@@@6@@@
ーーーーーーーーーー
side:橋本みどり
ーーーーーーーーーー
私の名前は橋本みどり。
今年の春、高校2年生になったばかり。
高校生活にも慣れてきたし、大学受験にはまだまだ時間がある。
そんなわけで周囲の友達は結構はしゃいでいて、校則を破ることなんかもしばしば。
これが先生の言う、中だるみというやつかもしれない。
でも私には関係ない。
正直な話、私は本当に気が合う人と会ったことが無い。
何人か、友達と呼べるような女の子もいるが、結局上辺だけの関係だと私は思っている。
口を開けばマウントだったり、彼氏自慢だったり。
男子は男子で、こっちをさりげなく見てくるその視線がまず気に入らない。
思春期だからしょうがないか。
自慢してくるのもいいし、青春に熱くなるのもいいんだけど、そうじゃなくて、もっとこう、面白いことをして欲しい。もっとあるじゃん、世の中には楽しいこともすごいこともたくさんあるはずだ。
でも私はひとりでそれを探さなければならなかった。今までも、そしておそらくこれからも。
一緒に探してくれる気の合う誰かが現れる気配が無いのだから。
そんなある日、私の中の『面白いことレーダー』に少しだけ反応する出来事が起きた。
それは今話題となっているニュースだ。
謎の予言を喚き散らす集団が暴れまわっているらしい。
なんでも、これから地球は一変して、ファンタジーな世界になってしまうんだとか。
それが本当ならどれだけ面白いだろう。
どうせそんなことあり得ないと分かっている。
しかしながら、家に帰ってからつい色々と調べてみてしまうくらいには、今の私は飢えていた。
そして出会うことになる。
奥が深い謎のゲームに。
後に頂点を取ることになる人物に。
その人物が毎日投稿しているブログに。
ブログのタイトルはこうだ。
『信じてみることにした皆さんに向けて』
それからというもの、高校に通いつつ、帰ってからはしっかりとゲームを進めるという日々が続いた。
1ヶ月もすれば私はこのブログの主の大ファンとなっていて、毎日欠かさずに熟読していた。
ブログに書いてくれるゲームのヒントや豆知識のおかげでどんどんゲームにもはまり込んでいった。
ほぼオフラインのこのゲームだが、意外とわたしにはこういうゲームが向いていたのかもしれない。
華の女子高生の1年間をしっかりとゲームに注ぎ終わった頃、例の予言の日は明日に迫っていた。
敬愛して止まないブログの主が今日の分を更新した。
内容は実にシンプルだった。
『じゃ、始まったらさっさと次の大陸に行くから。全員集合!』
そんなこと言われたら集まるしかない!
てか多分、ブログの主も本当に集まるなんて思っていないだろう。
自分用のメモ程度にしかこのブログを使う気が無いと本人も以前書いていたくらいだ。
だから今日のメッセージはきっと、ちょっとした遊び心なのだろう。
でも大ファンだから仕方ない。集合と言われたら駆け寄るに決まっている。
次の日、普通に学校に来たわけだが、数学の授業の真っ只中にそれは起こった。
大地震が校舎を襲ったのだ。
これがちょっとした地震であれば、そういう非日常にワクワクしだす生徒がいるものだが、今回のはあまりにも揺れが大きいため、どうやら恐怖の割合が多くを占めているようだ。
まあ、私はみんなには申し訳ないけどかなりワクワクしていた。『あー、はじまるんだなぁ』と思った。
揺れがおさまると、今度は教室が、いや校舎全体が違う意味の悲鳴でこだまする。
それはそうだろう。教室に、この世のものとは思えない異形の化け物が現れたのだから。それも一度にたくさん数え切れないほど。
でも私はその数が分かっていた。今教室にいる人数分だ。
だってそのモンスターたちは、、、
みんなの親衛モンスターのファーストなんだから。
謎の預言者が残した情報によれば、
『もし来たる日までにゲームを開始せず、ガチャを引けていなかった場合、ランダムにレア度10以下のモンスターが与えられ、それが親衛モンスターのファーストに自動で指定される』
ということらしい。
つまりこの場には、先生と生徒、そしてそれぞれのファーストが大集結しているわけである。
辺りは今までに見たこともないような緑の光が照らされ、明確に世界が変わったことを示唆していた。
先程まで教室だったはずのこの場所も、見慣れない空間に変わっていた。
というより、校舎そのものが跡形も無く消えていた。そのことがいっそうみんなの混乱を大きくさせた。
空は緑で、地面はくすんだ銀色。
空から降り注ぐ光の一部が地面から跳ね返ることで、より一層周囲の緑を濃くしていた。
こんなとき、生徒を守り、導くはずの先生でさえ、ありえない光景に呆然とするばかりだ。
しゃがみこんで震える者、とにかく大声で泣き喚く者、走ってとにかくこの場から離れようとする者、反応は様々だ。
そんな多種多様な行動を見て、
『この人たち、初めて面白いことしてくれた』と思ってクスっと笑った私は多分頭のどこかがおかしいのだろう。
阿鼻叫喚の地獄絵図も面白いけど、私にはもっと面白いことが待っている。
そう、次の大陸に行けば彼がいるんだ。
わたしは、足元に佇む銀色のドラゴンを撫でる。
『そろそろいこっか。シール。』
レア度88
種族名:銀疾風グランSX
彼と色違い♪
我ながら気持ち悪いな、とちょっと思う。男がストーカーしたくなる気持ちってこんな感じなのかもしれない。まあ正確には色以外にもだいぶ違う点も多いから、きっと大丈夫!
誰に何の言い訳をしているのか分からないが、とにかくそんなふうに自分を納得させると、さっそく銀疾風グランSX(シールと呼んでいる)に跨った。
レア度10以下のモンスターたちと比べて、シールはひとまわりほど大きいので、飛び立つときには流石に周囲の注目を集めたが、それも一瞬のことだった。
みんなそれどころではないからだ。
大きなモンスターが勝手にどっかに飛び去ってくれたことはむしろ朗報に分類されるかもしれない。
みんなのこと、嫌いでは無かったよ。頑張ってね!
こうして私は旅立った。彼が向かうであろう、次の大陸を目指して。