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救世主の誓い


 アレックス・ホーリーソンは、悪魔の侵略を退けて、魔王を討伐するために生まれた『救世主』である。

 そんな彼にとって、エルシーの存在は特別な意味を持っていた。

 王政の都合上とはいえ、婚約者という無二の絆を得た人間。何よりも愛している女性。宿命を分かち合う盟友。

 アレックスにとってのエルシーは、『自分が守るべき人間』の象徴とも言えるほど重要なものだった。


「──救世主アレックス・ホーリーソン様。

 エルシー・マッドリバーの姿が見えないようですが、彼女はどうなされたのですか?」


 神聖(ルミナス)教会の代表を務める本部教会長、ダリアが問う。

 ここは、教会の総本山。王都の中央区に建てられている聖堂の一室──審問室。

 悪魔と思しき人間の真贋を見抜くための部屋だ。

 その荘厳にして厳粛な空気は、ただの裁判所とは一線を画す。

 本来であれば、エルシーが立たされる筈だった証言台にアレックスは一人で入り、教会長を睨みつけた。


「彼女は昨晩、悪魔によって連れ去られた。現在もその消息は不明だ」

「⋯⋯神の膝元たる、この王都で? 騎士団による堅牢な守りでさえも突破して、悪魔が人間を拐えるなどとは思えませんね」

「ふん。教会長は耄碌が始まっているようだ。エルシーを召集した題目は『王都で発生した悪魔被害の事情聴取』だったろう?

 前例を認識しておきながら、第二第三の事件は絶対に起こり得ぬなどと⋯⋯」


 アレックスの声に苛立ちが滲む。

 悪魔が事件を起こせるわけが無い、と本気で考えているのなら、エルシーが被害に遭ったという前提自体にも猜疑的になる筈だ。

 インキュバス被害を現実にあったものだと認めた上で、聖女の再考を求める手紙を送りつけてきた教会長の行動とは矛盾する。

 教会長は、まるで都合の悪い指摘が耳に入らなかったかのように、鷹揚な態度のままで話を進めようとしてきた。


「では仮に、今回の失踪の件も、悪魔の仕業だとしてみましょう。聖女エルシーを連れ去ったのは、どこぞより現れた悪魔である。

 ⋯⋯ならば何故、彼女は何の抵抗も無く、悪魔に拐かされたのでしょう?」

「昨晩、彼女は病によって伏していた。抵抗できる状態に無かったところを悪魔は狙ったのだろう」

「それは奇妙でありましょう。犯人の悪魔はどのようにして、聖女の現状を知ったと言うのです?」

「⋯⋯思いつかないのか? 悪魔の能力に関しては、エクソシストを擁する教会のほうが詳しいと思っていたんだがな。

 今度、魔導伯でも呼んで、詳しい講習をしてもらうと良い」


 アレックスからの皮肉に、教会長の笑みが引きつる。


「講習については、後ほど検討させていただきますわ。ええ。

 質問の意図が正しく伝わっていないようなので、改めて言わせてもらいますと⋯⋯。

 彼女を拐った悪魔は、彼女自身の手によって召喚されていたものではないか、と私は考えているのです」

「ありえない。エルシーの専門は錬金術だ。術式が似ているゴーレム操作くらいまでなら出来ても、召喚系の魔術には適性が無い」

「しかし、彼女はこの国の建国に関わった大魔導師の末裔です。適性の無い魔術でも使えるようになるアイテムが屋敷の蔵に眠っていた、という可能性だって無くは無いでしょう?」

「たらればの邪推を始点に置いても良いのなら、魔王がエルシーの美貌に惚れて連れ去っていったという可能性だって追わねばならない。

 重要なのは、『エルシーが今どこにいるのか』という現実的な情報だけだ」


 聖女誘拐の理由(Why)手段(How)も、欠けたピースだらけの状態でいくら推理してみたところで、どうせ真相に届かない。

 せいぜいが、心の準備をする際の指針にギリギリなれるくらいだ。そして、そんなものはアレックスには必要無い。

 アレックスはまるで無価値な会話を打ち切った。


「僕は勇者の一員として、魔王討伐には聖女の協力が必要不可欠だと考えている。よって今から、聖女が囚われている可能性が最も高い悪魔の牙城を順番に叩く」

「では、私の教会からも、手伝いのために人員を──」

「不要だ。行方不明となっている貴族の捜索は、いかなる場合も騎士団の領分。協力要請も掛けていないのに、門外漢が口出しするな」

「⋯⋯救世主としてではなく、ただの騎士として、旅立たれると?」


 教会長が苦い顔でアレックスを見る。

 体裁は整えてあるが、乱暴だ。

 しかし、アレックスに迷いは無かった。


「愛する女性(ひと)と共に生きたいと願えぬ男に、破邪の聖剣は振るえない。僕は必ず、この旅の中でエルシーを助け、共に魔王を討ち滅ぼす」


 ──かくして、アレックスは旅に出る。

 エルシーを拐ったのは、悪意ある魔王軍の誰かだと、盲目的に信じ込んだまま。



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