第1話 遊戯神
「やあ、桐生紅輝君」
「ど、ども...」
俺は今まで無限に感じる程滞空(?)していたのに、気付いたら椅子に座っていた。木製の椅子だ。
「? 僕の顔に何か付いているかい?」
「いや...」
俺は目の前の優男から視線を逸らす。
目の前の優男白のジャケットと同じ色のズボン、手には武骨なデザインのステッキ。そして頭部には白のシルクハットを被っている。
とても胡散臭い恰好をしているが、問題は優男の声だ。
俺の耳に間違いが無ければこの声は俺が落ちて来る(?)前に聞こえたものと同じだ。
「おっ、正解。良く解ったね」
「まあ、声の聴き分けには自信あるんで...」
アニメにハマると「このキャラクターの声って誰が演じてるんだろう」と思う。そしてそれを繰り返しているうちに「このキャラクターは●●さんか!」となる。俺はオタクだ、異論は無い。
「そうだ、アニメで思い出した。君をここに呼んだ理由なんだけど」
「その前に幾つか良い、ですか?」
「うん、良いよ。敬語も慣れないだろうし、それも良い」
では幾つか質問をしよう。
「まず、あんたは他人の心を読めるのか?」
一応こういう場合のテンプレ質問は身に付けている。中二の時に、な...
「読めるよ。但し僕は表層の心までしか読むことが出来ない、深層までは...僕には不可能だろう」
「...じゃあ次、あんたは神的な存在なのか?」
優男はこくりと首肯する。
「何故そう思ったのか訊いても良いかい?」
「ん? 心が読めるなら分かるんじゃないのか?」
優男は両手を少し上げて首を竦める。
「僕は目の前の人間の思い付いたばかりのことでなければ読むことが出来ないんだよ」
「...勘だよ」
今まで読んできたラノベではこう言った質問をするのがテンプレなんだよ。
「そうかい。質問は以上かな?」
「ああ」
なら今度は僕が話をするね、と前置きをして優男が話し始める。
「君をここに呼んだのは君を元居た世界とは異なる世界に転移させてあげようと思ってね。ああ、異世界とは言っても現代に―――」
「って、ちょっと!」
どうかしたかい? と優男が首を傾げる。
「俺って死んだのか?」
「え?」
「え?」
上が優男で下が俺。
優男の方は単純で素朴な「え?」であり、俺の「え?」は「え? 違うの?」という意味である。
「えっと、何でそう思ったのかな?」
「えっ...勘..」
優男がゴホンと咳払いをして、一体どの様な状態で呼ばれたのかなどの説明を始めた。
◆◇◆◇
「つまり俺は死んでなくて健康体で呼び出された。それで異世界に行ってほしい。そんでもってあんたは神様の一柱である遊戯神、と...?」
「随分と掻い摘んでいるけれど...それで誤りは無いよ」
トラックにも轢かれていない、巻き込まれてもいないのに異世界に転移するなんて...型破りと言うか何というか...
まあ、死んでいないならそれに越したことは無いけど。
「それでさっきの続きなんだけど、君には文明レベルが君の居た世界と同じくらいの世界に行ってもらおうと思う」
「その世界に魔法は?」
「似た様なものはあるよ」
「モンスターや魔物と言った生物は?」
「似た様な生物は存在しているよ」
何だかはぐらかされている様な感じでイライラする...
「ごめんね、僕が言いたかったのは―――」
「―――これから君に行ってもらう世界にはVRとARの技術が複合して発展したMRが存在しているっていうことだったんだよ」
”優男”と言うワードが出てきますが、本作では『上品ですらりとしている』『性質の優しい男』と言う意味で使っております。




