晩餐
驚くほどあっという間に日数だけが過ぎていった。
試食という名の大食い大会を幾度も潜り抜け、三太の食は明らかに太くなった。もちろん肉体も、と言いたいところだがそちらに関しては思いの外問題なかった。食後の運動と称して文七に稽古をつけられたからだ。
刀や武具を使ったものではない。徒手の稽古。肉体の操作に関するものだった。
猫の姿のくせに何を言っているんだと三太は訝しんだが、その術理には文句のつけようがなかった。
運足だけでなく関節や骨の動かし方、その機能向上の方法。
効率的な肉体の動きを実現することと筋力の向上は比例する。地道な基礎と操作を繰り返し反復するだけだが、それがもっとも辛い。屋敷での地獄のような稽古を思い出す。三太に課せられるのはいつも合理性のないシゴキでしかなかった。
それと比べればどれだけ有意義な時間だったことか。いや、正直キツすぎてすぐにでもやめたいけど。
「三ちゃーん♪ ごはんよーっ!」
全身の筋肉痛と疲労による倦怠感。
睡魔に襲われながらも懸命に意識を保っていた三太の意識にそんな声が届いた。背中に感じる硬い地面の感触と豊満な緑の匂い。思い切り息を吸って、勢いのまま三太は上半身を起こした。
「ありがとーございまーす!」
大声を張り上げ、何とか立ち上がる。
膝は笑っていたがもう慣れた。
何とか体勢を整え、三太は市村ヨネの方へ向かった。
「お。なんでぇ、まだ立てるのか。しぶてえなぁ」
【もう一セット追加しよーぜ】
文七とヨシツネが何か言っているが三太は気にしないことにした。とにかく飯だ。ここで立ち止まればそのまま地獄が続行していまう。冗談のような言い方をしているが目が本気なのだ。
この地に滞在して二ヶ月近くが経過している。
寝食を共にしているのだから、それなりに人となりを掴めてくる。
ヨシツネは典型的な武人だ。稽古狂いで強さの探究、鍛錬に余念がない。特殊な能力を使うがそれにかまけることは決してなく、異常なまでの鍛錬で手にした強さである。
見てくれに騙されてどれだけ煮湯を飲まされたか。三太は最初の数日で自身の稽古不足を思い知らされ、その後は鍛錬の辛さに死にたくなった。
だから、先ほどの発言はヨシツネにとっては本気の言葉だったのである。
なにせ、隣で三太と同じ鍛錬をして物足りなさそうにしているのだから。
そして、文七は、
「ったくよぉ、よっぽどママが恋しいときてやがる。やだねぇ、マザコンは」
なぜか、明らかな悪意で行動している気がする。
事実、ここ二ヶ月の生活で日に日に三太に対する当たりがキツくなっている。鍛錬しかり、対話しかり。三太は逃げるように市村ヨネの方へ早足で向かっていた。
どうしてこうなった。
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