37話 死刑囚の話
ラヴェルは揺れている。
狭い馬車の中で両腕を縛られ、馬車の揺れに身を任せている。
女を殺した後、ラヴェルは裁判にかけられ呆気なく晴れて死刑囚となった。
約二十人の使用人と一人の貴族を殺した罪は重い。
だが、ラヴェルはそれで満足だった。
それはなぜか。
数十人の犠牲で未来ある子どもたちが空の下を歩けるようになったからではない。
それは、自分の意志で自分の道を選ぶことができたからだった。
死刑囚になるなど、父親も屋敷の女もラヴェルに求めようとしなかった。
そんな道を自分の手でつかみ取れただけでラヴェルはこの上ない喜びに浸ることができる。
そうこうしている内に馬車が止まる。
死刑までに時間はどれくらい残されているのかをラヴェルは理解していなかった。
もしかしたら、今日なのかもしれないとぼんやり考えていると、急に馬車のドアが開かれる。
「おや、意外と元気そうですね」
「ああ、元気がある奴は良い。よく働いてくれるだろうからな」
白い耳と尻尾を生やした狐獣人と、艶やかな赤髪の男が目の前に現れる。
「テメェらは誰だ」
ラヴェルは威嚇するが、二人は全く動じない。
「元気すぎるのも考えものですね」
「全く元気が無い奴よりもましだろう?」
むしろ、悠々とした態度で話に花を咲かせている。
死刑が行われるのを待っていただけだというのに、この妙に緩い雰囲気に違和感を覚える。
急に赤髪の男に手錠を引っ張られ、引きづるように馬車から降ろされた。
抵抗してみるがびくともしない。
そうして謎の建物に連れていかれ、じめじめとした地下の牢獄に突っ込まれる。
「オマエらオレに何をしたいンだ!」
「まあ落ち着け、今日からお前は俺たちの仲間だからな」
檻の向こう側で赤髪の男はニカッと笑う。
「仲間だァ?オレは死刑囚だ、これからオレに待ってンのは電気椅子だぞ」
「死ぬ覚悟はこれからも持って貰いますので大丈夫ですよ」
狐耳の男は興味無さそうに手元の紙の束を眺めている。
だが、徐に顔を上げ、特徴的な糸目を見開いた。
その目はラヴェルの瞳と同じ血の色を帯びている。
「貴方からは同じ匂いがしますね」
「ハァ?何言ってんだ」
「獣人と書かれているのに貴方からは魔力の流れを感じますから」
檻に顔を近づけた狐男はそっと囁く。
「まさか魔族がいるなんて」
「……」
そう言われてラヴェルは黙り込んだ。
「魔族だったとは、珍しいこともあるなあ」
赤髪の男は驚くような表情を浮かべるが全く動揺していない。
「魔族と言っても私は妖狐で、彼は吸血鬼ですから種族的な差は大きいのですが」
「へ~そういうものか」
まさか自分と同じ魔族と地上で出会うことがあるとは驚きだった。
「魔族は勝手に魔界から出ることを禁止されている、何故オマエはココにいるンだ」
「質問をそっくりそのまま返したいところですが、貴方が地上にいる理由は分かり切っていますよ」
父親は人間にラヴェルを高値で売りつけたのだ。そこまではラヴェルも知っている。なぜなら、魔界から地上に出た時に空気中の魔力の流れが全く異なっていたことを感じ取ったからだ。
「私の一族は魔界を追放されていましてね、でも何をやらかしたかは私も知らないんです」
「何かしらの罪を犯した先祖に感謝だな、じゃなきゃヨツキは今ここで副団長なんかやっていなかっただろう?」
「そうですね」
二人は穏やかに笑い合う。傍から見れば仲睦まじい様子かもしれないが、それが牢獄の前で行われている会話であると考えると、頭が可笑しいとしか言いようが無い。
「オマエらの目的はなんだ、オレに何をさせたいンだ」
一瞬にして二人の視線がラヴェルに注がれる。
「この帝国の崩壊」
「それと再建ですね」
静かに怒りを顕わにした赤髪の男とそれを優し気に見つめる狐耳の男。
二人はどこか歪んでいる。
そうじゃなきゃ、こんな性格になぞなっていないだろう。
だが、そんな彼らがこれから何を起こしていくのかラヴェルは気になった。
「オレは何をすればいい」
ラヴェルという男自身も既に随分と歪んでいるのだから。




