第0話 Prologue
一話あたりの文字数は千字を目処にしております。矛盾点・日本語の誤用等に気付かれましたらお知らせ下さい。
幼い頃、毎週日曜日の朝にテレビの中で敵をやっつける正義のヒーローに憧れて、小学校高学年から中学入学にかけてゲームの中で聖剣を振るい魔王を討伐する勇者に憧れた。
そして中学二年から今―――高校二年―――に亘り、デスゲーム小説の主人公に憧れの念を抱いている。
人間、その都度その都度憧れる対象が変わる。それは自身の感性が大人びていくのと、周りの環境の変化が大きな要因になるだろう。
「ふう...」
俺―――桐生紅輝は今しがた読み終えたお気に入りのラノベを膝の上に置く。このラノベはもう数十周目になる程読んだ。主人公のセリフも全てとは言えないが大半は覚えた。
本当に面白い読み物とは何度読んでも心動かされ、カッコいい描写があれば身震いする程の物を指すのだろう。
俺は膝の上に置いたラノベの内容を思い出す。
超有名レーベルから出版されていて、超人気イラストレーターがキャラクターを描き、初作にして文庫大賞を獲得するような天才作者の手掛けた、今では誰もがタイトルを聞くだけで「ああ、あの小説ね」となるようなアニメ業界に嵐を巻き起こした超有名作。
書籍化・漫画化・アニメ化は尚のこと、劇場版が既に三作も上映され今年の春に第四作目が上映される予定。
とても良い。
文章力の無い俺がこの作品、否、神の書物に感想を付けるなんておこがまし過ぎる。
「VRMMO早く開発されないかな...」
呟いたのは読み終えた読者が必ずと言って良いほど口にする言葉。
俺の生きている時代は現代。VRMMOなんて開発されていないし、そもそも研究されているのかすらもわからない。
そうとは分かっていても憧れてしまうのが人間という生き物なのだ。と俺は思う。
実際俺なんてデスゲーム化した世界に囚われたら発狂するだろうし、すぐに脱落してしまうだろう。
嬉々として前線に立つ者なんてほんの一握りの人間だけだ。
「VRMMOの存在する世界に行きたい...」
俺には迷惑を掛ける家族も...居ないことは無いがあまり心配はされないだろう。それに友達が居ない。デスゲームとまでは言わないが、『仮想現実』と呼ばれる空間に脚を踏み入れて剣を握ってみたい。それこそ、このラノベの主人公みたいに現実は普通のゲーマーでVR内では頼りになるような...
「ま、無理か...」
せめて生きている内に開発されないかな...
『お、やっと繋がった。桐生紅輝君、君の願いはこの僕が聞き入れたよ』
「は?」
頭の中に直接? いやしかしそんなことあり得る筈が...
それに俺の願いを聞き入れるだって? VRを開発してくれるって言うのか?!
混乱が渦巻く中、俺は正常(?)に働いている頭で考える。
『んー、繋ぎ続けるの面倒くさいからこちらに招待するよ』
本当にめんどくさがっている様な声音が頭に響く。
それと同時に俺は今まで感じたことの無い程の浮遊感を感じた...って
「ええぇぇぇ!!」
まるで特大の落とし穴に落ちた様な。
マンションの三階に住んでて階下にも人が住んでる筈なのに!
俺は絶叫を上げながら暗闇に落ちて行った。