再来のカーラ
いえ~い! オタクくん、見てる~?
俺はいま、マッドリバー家の工房でゴーレム作成の研究をしてま~す!
少量の土に色んな素材を混ぜてみて、手のひらサイズのゴーレムを幾つか作ってみたんだが⋯⋯。
女の子にモテそうなイケメンを作るとなると、なかなか難しい。
魚の骨を練り込んだゴーレムは、頭部が魚で体が人間になっちまったし。
鳥の羽根を練り込んだヤツに至っては、全部の手足が翼になっちゃって、まともに動けそうにないし⋯⋯。
追加素材を練り込む場所や比率について、細かく詰めていく必要がありそうだ。
「──お嬢様。そろそろお医者様がいらっしゃる時間です」
実験に熱中していると、ヘレンが声を掛けてきた。
今日は午後四時から、カーラ様による往診だ。
表向きには、エルシーはインキュバスに襲われて心に深い傷を追ってしまった、ということになっている。
彼女はそれを利用して、カウンセリングの名目で俺と密会するつもりなのだ。
俺は試作品のミニゴーレムを土に返して、立ち上がった。
「前に来た時は、魅了魔法でめちゃくちゃにされそうになったけど⋯⋯、ちゃんと対策したからな! 今回は逆に、俺の言うことを聞かせてやるぜ!」
具体的には、魔王軍の可愛い人外娘を紹介してもらう!
そんで、デートの約束を取りつけて、後はインキュバスの魔法でハーレムに⋯⋯!
俺はめくるめく未来を妄想しながら、屋敷の応接室へと向かった。
⋯⋯ん? なんだよ、オタクくん。
仮に紹介してもらったとして、そんなにトントン拍子にデートの約束が出来るのか、だって?
出来るに決まってんだろ! ホント、オタクくんってばいつもそうだよな!
「見通しが甘い」とか「女の子だってそんなに暇じゃない」とか、奥手過ぎ!
失敗なんてするワケ無いから、まあ見てろって!
俺はヘレンが淹れてくれたお茶を飲みながら、優雅にカーラ様が来るのを待った。
暫くすると、コンコンとドアがノックされる。
「お嬢様。お医者様がいらっしゃいましたよ」
「はーい。どうぞー」
「失礼いたします」
ヘレンがカーラ様を案内する。
あのヤブ医者から何か言われてるのか、ヘレンはそのまま応接室の外へ出た。
カーラ様がにっこりと笑って俺を見る。
「顔色は悪く無さそうだね、エルシー」
「お陰様で。無理にお嬢様口調で喋らなくても良いから、ストレスが無いよ」
「ははは。可愛いことを言うじゃないか」
カーラ様の瞳に、うっすらと魔力光がちらついた。
前みたいに、また魅了魔法で俺にレディの振る舞いとやらを命じるつもりか?
だが、今回の俺には、魅了耐性のチョーカーがある。魔法は通用しないぞ!
カーラ様は楽しげに唇の端を吊り上げて、じっと俺の目を見つめた。
「エルシー。君は聖女でありながら、悪魔に与する逆賊だ。裏切りの動機も、公益や正当性は無い。
君は、ただの危険人物だ。洗脳技術に長けている私が相手でなければ、二度目の裏切りを危惧して君は始末されているだろう」
「⋯⋯つまり、何が言いたいんだ?」
「寝返ったところで、君を敵だと思う悪魔は少なくなかった、ということさ」
カーラ様が鞄から黒い封筒を取り出す。
読みなさい、と手渡されたそれを俺は見下ろした。
送り主の名は、TtoRruer。見覚えはないが、文字の並べ方を見るに悪魔の名前なのだろう。
宛先となるカーラの名前や住所は記されていない。
手紙の封は既に切られているようだ。
俺は便箋を取り出して、その内容を確かめた。
『──麗しき月夜の舞姫へ。
貴殿の一座に、新たな踊り子が加わったと聞く。
特別に、我が屋敷での貴殿らの演舞を許してやろう。
我が待ちくたびれる前に、屋敷を訪れるが良い。
もしも到着が遅れたり、踊りの途中で転んだりするようなことがあれば、相応の罰は覚悟しておけ』
⋯⋯パッと見は、偉そうな富豪から旅芸人への仕事の依頼のようにも見える。
人間族に見られてもいいよう、カモフラージュをしているのだろう。
内容を意訳するならば、「話があるからすぐに来い、来なかったらシバく」と言ったところか。
「⋯⋯わざわざこれを持ってきたってことは、行かなきゃいけないのか、これ?」
「ああ、そうだ」
カーラ様はずっとニコニコ笑っている。
さては俺が休日出勤で苦しむ様子を面白がってやがるな、このパワハラ上司。
しかし、彼女との契約が壊せていない以上、俺に拒否権は無いのだろう。
⋯⋯だったら、せめて敵の情報は知りたいな。
「この手紙を出してきた悪魔、どのくらい偉いヤツなんだ?」
「魔王軍の中だと、中の上クラスだね。人間界では、ロングレイクの森を占領している恐ろしい悪魔、と言われてるらしいが⋯⋯」
「あー。なんか、アレックスが言ってた気がするなー」
確か、森に入った人間が悪魔に食われる事件が起きて、近くの村がそのまま廃村になったとか。
あのノンデリの救世主様が、「魔王討伐の旅に出たら、悪魔との戦闘の練習も兼ねて、この森を真っ先に浄化しに行こう」などと、息巻いていた記憶がエルシーの頭の中にある。
「今後のことを考えるなら、仲良くなっておいたほうが良いか」
「そうだね。彼女とは、友好的な関係を結ぶのが安牌だ。
──というわけで、今から森へ行くよ」
カーラ様が鞄を持って立ち上がる。
「えっ、今から? ロングレイクって、だいぶ北のほうだけど⋯⋯」
「私の家に、魔界へ繋がる転送陣がある。そこから更にロングレイク行きの転送陣を使えば、すぐさ。日帰りでどこにだって行ける」
「何それ! やっば~! そんな気軽に魔界に行けるって、人外娘もナンパし放題じゃん!」
うお~、テンション上がってきた~!
俺の計画でネックなところって、遠出が出来なかったところなんだよな。
人外娘ちゃんたちは、神様のお膝元であるこの王都には近寄らないから、出会いが無いし。
聖女様の身に何かあっては問題だ~って理由で、旅行には王家の承認と騎士団の護衛役が必須だし。
気楽にナンパ旅行できるとか最高じゃ~ん! やっぱ俺ってラッキーボーイ!
「ひゃっほー!」と笑顔ではしゃいでいる俺に、カーラ様が冷めた視線を投げ掛ける。
「⋯⋯エルシー。君の大好きな夜遊びは、トーリヤの件が片付いてからだよ。
彼女は気位が高いから、会うのを後回しにされていたと気づいたら敵対関係まっしぐらだ」
「ちぇー。ま、しょうがないかぁー」
俺は溜め息を吐いた。
せめて、トーリヤがハーレム合格ラインを越えた人外美女であることを願おう。
顔は最悪、目隠しとかで誤魔化せば良いから、期待したいのはその骨格だな。
中途半端に人間の胸とかくっつけて、不気味の谷みたくなってなければ良いんだが⋯⋯。
なんだかんだで、俺はラッキーボーイだし、トーリヤも良い感じの美女だろ、うん。
「それじゃ、ロングレイクの森までお散歩に行くか。案内よろしく、カーラ様」
「ああ。この家のメイドには、カウンセリングの一環として私の家に泊まらせると言っておこう」
カーラ様が応接室の外へと向かって歩き出す。
俺もソファから立ち上がり、彼女の後を追いかけた。




