第四十七話 ついに、クラスの女子と会話をする。
十月末。学校では、いよいよ学園祭の準備が行われ始める。
前夜祭のパフォーマンス大会のエントリーを済ませ、平日の夜や土曜の夜の時間を使ってダンスレッスンをする計画が進められた。
パフォーマンス大会に出場する為には、まずオーディションをクリアしなければならない。
学園祭本番のおよそ一週間前、十一月六日にそのオーディションは行われる。
りんのすけの家のリビングに、大きな鏡を設置する。広いリビングは殆ど空きスペースだったため、即席のダンスレッスンルームは簡単に作れた。
山河先輩と野崎先輩、りんのすけ、俺、和田の五人は平日の放課後に毎回集まって練習をする。ひゅうがは部活がある為、遅れて参加していた。
西条寺さんと友永さんは、練習の撮影や音楽の準備等の補助を手伝ってくれた。
西条寺さんの連れてきたプロの方はかなりのスパルタで、ボロクソに言われながら俺達は必死に喰らい付いて練習を続けた。
講師の名前はレイラさん。長い髪をサイドに纏めた強そうな見た目の女性だ。
練習の合間に一人ずつ別部屋でインタビューをして、その様子をビデオに納めた。
Q・元々ダンスを習ってましたか?
ひゅうが「んーん。習ってない!でも小さい頃からサッカー選手の真似してたから、人の真似するのは慣れてるのかも?」
りんのすけ「僕は何でも出来る。」
山河先輩「家で踊ってる曲だからヨユー!あ、でもでも、もっと上手くなりたいから沢山教えてほしー!」
野崎先輩「何の真似だァ?テメェ。」
つかさ「こんなの!出来るわけないよーー!!」
和田「私の実力は、うっ。こんな物じゃないのだよ。うぅ。グスン。」
Q・本場に向けた意気込みをお願いします。
ひゅうが「絶対に勝ちます。見てる全員を虜にして、その中でもおれがナンバーワンだって見せつけてやるぜ。」
りんのすけ「勝つのみだ。」
山河先輩「とりま、楽しんでこーぜ!楽しんだモン勝ちっしょ?!」
野崎先輩「アァン?テレビ番組の見過ぎじゃねェか?ふざけんなよ!何で他の奴らはまともに答えてンだよ!」
つかさ「足引っ張らない様に頑張ります……。」
和田「私と言う存在を世に知らしめるチャンス!逃す手は無いのだよ!」
このビデオは特に見せる場も無く、お蔵入りとなった。
ダンスレッスン中、俺と和田は特に怒鳴られる頻度が多かった。他の四人に比べても、俺達はダンスパートが少ない。曲の後半だけ踊るバックダンサーだからだ。
休憩時間では、俺と和田は慰め合い、傷を舐め合った。
鬼教官の指導は、恐怖を覚える程だったが、的確な為、時間が経つに連れて自分達が上達している事が実感出来た。
息の合っていないりんのすけとひゅうがも、二人で揃えて踊るパートが徐々に会うようになり、完璧になった。
オーディションの前日になって、鬼教官レイラさんは俺と和田の事を少しだけ褒めてくれた。それが余りにも嬉しくて、俺と和田は涙を流した。
オーディション当日。学園祭の実行委員でもある生徒会の役員達と先生が審査をする。
講堂の客席には、順番待ちの生徒が大勢待機していた。
俺達は友永さんが考えてくれた衣装に着替えて、その時を待った。
衣装は軍服風で、イメージカラー毎に分かれている。俺と和田はバックダンサー衣装で、お揃いの白い軍服に軍帽を被る。山河先輩はスモークピンク色のフリフリのミニスカートにアレンジされている。りんのすけは、ワインレッド。ひゅうがはスモークイエロー。野崎先輩はブルーグレーだ。
他の生徒達の演目を見ると、バンド演奏や漫才、手品等、俺達と被らない内容ばかりだった。
ついに、出番がやって来た。ステージに四人が立ち、俺と和田は裾から見守る。
音楽が流れ始めると、全員の顔色が変わった。本物のアイドルになりきっている。訓練されたお陰だ。
今回選出した曲は、山河先輩のリクエスト通りのアイドル。世界的に有名なエレクトロニックなダンス曲だ。
センターの位置が何度も変わり、移動が多い。妖艶に体を滑らかに畝らせたり、力強いキレで動いたり、激しく難しい動きが求められる中、四人はそれを自然にこなしていく。
鬼教官の指導により、全員口パクをしながら踊っている。
野崎先輩の力強さ、山河先輩の可愛さ、りんのすけの正確さ、ひゅうがの愛嬌が合わさり、既に最強のグループが出来上がっていた。
曲の後半になり、俺と和田は最後の大サビを一緒に踊る。六人で動きを合わせ、最後に決めポーズを決めた。
全員全力を出し切り、荒くなった息を必死で抑えた。
審査員席の人達の顔を見る。全員唖然とした顔で固まっている。
しばらくの沈黙の後、オーディションに来ていた他の生徒達が拍手喝采で讃えてくれた。
オーディションはもちろん合格した。
十一月頭。学園祭前の準備をクラス全員で行う。
裁縫の得意な生徒達が、メイド服の型紙を作る。絵や字の得意な生徒達が看板や装飾の案を出し合う。俺はメニューの考案のチームに入った。暇そうなりんのすけは、俺のところに付いて来ていた。
「材料費が掛からず、簡単に出来る物が良いと思う!」
見た目がハンサムな高身長ショートカット女子、神宮さんが話を切り出した。
俺はクラスの女子とちゃんと話すのは、これが初めてかも知れない。
「メイド喫茶と言ったらオムライスだろう?冷凍のチキンライスを使えば卵を焼くだけだ。」
俺は考えながら話す。りんのすけが横槍を入れる。
「つかさのオムライスは美味しいからな!僕も食べたい。」
「りんのすけは店員だから食べられないぞ。また休みの日に作ってやるよ。」
俺とりんのすけのやり取りを、神宮さんは目を細めて真顔で見つめる。俺は直ぐに謝った。
「ごめん。関係ない話して。」
「ううん。もっとしてくれても良いんだよ。」
神宮さんは表情を変えずに俺達の顔をマジマジと見る。川島はその神宮さんの頭を後ろからチョップする。
「こら!神宮、お前はもう少し自重してくれ。」
川島はオデコに手を当て呆れた顔をする。
「川島。今良いところだったんだ。邪魔をするな!」
「何が良いところだよ!お前の妄想は部室で聞くから、今は落ち着いてくれよー。」
俺とりんのすけは目を合わせて肩をすくめた。その後、俺は質問する。
「神宮さんって文芸部なのか?」
「そうだぞ!つかさ殿も我が部活に興味がおありか?」神宮さんは立ち上がり目を輝かせながら俺に詰め寄った。
それを川島は羽交い締めにして、無理矢理席に座らせた。
「川島!何故我の邪魔をする?」
「りんのすけの顔を見ろ。嫌がってるだろ。」
神宮さんは川島に言われ、りんのすけの顔を見る。りんのすけは冷めた目で神宮さんを見つめた。
神宮さんは大袈裟に椅子から転げ落ち、何故かお腹を抑えた。
「グハァッ!……ック。これは、ご褒美か。」
「そう言うの止めろって言ってんだよ!」
川島は神宮さんの首根っこを掴み、りんのすけとの距離を離した。
「川島って大変なんだな。」俺は同情の目を向けた。
「つかさに言われると複雑……。まあ、そこそこ大変だよー。」川島は困り顔で笑った。
神宮さんが座っていた席の隣に、大人しい女の子が座っていた。柔らかいモカ色の髪は、少しウェーブがかっていて、肩くらいの長さ。タレ目で、色白。華奢で少し背の低い背丈。確か名前は坂原さんだった。
俺はその子に話しかけた。
「あの。坂原さん。デザートや飲み物も考えたいんだけど、意見を聞かせてもらえないか?」
坂原さんは驚いた顔で俺を見つめ、みるみる顔が赤くなった。小さな声の早口で言った。
「そ、それって。私の事好きって事ですか?」
俺はキョトンとした顔になる。
川島が走って来て坂原さんの口を塞いだ。
「馬鹿!また変な事言うなって。それで何人の男子が痛い目見たと思ってるんだ?」
口から手を離しながら、川島は坂原さんにお説教をする。
「馬鹿って何?悪口言わないでよ!」
その後、川島と坂原さんは言い合いになる。
俺は間に入って宥めた。
りんのすけは大きく溜息を吐いた後、仁王立ちをして言い放った。
「さっさとメニューを決めるぞ!無駄口を叩かずに目の前の事に集中しろ。」
神宮さんはまた悶えながら蹲った。それ以外の人達は全員大人しくなる。坂原さんは何故か顔を赤くして目を背けた。
やっと話し合いを進められ、メニューを決めるに至った。
看板メニューはオムライス。デザートはクッキーの盛り合わせとパンケーキ。飲み物はオレンジジュースと紅茶、コーヒーで決まった。
予算内に収まる様に、個数限定メニューにしたり、安く調達出来る場所を調べたりした。
メニューが決まると、神宮さんは看板作成チームに居る友達に共有してくれた。
坂原さんはノートに絵を描き始めた。オムライスの絵だ。ケチャップで何を描くのか考えている様だ。
りんのすけは遠目で見ながら、「なかなか上手いな。」と言う。坂原さんはノートに覆い被さって焦って隠した。
目を逸らし赤面しながら小さい声で呟いた。
「オムライスに何を描くかは、女子チームで決めたい……。良いかな?」
「無論だ。任せる。」りんのすけは少し顎を上げて上から目線で言った。
学園祭本番の前日、クラスの出し物の準備は殆ど終わっていた。
シフト制で店を回す事になり、全員にシフト表が配られた。俺とりんのすけは全く同じシフトだった。りんのすけがシフト作成係に口利きしたらしい。
男子生徒は二列に並んで、メイド服のサイズ点検をした。ロングスカートとミニスカートの二種類有り、Sサイズから大きいサイズまで揃っている。
俺はその間に進一の所へ行き、性転換薬をコッソリ受け取った。




