14話 白獅子の騎士団
灰色の騎士団服に着替えてから建物の外に出るとテテとラヴェルが二人で会話している後ろ姿が見えた。二人に近づいていくと何を話しているのかが聞こえてきた。
「ラヴェルさんって言うのですね!これからよろしくお願いします。それにしても騎士団服が似合いますね、麗しの騎士様って感じがします!」
こんなに優しそうな少女が元死刑囚だとは誰も気づかないだろう……っていうかなんでこいつがいるんだ?それに二人の元死刑囚と行動するなんて心臓が何個あっても足りない!
「そりゃアどうも、狐野郎に半ば強制に磨かれたお陰だな。ところであのチビはいつ来るんだ?」
「チビって呼ぶな!!」
やっぱりこいつが相棒だなんて考えられない。こいつがいて仕事になるのかが心配でたまらない。解消できないか今度団長に聞こう。
「スゥさんが来ましたのでそろそろ出発しましょうか」
テテはスゥとラヴェルの顔を見て微笑むとくるりと背を向けて歩き出した。ラヴェルとスゥもテテの後ろを付いていくように歩き出す。
「第1騎士団の駐屯地は第6騎士団から少しばかり遠いのでいつもは馬を使っていますが、今回は歩きながら自己紹介や仕事内容をお二人に話そうと思います」
テテは俺らがちゃんとついてこられているかチラチラと後ろを振り返りながら話す。……ところで、なんで二人は死刑囚になってしまったのだろうか。気にならない訳では無いが、無闇矢鱈に聞く訳にもいかない。取り敢えず今は仕事の方に注力しよう。
「そういえば、急いでいるんじゃなかった?」
さっき、テテは急いでいたから転んで書類をまき散らしていたのではなかっただろうか。
「先ほどまではそうだったのですけど、副団長がラヴェルさんを連れて来た時に嫌がらせの話をしたところ『できるだけ遅れていけ』とのアドバイスを頂きまして」
「副団長らしい助言だな……」
ラヴェルを地下室で脅していた時を思い出してしまう。やっぱり怖そうな人だ。
「ハッ、アイツの話はもう聞きたくねェ」
うんざりとした表情で隣を歩くラヴェルを見上げると視線に気づいたラヴェルが俺を横目に言葉を続ける。
「にしても、こんな弱そうなチビを騎士団に入れるなんて、あのダンチョーは何を考えているんだろうなァ」
ニヤニヤと品もなく嘲笑するラヴェルにテテが口を開く。
「スゥさんをそんなに虐めないでください!私の書類を拾うのを手伝ってくださったのですよ。とても優しい人なのですからね」
ぷくーっと頬を膨らませて怒るテテが可愛いと思う一方、年下の少女に庇われる自分が情けなく思った。
恥ずかしさと優しさで胸が痛い。
「元死刑囚に優しくしてくれるヤツなんか中々いないもんなァ、だって本当は死ぬべきなんだから」
その言葉を聞き、口角を上げて見下すように話しているラヴェルを睨みつけた。
「おい、だからって言っていいことと悪いことがあるんじゃないか?」
「ハァ?オレは間違ったことなんて一言も言ってねェよ」
恐ろしい剣幕で言い争い始めた俺とラヴェルにテテの真剣そうな声が掛けられる。
「その話は第6駐屯地外では止めましょう。ここでは誰が聞いているかも分かりません」
テテに掛けられた言葉にはっとした。元死刑囚を騎士団員として雇っているという話を知る人は第6騎士団員以外いないだろう。そんな話を外で話すのは危険だということは馬鹿でも分かる。
「ごめん……」
「……」
ラヴェルがつまらなさそうに街並みを眺めているのがムカつく。こいつから吹っかけて来たというのになんでこいつはこんなに自然にいられるのか。
「さぁ着きましたよ」
雑務の説明を聞きながら暫く無言で歩いていると荘厳な門の前に着いた。
「ここが、第1騎士団……」
白を基調とした建物群は日光を反射し神聖さをこれでもかと感じる。門をくぐると門を警備していた騎士が汚い物を見るような目で三人を見てきたが、敷地内に入ると、通り過ぎる俺たちを物珍しそうに眺める騎士も多く見受けられた。
「言いたい事があるなら言りゃアいいのにな」
ラヴェルはそう小さくつぶやいたが、不快であるという表情は隠し、人好きのする笑みを貼り付けていた。
こいつ、隠す気はあるんだな……。
その後、何棟もの建物の間を通り抜けると、一際大きな建物が目の前に飛び込んで来た。白い外壁にはいくつもの細やかな彫刻が散りばめられているのが見える。一体この建物一棟にどれくらいの資金が必要だったのだろうか。テテは足を止めると二人に向き直る。
「さて、これからこの書類を副団長に届けます。ご存じかもしれませんが私たち第6の主な仕事は他騎士団の雑務です。雑務と言われれば一見簡単なものだと思うでしょう?しかし様々な騎士団を行き来しているうちに仕事をいくつも押し付けられてしまいます」
「だから忙しそうだったのか」
「ええ、そうです。ですのでお二人さん、仕事を押し付けられそうになっても頑張って断りましょう!て言っても私はあまり得意じゃないのですけど……ま、まあ気を改めて、お二人さん心の準備はいいですか?行きますよ!」
書類を届けることに心の準備が必要なのか。そんなに緊張するのか、怒られたり蔑まれたりするのか。怖くもあるがそれよりも今は好奇心が勝っている。息を飲み、じっと扉の方を見据える。
テテが恐る恐るドアノブに手を伸ばし金属製のそれをゆっくり回し手前に引くと植物などの繊細な装飾がなされた重厚な扉が音を立てて動き始めた。
身体を滑り込ませるように中へと入ると大理石の床と彫刻が彫られた高い天井がそこには広がっていた。騎士が疎らに見えるが、扉付近にいた騎士は俺たちに気づきはじめたようだった。
「副団長の執務室はこの建物の5階にあります。今は騎士たちの訓練時間外なので副団長は部屋に居るはずです」
テテがそう言うと三人はすぐに階段を上り始めた。ある者は備品の整理を、ある者は訓練場の掃除を、ある者は報告書の添削を、騎士とすれ違う度に雑務の話を持ち掛けられた。しかしテテは固い意志を心に宿していたようで、それら全てを断り続けていた。もちろんラヴェルと俺も話しかけられたが全て無視しその後、騎士たちは嫌味を言って去って行った。それから長い階段を上り続け、4階から5階に繋がる階段に差し掛かった時、前方から性格の悪そうな笑い声が聞こえて来た。
「これはこれは『落ちこぼれ』騎士団の騎士様が書類を届けに来てくれたようだな!」
「落ちこぼれだからこんなに仕事が遅いのね」
「可哀そうに、簡単な雑務をこなすぐらいしか能が無いのだから許してあげましょうよ、アハハ!」
知らない三人の騎士が上からテテたちを見下ろしていた。
なんだこいつら。性格は明らかに最悪だが身なりは良い。どこかのお坊ちゃんとお嬢さまなのだろう。仕事もしないでこんなところで油を売っていても大丈夫そうな事からコネか何かでこの騎士団に入ったことは何となく察せられる。
テテはそれに反応を見せず、避けるように三人の横を通ろうとした。しかしその僅かな隙間を埋めるように三人の内の一人が前へ出て来た。
「何か言ったらどうだ?雑用係ちゃん?」
嘲笑うその騎士に対して、テテはしばらく眉を寄せていたが、至って冷静に勤めて言葉を紡いだ。
「私たちは副団長に用があって来ました。道を開けてください」
「その書類を届けるように頼まれていたのだろう?俺たちが預かっておこう」
そういってその男はテテが抱えていた書類に手を伸ばした。テテは躊躇いも無くその手を払いのけると声を張り上げて怒鳴った。
「いつも仕事の邪魔をしないでください!」
騎士たちはテテの大声に一瞬驚いたが、直ぐに怒り心頭といった様子に変わった。不味い、こいつらを怒らせたら一体どんな行動に出るのやら。ロビンにはテテを見守れと指示されたが、止めていいものだろうか。
「なんだと?貴様が我々に口答えするなど許されると思っているのか!」
「騎士という身分としては私とあなた方は同じ立場です!それに、私に命令できるのは第6騎士団員だけです!」
テテの言葉を聞き怒りで顔を真っ赤にした騎士の一人が素早く剣を鞘から抜き振り上げてしまった。それを見て冷や汗が出る。
流石に他騎士団員との衝突は不味い!




