「わからん。でもまずフィシニア市を通って、その先に沿岸都市カドラテルがあるから、まだまだ先だと思う」
そんなことを話していると、すぐに二人は砂漠の中にポツンと現れたフィシニア市街を見つけた。
遠くからでも見えるその街は、昔は栄えていたのだろう、錆びた高層建築がいくつもある。
どの建物にも巨大なクレーンと歯車が付けられており、その真下は水源となっているらしい。
数十年前、水源の発見により潤ったフィシニアは国として独立していた。
だが、海岸沿いに作られた浄水技術、高度な蒸気機関技術により衰退。
さらにビサからの征服により“フィシニア市“と呼ばれるまでに規模が小さくなった。
その街はクリスに目に美しく映った。
市街の淡く、寂しげな雰囲気と、未だなお砂嵐に耐え続ける巨大な鉄の塔。
「今日は時間的にもここで一泊だな。いいか?」
そうクリスが聞き、アレックスは了解と言った。
街に入るまであと数百メートル。
二人が街へ近づき、鉄塔を見上げてその大きさに圧倒されていた丁度その時――おそらく後方から、何か光るものが飛んで来た。
クリスがサイドミラーで光ったそれを見て叫ぶ。
「伏せろアレックス!」
その声にアレックスが伏せ、クリスは急ブレーキをかける。
二輪のタイヤが砂を巻き上げて速度を落とした。
その何かはクリスのすぐ近くに落ち、砂埃をあげて地面に突き刺さる。
舞った砂が口に入り、アレックスが嫌そうな顔をした。
東へ向かっていたバイクは丁度北を向いてスライドし、砂漠のど真ん中で止まる。
クリスは“何か”が刺さった西日の方へ眼を凝らす。
「何が飛んで来た……?逆光で見えねぇ」
バイクが止まっても、変わらずアレックスはクリスの背にへばりつき、頭を隠してバイクに跨っている。
「アレックス。一旦降りよう。このまま進んでも避けらんねぇ。敵なら敵で徹底的にぶちのめさねぇと」
短く言い放ち、クリスはバイクを降りる。
アレックスも続き、車体の陰へと身を潜めた。
「刺客の可能性は十分にある。お前、全国で指名手配されてるんだぞ」
アレックスが、バイクの隙間からクリスを覗きながら言った。
そのとき、二人の視界の端に“何か”が映った。
数歩先の地面に、異様な物体が突き刺さっている。
クリスは警戒しながら近づき、その“何か”に手を伸ばした。
「何だ、これ」
それは――ネジだった。
だが、常識外れの大きさだ。
クリスの身長の半分ほどもある鉄塊が、槍のように地面へ突き立っている。
先端は鋭く尖り、もし人体に当たればひとたまりもない。
しかも――指先が触れた瞬間、ネジは微かに震えていた。
まさに今、降ってきたものの正体に違いない。
「サイドミラーが光ったから後方から来たと思ったけど、空から降って来たのか……。にしても何でェ」
クリスが空を仰ごうとした、その瞬間。
「危ない!クリス、避けろ!」
アレックスが全力で叫んだ。
クリスが反射的にその場を離れると――
――ドスッッッ!!!!
さっきまで立っていた場所に、二本目のネジが降って来た。
槍にも似たネジが砂の上に突き刺さる。
砂が爆ぜ、衝撃が足元を揺らす。
一瞬でも遅れていれば、身体は貫かれていた。
「こ、これは刺客からの攻撃なのか?それとも上空で何かが起こってんのか?……んだよこれ!!」
クリスが危険を察知し、バイクの側面に取り付けられたピストルを取ろうとすると、今度は上空から複数の鉄パイプが降って来た。
二人の目にそれが映る。
「クリス!!」
「見えてるぜ!!アホみてぇな数の鉄パイプが見えてる!!」
銀色の凶器が地上へと命を奪いに降りてくる。
「まずい!一度岩陰に隠れないと」
クリスがバイクを置いたまま砂漠を走り出し、アレックスの首根っこを掴んで近くの岩陰に身を潜めた。
「た、退避するのかクリス!」
慌てるアレックス。
クリス達が岩陰に隠れてすぐ、鉄パイプはザクっと音を立てて、砂漠のあちらこちらに刺さる。
それはクリスを狙ったというより、砂漠にランダムに降って来たという方が正しく、クリスもまだこの現象を“攻撃”とは見定め切れていなかった。
「まだエクスには俺たちの位置は割れていないはず……じゃぁ、誰の何?」
クリスは岩陰で頭を抱え、アレックスの方を向きながら言った。
アレックスは眉を顰めながら、それに答える。
「とすれば自然現象か、君の首を取りに来た賞金稼ぎかってところ……僕にも分からないよ」
クリスは岩陰からひょっこりと首を出して空を見渡す。
しかし、ヘリや飛行機等、それらしきものは見当たらなかった。
というか、そんなものが存在するはずもない。
――ここは科学技術の衰退した未来の世界なのだから。
アレックスが腕の時計を見てクリスに言った。
「日が暮れるまで約一時間。早くしないと、砂漠の夜じゃ凍え死ぬぞ」
それを聞いたクリスは、岩にもたれかかってアレックスに言った。
「上等。確実に30分でこれを解明して、30分でフィシニアの宿まで入る。計1時間――十分すぎるくらいだ」




