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第2章 佐保道、佐紀路 4 秋篠寺

西大寺から北西に歩いて15分のところに

伎芸天で有名な秋篠寺があります。

この秋篠寺は、

山号はなく、宗派はもと当初は法相宗、

後に真言宗を転じて、

さらに浄土宗に属した時期もあるそうですが、

現在はどの宗派にも属さないと言う単立寺院です。

南門から入るといつもながら

雑木林の中に美しい「苔庭」が出迎えてくれます。

「苔」はまるで緑の絨毯を敷き詰めたように美しいです。

そして「本堂」(国宝)は大きくはありませんが、

装飾もなく簡素で安定感のある優美な姿です。

鎌倉時代の再建でありながら

天平時代の金堂様式の寄棟造を踏襲し、

屋根は軽快な優しい勾配を保ち

素朴な本堂を一層引き立てるとともに、

堂内は土間になっています。


薄暗い堂内に入ると、

入口に近い位置に伎芸天が

スポットライトを浴びて立っておられますが、

駆け寄りたい衝動を抑え、

軽い会釈をして彼女の前を横切り、

まずは中央の本尊の薬師如来様と

日光菩薩、月光菩薩の三尊に拝礼するのが

礼儀というものです。


それからおもむろに伎芸天に近づくのです。

像高205.6センチメートルで、

瞑想的な表情と優雅な身のこなしで

多くの人を魅了してきた像です。

頭部のみが奈良時代の脱活乾漆造、

体部は鎌倉時代の木造による補作ですが、

像全体としては違和感がありません。

彼女の顔は真っ黒でエキゾチックです。

やや前傾して伏し目がちで、

見上げると目線が会います。

唇を見ればかすかに開き歌を歌っているように見えます。

また頭を左に傾げわずかに腰をひねったプロポーションです。

さらには右手の中指と薬指を軽く曲げ、

人差し指と小指を伸ばす印は舞踊をしている姿にも思えます。

彼女は意外に肉付きがよく

特に下半身は豊かですが、

反対にお胸はそれほど豊かではありません。

決して今はやりの美人ではなく

1300年近く美しさを保たれたお姿なのです。



伎芸天像は中国では多くの作例があるのだそうですが、

日本では単独での信仰がそれほど広まらなかったこともあり、

現存する古像の作例は秋篠寺の一体のみとされています。

本堂内には先ほどの本尊薬師三尊像(重文)を中心に、

十二神将像、

地蔵菩薩立像(重文)、

帝釈天立像(重文)などが安置されています。


このお寺はふだんは静かなお寺ですが、

6月6日だけは混雑します。

本堂西側にある大元堂で、

秘仏の大元帥明王像の一年に一度の開扉があるからです。

大元帥明王の彫像として稀有の作で、

6本の手をもち、

体じゅうに蛇が巻き付いた忿怒像で、

秋篠寺が真言密教寺院であった時代の作ということです。

その顔を見た者は石になってしまうという

ギリシャに出てくるメヂューサの首を連想してしまいました。

そして当日は、

本堂東側にある香水閣という東門近くにある井戸で

尊いとされるお水が頂けるのです。

多くの方がペットボトルに頂いて帰ります。

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