メリーバッド・エクスマキナ
やっほ~! オタクくん、見てる~?
魔王様とたっぷり楽しんだ俺は、エルシーの体に戻って軍のお仕事中だぜ!
ここは進行部隊の作戦室で、でかいボードに人間界の地図とか魔力の計測結果のメモが書かれてるぞ!
⋯⋯アレックス?
アイツなら、魔神の大樹に手足を取り込まれて拘束されてるよ。
俺としては、さっさと魔王アルバの果実に閉じ込めて、悪魔化させても良かったんだけど⋯⋯。
魔王様が、見せしめのために暫く磔にしときたいって言うからさ。
アレックスは、玉座の飾りになってるよ。
アイツの心情? さあな。
魔王を倒せばエルシーは正気に戻るとか、幸せな夢を見てるんじゃないか?
アイツの体に入ってた時、魔王アルバに俺が触るたび、エルシーに対する罪悪感とか結構伝わってきたし。
そのうち、パーンと弾けて悪魔になるんじゃないかな。知らんけど。
てかさ、オタクくん。
俺が話したかったのは、男の話じゃねぇんだよ。
俺の目の前に現れた、この女の子を見てくれないか。
純白の翼を背に生やし、頭の上には光のわっか。
銀髪で、端正な顔立ちの美女。おっとり感のあるキュートな娘だ。悪くない。
服は着てるか着てないかでいうと、たぶんそう? 部分的にそう。
細長い布がくるくると体に緩く巻きついて、なんか上手いこと視線を切ってる。
「これはまさしく天使だァ──ッ!!」
俺はガタン!と椅子から立ち上がった。
ボードに兵士のリストを貼っていたジルケアが、叫び声に驚きながら振り返る。
「うわっ! 天使!? どこの配下だっ? エディス様の遣いじゃないよね!?」
「えと、はい。冬神じゃないです。びっくりさせて、ごめんなさい」
天使がぺこりと頭を下げる。
「私、愛の神マウラの神遣で、フタルと言います。違法転生者の方に、天界主神殿からの伝言がありまして⋯⋯」
「天界主神殿?」ジルケアが首を傾げる。
「ええと、平易な言い方をすると、神々の政治機関みたいな? 勇者の選定方法を話し合ったりしてるところです」
「違法転生者って、なんか俺が犯罪者みたいじゃん。俺はあの女神に無理やり連れてこられただけなんだけど⋯⋯」
「はわわっ! すみません! 後で議会に区分と呼称の見直しを提言しておきます!」
天使のフタルが、わたわたと翼を揺らしながら謝罪する。
彼女の上司は、愛の神マウラだと言っていたが⋯⋯。
それが本当なら、かなりの有名どころだぞ。
縁結びや家内安全、子孫繁栄の加護を与える神様だからな。大抵の人間が、人生で四回はお世話になるとまで言われてるほどだ。
俺、というかエルシーも、赤子の頃に「子供が健康に育つように」とマウラ様の神像に一家で祈りを捧げたと言う。
神話においても、天界で三番目に偉いとか強いとか、そういう記述が山のようにある。
「マウラ様の天使が、俺に何の用なんだ?」
「はい、それは、勇者資格の剥奪についてです。
魔王軍による侵攻が激化したことにより、勇者に授けるべき加護はもっと強大なものでなくてはいけなくなりました。
しかし、あなたとアレックスさんを勇者に推薦した浄化の神では、十分な加護を授けるだけの力はありません」
確か、浄化の神には、冬の神エディスが印象操作を仕掛けて、信仰を削いでるんだよな。
小物になったと噂されてる神様が勇者のバックにつくよりも、天界最強の神様が出ていったほうが民衆のテンションも上がる。
疑念の発生を抑制しながら、信仰を集めるには、ここで選手交代するのがきっと打ってつけなのだろう。
「それに、浄化の神による違法転生の問題もあります。勇者に選ばれた者が、三千世界の関係者なんて、天界としては困りものなんです。
誠に勝手なお話ですが、天界主神殿の皆様は、アレックス・ホーリーソン、及びエルシー・マッドリバーへの勇者資格を剥奪することに決めました」
「⋯⋯専門用語が多くて、よくわかんないんだけど⋯⋯。つまりは俺もアレックスもクビってことだよな」
「はい、そうです。聖剣や鎧などは返還されなくても結構ですが、霊力供給が打ち切られるので、性能は普通の剣と鎧と同じになります」
天使のフタルが説明する。
⋯⋯エルシーは明らかに冷遇されてて、そういう神聖な装備みたいなの、ひとつも貰ってないんだけどな。
ともあれ、魔王との対立ポイントは無くなったってことなのか。これからは、大手を振って悪魔たちに仲間の顔が出来そうだ。
アレックスには、酷な展開かもしれないがな。
アイツ、魔王を倒すためだけに、ずっと修行し続けてたし、急に放り出されても路頭に迷っちまうだろ。
⋯⋯まあ、そんなこと、例え幼馴染みの元婚約者であったとしても、俺の知ったことでは無いが。
「天界主神殿からの言伝は以上です。では、私はこれで失礼しますね」
フタルが丁寧に一礼し、ばさりと天使の翼を羽ばたかせる。
俺は慌てて彼女のことを呼び止めた。
「待って、フタルさん!」
「⋯⋯なんでしょう?」
「フタルさん、俺のハーレムに入りませんかっ!?」
純潔の女神の配下ならノーチャンスだが、愛の神ならワンチャンス。
天使に会えるなど早々ないし、俺は思いきりよくナンパした。
「側室? あはは。そういう誘いは、本妻を用意してから言うものですよ。それとも、貴方の本妻は、魂の内側にいる人だとでも言うつもりですか?」
天使のフタルは、笑いながらナンパの言葉を軽くあしらった。
彼女はそのまま転移魔法を起動して、春風のように軽やかに薄く消え始める。
「私をハーレムに誘うなら、まずはマウラ様に祈りなさい。縁結びの加護を貰って、恋人を作って、家内安全が保てる男になったなら、お茶会くらいはしてあげますよ!」
「マジかよ! 真に受けるからな!! 条件満たしたらハーレムに入れよ!」
あまりにもハシャギ過ぎてしまって、俺の敬語が崩れてしまった。
フタルは呆れたような顔で言葉を返した。
「お茶会するだけって言ったでしょう! あーもう、本当に帰りますから! さようならです、違法転生者さん!」
ぶわり、と霊力の風が舞い、フタルの姿が完全に消えた。
俺は新たな目標を胸に、やる気が溢れてくる熱を感じながら座り直す。
ジルケアがドン引きしたような声で、俺に向かってこう言った。
「お前、女に化けてるときの俺は口説かないくせに⋯⋯。アレはイケるとか、どうなってんだよ⋯⋯」
「え⋯⋯? あ。もしかして⋯⋯、こっちの世界も、天使には性別なかったりするのか?」
「それは、どこの神の配下かによる。けど、マウラのところは、ほぼ全員が両性具有だ」
天使のフタルも、男のアレが生えている可能性は高い。
ジルケアからの情報に、俺は無言で耳を塞いだ。
あー! 聞こえない! 何も聞こえないし、聞いてない!
フタルちゃんが雌雄同体の可能性なんて、きっとなーい!
フタルちゃんは女性の天使で、ハーレム候補のカワイコちゃんなの!
俺は誰が何と言おうと、理想のハーレムを作り上げるんだからな!!
フタルちゃんが女の子じゃない展開なんて、⋯⋯今までの俺の経験からすると、なんかありそうな気もしちゃうけど⋯⋯。
でも、俺は絶対に自分の理想は曲げる気ねぇから!!
叶うまでやれば夢は叶う! そうだよな、オタクくん!
真の冒険はここからだ!
エルシー・マッドリバーこと、俺の活躍にご期待ください!!
それじゃあ、今回はこの辺で! またなー、オタクくん!
本作はここで一時休載となります。
息抜きに書き始めた行き当たりばったりな物語でしたが、楽しんで頂けたのならば嬉しく思います。




