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空腹のメノア


「うーん♪ この料理美味しい……!」

「そちら、ミルド海の新鮮なエビを使用した特製グラタンになります」


「なるほど~、熱々で最高です! 次はこのお刺身ください!」

「で、ですが、もう二十皿目になりますよ……? 大丈夫なのですか?」

「心配しないでください! お腹も財布も大丈夫です!」


 ミルド国――とあるレストランにて。

 滞在期間が残り数日になったメノアは、最後までこの国を堪能するように観光を楽しんでいた。

 頻繁に来れる場所ではないため、悔いが残らないように行きたかった店は全部制覇しておきたい。


 行きたい店の候補はあと五店。このままのペースならどうにか完走できそうだ。

 頬が落ちそうになるくらい美味なグラタンを味わいながら、メノアは次に行く店で何を食べるか考える。


「メノア様、追加のお刺身になります」

「ありがとうございます! えへへ、この国の食材って美味しいですよね~。あ、もちろんシェフの腕も凄いですよ?」


「ありがとうございます。ミルド海は冷たい海でして、魚の身がしまっています。だから美味しく感じるのでしょう」

「へぇー! 確かに温かい海の魚って身が柔らかいですもんね」


 メノアは納得しつつ、さらにミルド海にも感謝しながら、ペロリと追加の一皿も完食する。

 こんなに食べるのが早い客は初めてだ。

 それに、胃袋の容量も計り知れない。


 このレストランの一皿一皿は決して少なくない量。普通の客なら、四皿ほどで腹をパンパンに膨らませながら帰っていく。

 それなのに、メノアは二十皿を完食したところでまだ腹八分目とのこと。

 シェフも顔を青くして積み重ねられた皿を見ている。


「んー……ちょっと早いけどデザート食べたくなったなぁ」

「でしたら、スイーツのメニューを持ってきま――」

「いえいえ、大丈夫です。実は、ここに来る道中で気になる甘味処を見つけちゃって。お会計はいくらですか?」


「あぁ、これは失礼いたしました。えっと……二万ゴールドになります」

「ギルドカードで支払います♪」



「ふぅ。美味しかったぁ……ララノア国の海も冷たくならないかなぁ」


 会計を済ませてレストランを後にしたメノアは、先ほど見つけた甘味処へと向かっていた。

 店の前に貼ってあったビラには、パフェというのがおすすめとして紹介されていたはず。


 存在こそ知っているものの、ララノア国ではあまり有名でないスイーツだ。

 だからこそ、余計に味が気になったりする。想像するだけでも涎が出てきそうだ。


「これならレーナたちも誘ってあげた方が良かったかなぁ。アイラちゃんとか絶対喜ぶと思うけど……」


 メノアの頭の中には、この前共に依頼へ向かった三人の顔が浮かんでいた。

 今頃何をしているのだろうか。


 あの日別れた時のライトはやる気に満ち溢れていたため、ガンガン依頼をこなしてレベルアップしているかもしれない。

 そうなると、レーナとアイラもライトに付いて行っているはず。


 若いって良いなぁ……なんて、メノアはしみじみと空を見た。

 彼らを見ていると、自分が新人だった頃を思い出すようで面白い。


 仲間と切磋琢磨していたあの時間……今でも鮮明に覚えているくらいに楽しい時間だった。

 そして、ライトたちと一緒に依頼に行った時、ほんの少しだけどあの時の感覚を取り戻せた気がする。


「はぁー、私も頑張らないと。……パフェを食べた後に」


 と、ここで甘味処に到着。

 珍しく自分らしくないことを考えていたが、ノスタルジーに浸るのはお腹を満たした後だ。

 甘味を求めて前へ前へ。

 今のメノアを止めるのは至難の業である。


「……えっぐ、ひっぐ……うえぇん」

「……訂正。簡単に止められるものだね」


 至難の業……のはずだった。

 ただ、泣いている男の子がメノアの視界に入ったことにより、前へ進む足は容易く寄り道をしてしまう。


 いくら甘味に飢えているメノアと言えど、泣いている子どもがいるのに無視できるほど冷たくはならない。

 ササッと駆け寄って「どうしたの?」と声をかける。


「財布……落どじだ。お母ざんにお使い頼まれだのに……」

「あちゃー。お財布にはいくら入ってたの?」


「千ゴールド……」

「まあまあ大金だね。何買うつもりだったの?」

「お薬……お母ざんが具合悪くで、外に買いに行げないから」


 メノアは自分の袖で男の子の涙を拭う。

 そして、頭をポンポンと撫でた。


 千ゴールドというのは、子どもが持つにしてはなかなかの大金。

 ただ、薬代と考えたら納得できる金額ではある。

 外に買い物にも行けないというのなら、相当具合が悪いのだろう。


 これでこの男の子が薬を買えなかったら、もっと母親の体長が悪くなるかもしれない。


「それじゃあ、この千ゴールドでお母さんにお薬買ってあげて」

「……え? いいの?」


 メノアは男の子に千ゴールドを握らせる。

 このまま薬を買えなかった親子のことを考えたら、きっと出国まで嫌な気持ちで過ごすことになる。

 この国の思い出は綺麗なものだけにしたい。


 そもそも、この男の子に話しかけた瞬間から、メノアは助けてあげることを決めていた。

 千ゴールドで人助けができるなら安いものだ。


「いいのいいの。その服ってギルドの服だよね? 冒険者好きなんでしょ?」

「う、うん。冒険者になるのが将来の夢なんだ」


「それなら冒険者の先輩としてサービスだよ♪」

「え⁉ お姉さん冒険者なの⁉」


 男の子はキラキラとした目でメノアを見つめていた。

 この様子だと、冒険者が夢というのはリップサービスではなく本当のこと。

 まだスキルを獲得していない段階だが、何となくこの子は立派に成長する気がする。


「そうそう、冒険者だよ~。まだまだ有名じゃないけどね~」

「名前は⁉」


「メノア・ジブリエラだよ」

「メノアさん! ありがとう!」


 男の子は勢いよく頭を下げる。

 心からの感謝が伝わってきて、逆にちょっと恥ずかしい。


「僕も冒険者になるから待っててね!」

「うんうん、楽しみにしてるよ」

「頑張る! またね!」


 そう言うと、男の子は薬を買うためにトテトテと元来た方向に駆けていく。

 千ゴールドを握りしめて、人の波の中に消えて行った。

 あとは彼が薬を無事に母親に届けられることを祈るのみ。


 まあ、きっと大丈夫だろう。

 そんなことより――と、メノアは甘味処の看板を見た。

 良いことをした後に食べるデザートが一番美味しい。


 パフェというものの味を想像するだけでも、またお腹が空いてくる。


「さてさて~♪ パフェにも色んな種類があるのか~」


 外にある立て看板には、この甘味処のメイン商品であるパフェがたくさん載っていた。

 チョコレート、ストロベリー、マンゴー、バナナなどなど。


 メノアのために作られたのかと思うほど好きな味が並んでいる。

 これは全部試さなくてはララノア国に帰れない。

 上から順に頼んで、最後に一番好きな味のパフェをもう一回食べよう。


「美味しかったらパーティーのみんなにも教えてあげないと。……あ、お土産のこと何も考えてなかった」


 パーティーの仲間のことを思い出していたら、ついでにこの国のお土産をまだ何も買っていないことも思い出した。

 ランドーラ工房を除けば、お店も飲食店以外行けていない。


 流石のメノアも、お土産に食べ物ではなく何か形に残るものを買おうと思っている。

 アクセサリーとか置物とか、この国で売れている本でも良いかも。

 あと数日でこの国を出るため、できれば今日のうちにお土産も買っておかないと。


「……最後にレーナたちにも会いたいなぁ。サプライズで帰る日に顔見せたらビックリするかな、くふふ」


 いたずらをする時にメノアが必ず見せる含み笑い。

 レーナたちは、メノアが帰る日のことを知っている。


 そんな日に突然メノアが目の前に訪れたら、きっと驚いて面白い反応を見せてくれるだろう。

 レーナたちが住んでいる場所は馬車の中で聞いておいた。


 窓から入ったらもっと驚くかな? いや、泥棒だと間違われてコテンパンにされるかも。

 まだどうやって登場するかは分からないが、とにかくレーナたちに会いに行くことは決まった。


「変装とかしたら面白いかも! まずはお髭を――」



「――すみません。少しよろしいですか?」


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