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三千喜劇  作者: 笑千代
18/23

銀行海

 散歩中の博美。壁に絵を描いている初老の男性が居る。絵に圧倒されて立ち止まる。


博美     おもしろい絵やね!

男 わっ!   えっ?   びっくりしました。

博美 ごめ~ん、 夢中になってるとこ。   こんなとこに描くんや?

男 ええ、 ここに住んでたおばあさんにお世話になりまして。

博美 描いてって頼まれたん?

男 いえ。

博美 そうなんや。   扉?  不思議、 なんかすごく大きいやん。

男 そう見えますか?

博美 めっちゃ大きい。  やけど、入れない感じ。

男          あなたも描きますか?

博美 え! いいの?

男 どうぞ。

博美 じゃあ、ちょっとだけ。   私は博美。 お名前は?

男 しろがね行海こうかいと言います。

博美 じゃあ行海こうかいって呼ぶで。

行海 はい。             博美さんも、、  不思議なものを描きますね。

博美 そう?

行海 とても広い空間です。 無限に広がるような、、

博美 お! 空間が伝わったね。

行海 球体と、、   小さく、ぼやっとある人影はあなたですか?

博美 へ〜 よく分かったね。  ハハ、 でも、私しかないか〜 行海みたいな発想ないし。

行海          寂しくはなかったですか?

博美 ん?  どうなんやろ?  もう覚えてないわ。   悪くはなかったと思うで。

行海 そうですか。        あなたは、、  とても美しい方ですね。

博美 あら、ありがとう。 これでも女神やからね、 ハハハ。

行海 なるほど。

博美 おばあさんには?

行海 ええ。 私は世界中を旅しているんですが、泊めてもらいました。  食事は、ほんとに美味しかった。

博美 そう、 良い時間を過ごしたんやね。

行海     そう、、 ですね。

博美 そうやで。 良い出会い、感動がたくさん。   慣れへんの?

行海 楽しまなければ良かったと思うことはたくさんあります。

博美 だから描くん?

行海 描きたいと思うから、、 描かずには居られないから、、

博美 幸せは感じやんの?

行海 どうなんでしょうか、、 分かりません。

博美 この絵は、 あなたの心が形になったもの?

行海 そうあればと思っていますが、、

博美 難しいんやね。

行海 博美さんの絵は、、 無限に広がる空間、、   いや、 無限なのはその球体ですね。

博美 そうやね。

行海 あなたは、そこには居ないんですね。

博美 ずっと一緒やったとは思うけどね。

行海 これからも一緒ですか?

博美 そうだといいかな。    ん? その子はどこに居るの?

行海 どこにも居ません。

博美 扉の前? 中?

行海 両方なのか、、  でも分かりません。  ただ、おばあさんはずっとこの子のことを想っていたようです。

博美 人間やから遅かれ早かれやけど、、 悲しいことがあったんや。

行海 そうですね。

博美 おばあさんは、 不幸やったん?

行海 どうなんでしょうか。  でも、幸せであってほしいと思います。 どう思いますか?

博美 人は最期の日が来れば全て無くなるよ。 その後のことは、、 私も分かんないね。

行海 女神のあなたにも分かりませんか?

博美 そうやね。 そういうのを分かりたいと思うのは人間やからちゃう?

行海 それは良いことなんでしょうか?

博美 どないやろ? 良い、悪いやないと思うけど。  でも、良いと思えばいいんちゃう? ハハ、 「いい、いい」ばっかやん。

行海 簡単ではないですね。

博美 そやね。 やけど行海もそんな一つ一つが自分の生き方になってるやん。 ずっと繰り返してさ。  やから、あなた達にとっては無くなることはないんよ。

行海 私もいつか終わりが来ますよ。

博美 あなたがしてきたことは残るで。

行海 そういうつもりでもないですが、、  それに、私はたまたま絵を描いていますが、何も残せない人も居ます。

博美 そんなことはないで。 人は生まれた時点で世界に刻まれるもんや。

行海 そう、、 なのかもしれませんが、、  やっぱり、しっくりきません。 世の中は理不尽なことがたくさんあるので。

博美 真実はちゃんと残ってるよ。

行海 真実だけが通る世界なら良いですが。

博美 それは人間では無理やね。

行海 矛盾を感じます。

博美 そう? 「人間では無理」というのはしっくりきたでしょ?

行海 そうですが、、

博美 「嘘を付く」ってのも真実の側面があるしね。

行海 そして、人の欲望にとって都合が良ければ、その嘘を通そうとするし、通ってしまう。

博美 そうそう。

行海 博美さんはそれでいいんですか? ただすことができるのに。

博美 できへんよ。 女神やからね〜

行海 私と話しているあなたが言いますか?

博美 うぐっ、 痛いとこ突かんといてくれへん。 神は理不尽なもんやの。

行海 本当にそうです、無責任極まりない。

博美 そやね。 でもさ、だからこそ行海みたいな人が居るんやんか。

行海 私がですか?

博美 うん。 あなたは絵で想いを発信してるやん。

行海 自分のためにしてるだけです。

博美 それが大切なんよ。 だから、人の心に届くんやで。

行海 一部の人だけですよ。 それこそ、誰かにとって都合が良ければ、私の絵も利用されるだけです。

博美 あらあら、えらいネガティブやん。 本当はたぎる気持ちをぶつけようと思ってるのに。

行海 そ、それは、、  いや、 でも悪いのはあなたです。

博美 え? 私?

行海 そうです。 気圧けおされるに決まってるでしょ。

博美 そ、そうか。    ごめんね。

行海 いえ。    フフ、

博美 どないしたん?

行海 いえ。 フフ、   おばあさんとは一年前に会ったんです。 がんになってたんですが、そう思えないぐらい元気で、頭が良くて。 いろいろな話をしました。 私の絵のことも、旅のことも楽しそうに聞いてくれたんです。 そして、息子さんを事故で亡くしたことを話してくれました。    1カ月前に娘さんから手紙が届きました。そろそろ限界だと、そして私に会いたがっていると。 私は駆け付けました。 おばあさんは穏やかでしたが、「目が閉じてくるんよ」と言いました。 それから、とてもゆっくりと、 だけど、こんなによどみなく話すことができるのか、 私にもはっきりとおばあさんが見ている世界が見えるんです。 そう、 話を聞かせてくれました。  とても騒がしい女の子が出てきて、その子に連れて行かれるんです。 その子は、大昔に会ったいとこの子で、その時はうるさい子だと思っていた、 嫌だったなと。 その子がどうして出てきたのかは分かりませんが、どんどん先に行きます。 すると大きな扉が出てきて、その先は光があふれていて何も見えません。 気付いたら女の子は居なくなっていて、光の中に息子さんが立っていました。 「ああ、そんなところに居たんだ」   いつの間にかいつもの部屋に居ました。  娘さんは、「こっちに来たらダメって教えてくれたんやで」と言いました。 私も、そうだろうと思った。 こんなめちゃくちゃとも思える話ですが、何も変だと思いませんでした。 それどころか理路整然とすら感じたんです。 だって、私にもその景色が見えたんですから。 そこからは何も話しませんでした。  二日後、私が目を覚ました時には、おばあさんは亡くなっていました。

博美   そう。

行海        多分、死の間際には身体からだの機能がどんどん失われていき、刻まれた記憶が幻視のように目の前に広がるのかもしれません。 ただそれだけのことだったのかもしれません。 そして、私はおばあさんの話に魅せられた。 だから、この絵を描いているんだと思います。 利己的なだけなんです。 この絵に深い意味なんてない。 でも、おばあさんがどういう気持ちだったか、それが分かればと思います。

博美 私には分かれへんよ。 答えてあげたいけど、、

行海 フフ、

博美 なに? さっきから。

行海 答えてあげたいと、、 思ってくれたんですね。

博美 あ! なるほど、そういうことね。 調子が戻ってきたんや。 なかなかいやらしい攻め方やな。

行海 そう言われるのを嬉しく感じます。 一つ教えてくれますか?

博美 どうぞ。

行海 真実は残るというのは、どうやって残るんですか?

博美 ああそれね。 あなた達に説明するのは難しいな。 人は結果とか影響を考えるから。 私にとっては自然なんやけど。 ようは、起こったことは変えられへんってこと。 あなたが今、私と話していることもね。 だからさ、良い生き方をしいや。 行海の心のままに。

行海 地球がちませんよ。

博美 そう思うなら変えたらいいやん。

行海 本当に理不尽ですね。  フフ、

博美 あなたもなかなか嫌味やで。

行海           博美さんの絵はとても素晴らしいです。

博美 そう?

行海 私には描けなかった。 おばあさんが行ったところはそこですよ。       一つだけあなたに訂正してほしいことがあります。

博美 なに? いじわるさん。

行海 「最期の日が来れば全て無くなる」と言いました。 でもね、それは違う。 無くなりませんよ。 おばあさんは天国へ、 いや、幸せな世界に行ったんです。

博美 そう、    そっか。      それはめっちゃ素敵なことやん。


(自宅で無限との会話)


無限 なんか有名な画家の絵が見つかったってニュース出てるけど、これお姉ちゃんの話してたやつやろ? すごいな〜   ハハ、 壁に描いてたことなんて全く問題にされてへんし、現金なもんやで。    あ! 横の絵のことボロクソに言ってる。 ほんま適当なこと言うもんやな。

博美 間違いでもないで。

無限 ん?  へ〜         うん、そやな。

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