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高校に入学したのに女友達が出来ない。それどころか、男友達に振り回されている。  作者: 駿河犬 忍
第三巻 シークレット・オーケストラ
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第六十九話 闇の中。

 頭痛がする。僕は跪き、頭を抑える。

 この感覚。覚えているぞ。体育館で、スクリーンを見た時に感じた感覚だ。

 僕は鼻で笑った。

「同じ手を喰らう程、僕は愚かじゃ無い。」

 脳を冴え渡らせる。どちらが支配する側なのか分からせてやる。

 ひゅうがの近くに長い間いたお陰か、呪いの力も弱っていた様だ。

 呪いで強化された肉体だけが残り、支配から脱した。

 力が漲る。頭は先程よりも冴えていた。

 ポタリ、ポタリと涙を床に落としながら、つかさは、歩きながら僕に近づく。

 走って体育館の真ん中へ走ると靴と床の擦れる高音が響く。

 暗闇の中で、バスケットボールのゴールリングが月の光を反射して光る。

 隙間風の音が、外の風の強さを伝える。

「つかさ、その腰についている巾着、まだお菓子は残っているのか?」

 僕の質問に、つかさは真っ直ぐと前を見たまま、ゆっくりと手を動かして巾着を触った。

「うちの使用人が作る菓子は美味い。一緒に食べよう。」

 ズボンのベルト通しについているカラビナから巾着袋を外して、中を開けようとした瞬間、つかさの動きが止まった。

 巾着袋を持つ手をパッと離した。中に入っていたクッキーやカップケーキの入ったビニール袋が体育館の床に散らばる。

 瞬間、つかさは僕の目の前に移動した。

「まあ、そんな簡単にはいかないか。」

 殴りかかってくる拳をブリッジで避け、床についた手に力を入れ、バク転しながら後ろに下がる。

「チートは使わないのか?空間支配だったか。」

 僕は話しかけながら、体育館の端に沿って走る。

 つかさは少し前屈みになりながら、首だけ動かし僕を見続ける。

 ヒューと風の音がして、目の前に移動する。

「風の音でバレているぞ。」

 僕は逆立ちをして両足をあげ、つかさの肩に足を掛ける。そのまま太腿で首を挟み、つかさの頭を地面に叩きつける。

 鈍い音を立てて地に着いた頭。そのまま大きく転倒する。僕は太腿を離し、後転して立ち上がる。

「手加減するくらいなら、もう戦うな。僕も戦いたく無い。」

 返事は無い。それどころか倒れたまま動かない。

「つかさ?」

 僕は少し不安になり、一歩前に出て様子を伺う。

 風の音がする。しまった。反応が遅れた。

 つかさは移動した後、直ぐに僕の首を掴んで持ち上げる。

 僕は両手でつかさの腕を掴むが、びくともしない。

「グッ!!ぁ……。」

 苦しい。息が出来ない。窒息は五分経ったら意識を失う。考えている余裕は無い。

 腕の力で下半身を持ち上げ、つかさの腕にしがみ付き、上半身を捻り肘の関節を外す。

 握力が弱まり自由になった瞬間、僕はつかさを抱きしめた。

「……頼む。元に戻ってくれ。」

 声が震える。いつの間にか流れた涙が、つかさの肩を濡らした。




【一方その頃、つかさの精神世界。】



 真っ暗な闇の中を歩き続けた。どれくらいの時間、どれくらいの距離を歩いたのか分からない。

 まだ数分しか経っていない様な気もするし、もう何年も経った様な気もする。

 何で歩いているのかも、自分が何者なのかも見失ってしまった。

 遠くでずっと声がする。だが、気のせいだと思う。

 声は遠くなったり、離れたりしている。だが、気のせいだと思う。

 酷く重くなった体。歩くたびに痛みが増す足。激しい動悸と乱れる呼吸。

 吸った後に吐く。吐いた後に吸う。次は吸うんだっけ、吐くんだっけ。

 肩と背中が固くなって痛む。

 ずっと耳鳴りがしている。

「つかさ……。」

 誰かの声がする。これは気のせいでは無い。

 そうだ。俺はつかさだ。

「小童よ。気がついたか。」

「誰だ!」

 俺は周りを見回す。何処もかしこも闇だ。

「吾輩の名はぬらりひょん。お主に取り憑く妖怪。負の感情に支配され、力が暴走してしまったのじゃよ。」

 激しい頭痛に襲われる。

「俺に何かしたのか?頭が割れそうだ。」

「何もしておらぬ。お主が自我を取り戻そうとしているだけじゃ。早く目覚めよ。取り返しがつかなくなるぞ。」

 風の音がする。隙間風の様な高音。

 右肩が冷たい。触ると濡れていた。

 遠くで別の声が聞こえる。

「お前に殺されるのは別に構わない。だが、それでお前が傷付くのは許せないんだ。」

「この声は、りんのすけか?声が震えている。」

 俺は膝から崩折れ、その場にヘタレ込む。

「今のお主の感情を聞こう。」

 ぬらりひょんの声が頭の中に響いた。

「一人になりたく無い。悲しい。寂しい。」

 俺はポツリポツリと呟く。

「ならば、どうしたい。」

 また頭の中に声が響く。

 俺は膝の上で拳を握りしめる。

「皆んなに会いたい。」

 目の前に小さな光が見えた。光は大きくなって、闇を照らす。

 眩しい光に目が眩み、俺は目を瞑った。

「目を背けるな、光を見据えろ。」

 ぬらりひょんの声に俺は従い、恐る恐る目を開ける。顔を上げ、真っ直ぐ光を見つめた。




 気が付いたら、知らない場所に立っていた。

 目だけを動かし辺りを見る。体育館の様だ。

 窓から月明かりが入り込んでいる。

 指の感覚、頬の感覚、嗅覚が少しずつ元に戻っていく。

 鼻を啜る音がする。首に、肩に、体に、体温が伝わる。

「りんのすけ、ちょっと苦しいかも。」

 俺は抱きつくりんのすけの腕を、トントンと叩いた。

 りんのすけは、ハッと顔を上げ、俺の顔をマジマジと見る。

 俺は状況がよく分からず、左手を上げて「よっ。」と挨拶をした。

 涙で濡れた綺麗な顔は、安心した様に緩んだ後、眉間に皺を寄せて不機嫌になる。

「つかさのおたんこなす!!!」

 りんのすけは飛び上がり、俺に抱きつき直した。俺はバランスを崩して尻餅をつく。

「ご、ごめん。俺、状況よく分かってないんだけど。」

「分かってないなら謝るな!!バカ野郎!!」

「ええー!いってぇー。右腕なんか変なんだけど!?動かない。」

 俺は右腕の肘から先が無くなっているのかと思い焦る。

「関節が外れているだけだ。それについては謝ろう。」

 りんのすけは俺の肩に手を置いて体を離すと、頬を膨らめながら不服そうな顔をした。

「謝る気がないなら謝るなよ。俺が何かやらかしたんだろ?じゃなきゃ、りんのすけはこんな事しない。俺の方こそ、ごめんな。」

「よく分かってないのに謝るな!!」

「あー、もう!分かったよ!……あれ、百鬼夜行どうなった?」

 俺は顔を強張らせてりんのすけを見つめる。

「おおよそ片付いただろう。ラスボスはつかさだったしな。」

 りんのすけはジト目で俺を見つめた。

「えええ!!本気で言ってんの?!」

「空間支配なんてチート能力出されたら、ラスボス以外の何者でも無いだろう。」

 りんのすけは立ち上がって歩き出した。

「そんな事したの?俺が?」

 俺も立ち上がり、後を追いかける。

「質問攻めにするな。ひゅうがを待たせている。顔を見せてやれ。心配してたぞ。」

 体育館の外に出ると、ひゅうがは体育館の壁に寄りかかり、体育座りで待っていた。

 俺の顔を見上げると、泣きそうな顔になりながら立ち上がり抱きついた。

「つかさー!!良かった!良かったよー!あれ、普通に外出られたの?呪いは?」

 ひゅうがは抱きついた後、直ぐに体を離して、俺とりんのすけを交互に見る。

「呪いは弱くなっていた。僕の精神力で呪いを封じられた程度だ。つかさには元々効いていなかったのかも知れない。」

「そうだったの?!何でもいいけど、二人とも無事で良かったよぉー!!」

 ひゅうがは俺とりんのすけに抱きつく。

 俺はひゅうがとりんのすけを抱きしめた。

 りんのすけは少し顔を赤くした後、抱きしめ返してくれた。

「皆んなの所に戻ろう。」

 俺は空間転移を使い、公園の広場まで戻った。

 広場に戻ると、酷い有様だった。

 サソリさんは馬乗りになって白山坊をリンチにしていたのだ。見るも無惨な姿になった肉の塊の様になった白山坊は、余りにもグロテスク過ぎて目を逸らしてしまう。

 他の人達も、呆然と見つめていたり、吐き気を抑えていたりと、どんよりとしたムードを漂わせている。

 西条寺さんが涙目で俺達に駆け寄って来た。

「彼の方を止めてくださいまし。わたくし、もう目も当てられませんわ!」

 りんのすけは溜息を吐くと、サソリさんの所まで歩いて行き、首根っこを掴んだ。

「おい、サソリ。妖怪達は生きて送り返すんじゃ無かったのか?」

 サソリさんは我に返ったようにハッとして、恐る恐る振り返りりんのすけの顔を見る。

「坊ちゃま!!つかさ様も!ひゅうが様も!ご無事で何よりです!」

 サソリさんは誤魔化しついでに、りんのすけに抱きつこうとしたが、りんのすけは足を上げ、サソリさんの顔を踏みつけて阻止する。

「血まみれで僕に触れるな。ばっちいだろ。」

 そのやり取りを遠目で見ていると、いきなり誰かに抱きつかれた。

「うわ!」俺は驚いて声を上げる。

「つーちゃん!無事で良かったァァァ!!」

 野崎先輩だ。耳元で大声を上げられ、耳鳴りがする。

 少し離れた所に居る陰丸君は、チラリと俺を見た後、大きな舌打ちをした。

「つかさ殿!!本当にご無事で何よりだ!!先程はすまなかった!」

 人に化けたポンスケは、木の上から着地すると、俺に深々と頭を下げた。

「いやいや、俺の方こそ。」

「つかさ!私の油断が生んだのだ!一発殴ってくれたまえ!」

 和田は木から降りようとしているが、降りられずに宙吊りになっている。枝を掴む腕がプルプルと震えていた。

「和田!落ちる落ちる!」俺は慌てて、和田に駆け寄る。

 ポンスケと協力して和田を下ろした。

「無茶させて、巻き込んで悪かった。俺は和田を殴る権利なんか無いよ。」

 俺は和田と握手した後、軽く抱き寄せて肩を叩く。

 和田はボロボロと泣き始めた。

 ポンスケに降ろしてもらった左門時先輩は、和田を慰めて言った。

「泣くなよー。」

「自分の不甲斐なさと、安堵で涙が止まらないだけなのだよ!おーいおいおい。」

「そんな泣き方あるかよ!」

 ひゅうがは腹を抱えて笑う。俺もつられて笑ってしまう。

 その後、サソリさんは何処かから黒いゴミ袋を持って来て、妖怪だった物を詰め込み、何処かへ運んで行った。

 野崎先輩の父親から連絡があり、羅刹天の怒りは鎮めたそうだ。どうやって鎮めたのか聞いてみたが、かなりタブーな質問だった様で、教えてもらえなかった。

 百鬼夜行で被害のあった建物や一般市民は、りんのすけの家の方で全て無かった事に出来るらしい。謎の権力なのか、謎の特殊能力なのかは分からないが、一先ず安心だ。

 外れた右肘は西条寺さんがはめてくれた。綺麗に外れていたらしい。直ぐに元に戻った。無意識に空間支配を使っていたのか、痛みも残らなかった。

 全てが片付いた頃には、とっくに〇時を超えていた。

 真っ直ぐ家に帰って、眠る事にする。

 家に帰り、寝支度を整える。

 電気を消してベッドに横になると、ぬらりひょんが俺に話しかけて来た。

「小童よ。楽しかったぞ。」

「何だよ。もう居なくなるみたいじゃ無いか。」

「実は言うと、ぬらりひょんとして復活を遂げた時、既にお主から離れられたのじゃよ。」

「え!嘘ついてたのかよ!」

「ああ。自分の利益より、他人を優先するお主に惚れておったのじゃな。力を貸したくなった。」

「……。じゃあ、お別れなのか?」

「ああ。しかし、吾輩はぬらりひょん。ぬらりと消え、ひょんと現れる。またいつか会いに来ようぞ。」

「分かった。いつでも会いに来いよ。俺の手料理食わせてやるから。」

「フフフ。そりゃ楽しみだ。おやすみ、つかさ。」

「おやすみ、ぬらりひょん。」

 体の中からスーッと何かが抜けていく感覚。その後、俺はコトンと眠りに落ちてしまった。

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