廃ビルにて
短いです!
廃ビルの一室に、古風な郵便配達員が入って行った。
「兄貴、戻りました」
「おう。上手くいった……訳ねぇな、その格好で」
入り口に背を向けていた男が振り返りながら進捗を訊いたが、弟分の古風な郵便配達員の格好を見て自らそれを否定した。
「おぉ、よくわかりましたねー。速攻でバレましたよ」
「正体がか?」
男が鋭く訊く。
「ん?はい、偽物だって。悪戯だと思われて中には入れませんでした」
古風な郵便配達員の言葉に、男が深く深く溜息を吐く。
「……そっちか……」
「そっちって?兄貴?」
「はあ……」
「兄貴?」
「……当たり前だろ……」
「え?結構拘ったんですけどねぇ。絶対バレない自信あったんですよ?」
古風な郵便配達員は自らの格好をくるくるしながら見回す。
「お前、今が何時代か知ってるか?」
「……?はい」
「じゃぁ、もっと違うのあったんじゃねぇかなぁ」
「え、そうですかね?郵便局員って信用されそうじゃないですか」
「そこじゃねぇんだよ」
呆れた様に男はため息混じりに呟く。
「ん?……あぁ!葉書とかより大きい荷物とかのが良かったってことですね!そしたら、重いですから中まで運びますよ、とか何とか言って中に入れたかもしれないですもんね!」
「その格好でか?」
「え?はい。だって、荷物も郵便局ですよね?あれ、違いましたっけ?」
「そこじゃねぇんだよなぁ」
男が顳顬に指を当てる。
「え?」
「いや、いいよ。お前がこういうのに向いてないってのがよく分かっただけ収穫だ。やっぱ強行突破にするか」
「え、オヤジに怒られません?」
「怒られるだけなら構わねぇよ。回収できなかったら殺されるからな」
「あ、確かに。あはは」
「あはは、じゃねんだよ」
「はい」
男は何度目かのため息を吐くと、腕を組み弟分に訊く。
「……お前、あの結界どんくらいで破れる?」
「んー、結界張った本人が近くにいなければ、三日から五日ですね」
「掛かり過ぎだ」
「いや、強固ですよあれ。兄貴手伝ってくれます?」
「はぁ?」
「ほらぁ。自分一人じゃ無理ですよー。術者がいないのは昼間だけで、夜にはずっといるんですよ?しかも毎日。つまり、無理です。術者がいない日を最低三日は作らないとあの結界は破れません」
「言い訳は以上か?」
「事実を述べてるんですー」
「…………」
男の無言の圧力に、古風な郵便配達員は帽子のツバを摘み、キュッと引き下げて言った。
「……自分と同等かそれ以上の術者があと三人いれば、あそこの術者がいない数時間のうちに結界は破れると思います」
「……」
「……」
ツバの下からチラチラと男の様子を伺う古風な郵便配達員。
「……よし。上に掛け合ってみるか」
「やった!」
「人手が集まらなかった場合、お前、死ぬ気でやれよ。じゃなかったらオヤジが殺る前に俺がお前を殺る」
諸手を挙げて喜ぶ弟分に男が釘を刺す。
「理不尽!!」
「一旦、戻るぞ」
弟分の訴えを華麗に無視し、部屋の奥に歩き出した男は、ふわりと影に溶ける様に消えた。
「ちょ、待ってくださいよー」
古風な郵便配達員が帽子を床に叩きつけるとボフッと白い煙が立ち上り、古風な郵便配達員の姿を包む。
ガラスが割れた窓から風が吹き込む。
煙が風に流され消えた。
古風な郵便配達員の姿ももうそこにはなかった。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
かっぱ太郎です
またまた新キャラの登場ですね。
名前ですね。
彼らが次に出てくる時には名前も判明すると思います!多分……
今後もお付き合い頂けたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします!