↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/74

第三十一話 りんのすけくんといっしょ。

 白い無地のTシャツと紺色の短パンを借り、着替える。

 りんのすけも、部屋着に着替えた。グレーでスウェット生地の半袖と、裾がゴムになっている同じ生地の長ズボンだ。

 そして、ベッドに入る。りんのすけは漫画を一冊取り、ベッドの横にある椅子に腰掛けた。

「何読んでるんだ?」

「念を使って戦うバトル漫画だ。新刊が出たので、最初から読み直している。」

りんのすけは、ページを捲る。

「アレ、新刊出るの不定期だもんな。俺も内容忘れて読み返す事ある。」

「ああ。二つ前くらいから読み返せば良いんだが、久しぶりに読み返したくなった。何回読んでも面白い。」

「わかる。流れる様に次の話へ行くし、読み返した時に新しく発見する事があるから良いんだよな。」

「つかさ、寝ないのか?」

「寝るよ。りんのすけは眠くないの?」

りんのすけは、顎に手を当てて少し考え込む。

「眠いかも……。」

「なんで、眠気に自信ないんだよ。一緒に寝るか?」

俺は隣にたくさん空いているベッドのスペースを、ポンポンと叩いた。

 りんのすけは、漫画を片付けベッドに入る。

 しばらく、沈黙が続く。

「つかさ、一つ聞いて良いか?」

りんのすけは、天井を見上げたまま言う。

「ん?」俺も天井を見上げたまま言った。

「この前の、その、事故の事だ。」

「事故って、何かあったっけ?」

「四月末、学校で合った事だ。流石に、覚えているだろう?」

りんのすけは、少しずつ声が小さくなった。

「あ。偶然、ぶつかってしまったアレか。」

俺は思い出して恥ずかしくなった。忘れるわけが無い。

「そうだ。あれは、僕のファーストキスとして数えるべきなんだろうか。」

「え?りんのすけもファーストキスだったの?」

俺は寝返りを打って、りんのすけの方を見た。

「なんだ、つかさもか。」

りんのすけは、耳を赤くして、ぶっきらぼうに言った。

「うーん。数えるべきかどうかはわからないな。偶然起きた事だし。やっぱり、真剣にした時に数えるんじゃ無いか?あ、でも高校生の間に彼女出来なかったら、キスすらした事ない男として見られるのは、嫌だな。うーん。」

俺はまた天井を見上げて、目を閉じて悩んだ。

「つかさは、彼女が欲しいのか?」

「彼女がいた事のない俺からしたら、無いものねだりなのかも知れないけど、欲しいよ。普通に。」

 それを聞いたりんのすけは、寝返りを打ち俺の方を向いた。俺のTシャツの胸元を掴む。

「彼女、作らないでくれ。」

俯いていて、りんのすけの表情はわからなかった。

「作って欲しくないの?」

「そうだ。」

「理由を聞いても良いか?」

「……。僕と遊ぶ時間が減るからだ。」

りんのすけは、Tシャツを掴む力が強くなる。

「まあ。確かにそれはあるな。」

俺は、Tシャツを掴む手を、優しく包んで、寝返りを打ち、りんのすけの方を向く。

「わかったよ。物凄ーい恋に落ちない限りは、作らない。」

 それを聞いてりんのすけは、俺に抱きついた。俺の胸にりんのすけの頭がすっぽりと収まる。

「お前は、僕のものだ!」

「いやいやいや。違うから。俺は俺のものだ。」

「それは違いないな。」

りんのすけは、顔を埋めたまま笑った。

「ぶはっ。そのTシャツ、ずっと押入れに仕舞っていたせいで、押入れ臭い。」

俺から離れて仰向けになった。

「その部屋着は臭くないのか?」

俺はなんとなく聞いた。

 りんのすけは、胸元を引っ張り自分の鼻に付ける。

「これは臭くないな。よく着るから、洗ってくれたのかも知れない。」

俺はりんのすけに近づいて、一番近い右胸辺りを嗅いだ。

「本当だ。何か良い香りする。」

「そうだろう?オーガニック洗剤のハーブの香りだ。僕が選んだ。」

 俺はりんのすけから離れ、仰向けになる。

「俺が着てるこの服達も、洗ってくれないかな。これから急に泊まる事があったら、また借りたい。」

「来客用のパジャマやジャージもあるが、それで良いのか?」

「うん。これが良いな。着やすいし。」

「そのまま持って帰れば良い。」

「いや、それはいい。りんのすけの家に来た時の俺専用にしたいんだ。」

「わかった。使用人に伝えておく。そこまでこだわるのは、少し意外だな。」

 確かに、俺は何でこんな事を言ったんだろう。何で鼓動が激しくなるんだ。頭が混乱して来た。

「自分で自分の事がよくわからない!」

俺は自分の頭を両手で抱えた。

「ふぁーあ。悩みがあるなら聞くぞ。……後でな。」

りんのすけは、仰向けのまま目を閉じる。しばらくすると規則正しい寝息が聞こえて来た。

 俺もウトウトして、瞼が重くなる。そして、そのまま眠りに落ちた。

 昼寝から目が覚めると夕方だった。

 家に夕飯の用意がされていたため、制服に着替え直して、お土産のチーズケーキを受け取り、りんのすけの家を出た。

 家に帰り、母親にチーズケーキを見せたらとても喜んでいた。

「今度りんのすけ君の家行く時に、何かお返ししなくちゃね。」

母親は、頬に手を当てた。

「土日は使用人がいないから、また今度りんのすけの家に行ったら、料理を振る舞いに行くよ。」

「あら。何だか通い妻みたいじゃない?」

「意味わかって言ってないだろ?」

俺は呆れた顔をした。

「うん、よくわかってない。」

母親は苦笑いした。

「でも、やっぱり何か持って行って欲しいわ。今度の土日でも、金曜日でも良いから、りんのすけ君の家遊びに行きなさい。それまでに買っておくから。」

 俺は適当な返事をして、自分の部屋に戻った。

 今度の土日は、お祭りに行くから丁度良いな。と、俺はぼんやり考えた。




 土曜日の15時。そろそろ、りんのすけと七夕祭りへ行く支度を始める。

 お祭りは午前中から夜までやっている。いつ行っても良いが、昼間は暑いため、夕方に着く様に集合時間を調整した。

 他の人も誘ってみたが断られた。ひゅうがは練習が遅くまでかかるため行けず、和田は塾、進一は人混みNGらしい。

「つかさ、今日りんのすけ君の家に泊まってあげたら?」

母親は、俺の部屋まで来て言った。

「え?何で?」

「そりゃ、お祭りの後の寂しさってあるでしょ?一人暮らしなら寂しさも大きいはずよ。」

「アイツ、寂しいとか思う事あるのか?」

ふと、りんのすけの言った言葉が、頭をよぎった。

(……。僕と遊ぶ時間が減るからだ。)

 俺は軽いため息を吐く。

「わかった。そうするよ。」




 お祭りの開催場所である商店街まで、電車で向かう。商店街の最寄駅に集合という事になっている。

 電車の中には、浴衣や甚平を着ている人が老若男女問わず居た。俺も例外ではない。

 去年買った紺色の甚平に、下駄を履いている。つまり、浮かれた格好をしていた。それに加えて、背中には着替えの入ったリュックを背負っている。

 この格好のまま、一人で電車に乗るのは少し恥ずかしい気がしたが、実際は同じ様に浮かれた人達が多くて安心した。

 駅を降りると、既に沢山の人が居た。

 目印になる物がないため、合流出来るか心配だったが、無用だった。

 女の子達がキャーキャー言っている声がすぐに聞こえたからだ。その視線を辿れば、ほら居た。

 浴衣は、白地に細いグレーの縦ストライプに、朱色の帯。真っ黒な下駄を履いたりんのすけだ。いつものセンター分けではなく、1:9くらいの割合で分けている。少し大人びた髪型のせいか、顔がよく見えるせいか、いつもより美しく見えた。

「ごめん。待たせた。」

俺はりんのすけに駆け寄った。

「いや、僕も今来たところだ。良い格好だな。色も似合っている。」

りんのすけは顎に手を当てて、俺の上から下まで見る。

「ありがとう。りんのすけも、いつもと雰囲気違ってて良いな。綺麗すぎて隣を歩くのが申し訳ないくらいだ。」

俺は首の後ろを掻きながら、壁や天井を見る。

「何を言っている。僕の隣を歩ける人間は、つかさしかいないぞ。今のところな。」

「え?」

「行くぞ。」

りんのすけは、くるりと向きを変え歩き始めた。

 二人で、カランコロンと下駄の音を鳴らしながら歩く。

 商店街の中に入ると圧巻だった。

 大きな七夕飾りが、天井から吊るされている。人気のキャラクターや富士山など、バラエティー豊かなカラフルな飾り付けだ。

「つかさ、ちょっと止まれ。」

りんのすけは、俺の袖を引っ張って止める。

振り返ると、りんのすけがスマホを構えていた。

「あ、写真撮るのか。」

りんのすけは、何枚か写真を撮る。その後、俺に近づいた。

「撮るぞ。」りんのすけは自撮りを構える。

 俺はニッコリピースをした。りんのすけも、今回はしっかり笑顔を作った。

「俺のスマホでも撮って良いか?」

「無論だ。」

俺も自撮りを構えて、りんのすけとツーショットを撮った。

「最後に、りんのすけ単品で撮っても良い?」

「何でだ。また西条寺か?」

りんのすけは腕を組んで、疑いの眼差しを向ける。

「違う。記念だ。ただの記念。」

俺はそっぽを向いて言った。

「それなら、別に構わないよ。」

りんのすけは、堂々とただ立っている。それだけで絵になった。

「OK。ありがとう。」

スマホを仕舞い、二人で並んで歩きながら、俺は聞いた。

「大人になった時に、この写真を見返したら、りんのすけはなんて言うんだろうな。」

「さあな。……でも、また行きたいねって言えたら良いな。」

りんのすけは、少し寂しそうな顔で言った。

 俺はその顔を見て、絶対に楽しませてやる、と言うやる気が爆発した。

「りんのすけ、お面買おう!お面!」

俺はりんのすけの手を引っ張る。

「なぜお面?」りんのすけはキョトンとした顔で言う。

 お面屋さんには、ひょっとこやオカメ、有名なキャラや特撮キャラ等のお面が並んでいた。

「りんのすけって、特撮作品見た事ある?」

「いや、見た事ないな。シリーズが長いから手を付けられない、敷居の高いイメージがある。」

「そうか?意外と大人向けな内容が多くて面白いぞ。それじゃあ、この中で知ってるキャラいる?」

「うーん。そうだな。この白い猫にリボンをつけたキャラは流石に知っているぞ。」

「すいませーん。これと、これ下さい。」

俺はお面屋さんのおじさんに、お金を渡して、お面を受け取った。

「色違いにしちゃった。」ニヒヒと笑いながらりんのすけに渡す。

 りんのすけは赤のリボンで、俺は青のリボンの白猫だ。

「これを付けろって言うのか?正気を疑うぞ。」

りんのすけは、恥ずかしそうにお面を睨みつけた。

「まあまあ。お祭りって言うのは、形から入るのが作法なんだよ。その方が何倍も楽しめる。」

俺は力説して、お面を頭の左横に来る様に斜めにつけた。

 りんのすけは諦めた顔をして、お面を頭の右横に来る様に斜めに付ける。

 その後、ヨーヨー掬いに金魚掬い、射的、ひもくじと遊び尽くした。

 ポイが破れて一緒にガッカリしたり、小さな駄菓子の景品をゲットして大喜びしたり、夢中になって楽しんだ。

 混んでいて座る所がないため、高架下の柱に寄りかかって休む。

 俺はりんのすけを待たせて、焼きそば、たこ焼き、フランクフルトを両手に抱えて戻った。

「ソースの物が多いな。」

りんのすけは、茶色い食べ物達を見つめて言う。

「やっぱり、祭りに来たらソース掛かってるもん食いたくなるら?」

あ、つい訛ってしまった。

「ハハハ!つかさが訛ってるの、初めて聞いた!」りんのすけは楽しそうに笑う。

「静岡弁ってつい出ちゃうんだよな。まあ、しょんない。」

俺はフランクフルトに齧り付く。

「しょんないってどう言う意味だ?」りんのすけは首を傾げた。

「えー!意味なんて考えた事なかった。ちょっとググる。」

スマホで意味を検索する。

「仕方がない、だってさ。意外とそのまんまだったな。」

「ほう。面白い。もっと静岡弁で話せ。」

りんのすけは目を輝かせた。

「いやー、静岡弁言えって言われると難しいな。津軽弁とか熊本弁みたいに分かりやすい訛りじゃないし。うーん。ぶしょったいとかか?」

「何だ、ぶしょったいって?」

「ぶしょったいは……。待って、ググるから。あ、だらしないって意味らしい。」

「凄いな。全然意味がわからない。」

りんのすけは、たこ焼きを口に入れた。

「っつ!!!」アツアツのたこ焼きがりんのすけを襲う。

「はは!そりゃそうなるだろー。気をつけろよ。」

 楽しい時間はあっという間だ。辺りはとっくに暗くなり、バラバラと人が帰り始めた。

 食べ終えた後、ゴミをひとまとめにして、ぼちぼち駅に向かう。

 合流する前に泊めてほしいと伝えておいた。そのままりんのすけの家に帰ろう。

 昼間の暑さを残した、夜の気温、湿度。ソースの匂い。綿菓子の匂い。夜の虫の鳴き声と、雑踏が混ざり合う。後片付けをするテキ屋を横目に、祭りの終わりを感じた。

 二人だから、そこまで寂しくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。