プロローグ
「……空っぽな人生だったなぁ」
働き詰めで、気づけば末期の癌。
親より先に死ぬ親不孝。
見舞いに来てくれる友人もいない。
会社の同僚も、中身のない返事の連絡だけで終わり。
男は人生を振り返ると、本当に何もなかったなと笑う気すらしない。
勉強も運動も普通。共働きの両親、家は貧乏でもなければ金持ちでもない。
彼女はいたことがあるが、結婚まで至らず。別れた理由もひどいものだった。
『真面目過ぎて、つまんないの。ごめんなさい』
真面目に生きていればいいことがあると思っていたが、そんなこともないと思わされた瞬間だ。
けれど、今さら生き方を変えようとは思えないし、男にはそんなに器用なことができなかった。
ただ、今は結婚を決めた人がいなくてよかったと思うだけ。
真面目に働いて、ボーナスを全額奨学金の返済に充てて、小学校から大学まで風邪以外では出席したけれど、皆勤賞はなし。
大学の面接では数社落ちて、第五志望の会社に十年間勤めた。
その結果が、これ。
「もっと……遊んでおけばよかったなぁ」
同年代のSNSは、常に友達や恋人と大盛り上がり。同年代に誕生日を祝ってもらったことはないし、制服でテーマパークに行ったこともない。
最近では、結婚報告や子供を授かった元友人たちもいる。
それに加えて、自分はネットサーフィンと、オタク趣味を楽しむだけ。
それでもいいじゃないか、独身貴族最高と思いながらも、本当は心の底から羨ましいと思っていた。
表面上は気にしてないようにしても、内心では羨ましすぎて血の涙が出るくらいだ。
「……まぁ、もう遅いか」
癌だと言われても泣かなかった。
ああ、ここで終わりかと思っただけ。
本当にただそれだけだったのに。
「……ああ……今になって、泣けてきた」
人生を振り返ると涙が止まらない。
もし、次の人生があるのなら……。
今度は青春したい、友人たちとバカ騒ぎしたい、制服でデートしたい、結婚したい、家族を作りたい。
最後に人生を振り返ったとき、いい人生だったと笑えるようになりたい。
「次……こそは……」
そんな思いを胸に抱きながら……。
――心電図から一定の高い音が鳴り響いた。
男は、強い後悔を残したまま、息を引き取ったのだった。




