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冒険者メノア

 ギルドの近くには、高級感のある飲食店や騒げる酒場などが集まっている。

 短期間で大金を稼いで、湯水のように使う冒険者は絶好の客だ。この地域に店を持つものたちは、いかにして冒険者を引き入れるかに命を注いでいると言っても過言ではない。


 ミルド国の中でも、眠らない街と呼ばれるほどに栄えているこの地域。一日中酒場で騒いでいる冒険者は、もはや名物とも言えるであろう。

 しかし、もちろんこの騒がしさを良く思っていない人間もいる。


 レーナたちもその一人だ。


「多分ここにで合ってるはずだよ」

「この喫茶店、他の店とは全然雰囲気が違うな。庶民的だし、うるさくないし」


 眠らない街の中、異彩を放つ森閑とした喫茶店。いつか行ってみたいとレーナがチェックしていた店でもある。

 どんなに美味しい料理を出されても、騒がしくて落ち着けないのでは心から満足できない。


 そう言う意味で、この喫茶店は素晴らしい店だ。騒ぐような客はここに来ないし、誰にも邪魔されずに済む。

 わざわざこの喫茶店を選ぶということは、何となく自分たちと考え方も似ているのだろう。


「アイラちゃん、ここから中の様子は確認できる?」

「……うーん。すみません、死角になっているみたいです」

「それじゃあ……中に入ってみるしかないね」


 レーナは静かに喫茶店の扉を開ける。

 そして、中を軽く見渡した。ラウンジで聞いた話が本当なら、ここにいると思ったが……。

 中には家族や昼休憩のギルド職員がポツポツと。


「あ!」


 Sランク冒険者と思わしき人間はいない……いや、いた。

 隣の席に武器と外した防具。明らかに空気が異質だ。

 しかも、喫茶店とは思えないほど超大盛りのサンドイッチを食している。


 総重量一キロは優に超えているはず。自分なら一日かけても食べ切れる気がしない。

 あれだけ食べていてもスリムな体を維持できるのは、何か秘訣があるのだろうか。こんなタイミングでもちょっと気になってしまう。


「ライト、アイラちゃん。この席に座ろ」

「レーナさん、あの人もしかして」


「うん。アイラちゃん、あの人のスキルは見える?」

「はい。スキルは――」


 アイラはスキルを噛み砕いて告げる。


「《旋律》――様々な効果を付与できる旋律を生み出すことができる……です」

「え? そのスキル知ってる……まさか」


 レーナは困惑していた。

 アイラが告げたスキルは、自分のよく知っている人物と全く同じものだったからだ。

 この世界には、上位互換や下位互換と呼ばれるようなスキルは存在しているものの、全く同じスキルというのは存在していない。


 それなのに、ここにはいないであろうスキルを持つ人間がいる。

 よく観察すれば、髪型を変えてはいるが顔は見覚えがある。

 レーナは居ても立っても居られなかった。


「ごめん、ライト。話しかけてみる」

「え? ちょ、レーナ」


 レーナは座ったばかりの席から立ち上がると、超大盛りサンドイッチを頬張っている冒険者の肩を掴む。

 ライトからは控えるように言われた行為だが、面倒事にはならない自信があった。

 レーナの知る限り、《旋律》のスキルを持つ冒険者はそんな性格ではない。

 むしろその逆。どんな人間よりも温厚だ。


「メノアさん、ですよね」

「ふぇ!? どうして私の名前を……って、レーナ?」


 やっぱり。

 何故かミルド国にいるこの冒険者の名前はメノア。

 ピンク色のフワッとした髪がよく目立つ。首元には小さなオカリナがぶら下がっていた。


 レーナと同じくララノア国出身のSランク冒険者であり、ギルドでも屈指のサポート役として重宝されていた人物だ。

 レーナが知る中でも他を寄せ付けないくらいの聖人であり、危険という単語からはこの世で最もかけ離れている存在だと言い切れる。


 国を跨いで再会できた喜びと、追いかけていた人間が見当はずれだったことの悲しさ。

 どちらかと言うと、やはり再会できた喜びの方が大きい。


「はぁ……緊張して損した」

「レーナ、もしかして知り合いなのか?」

「うん。新人の頃にお世話になった先輩だよ。メノアさんっていうの」


「って言うことは……この人は俺たちが探している人間じゃなかったっていうことだな」

「そういうこと。ふりだしに戻った感じだね」

「残念です……」


「ちょ、ちょっと。私を無視して話を進めないでよ~」


 メノアをほったらかしにして徒労を嘆く三人。

 急に話しかけられるし、よく分からない理由で嘆かれるし訳が分からない。

 メノアはぐいぐいとレーナの袖を引っ張る。


「ああ、すみません。ちょっと人探しをしてたんですけど、メノアさんに行きついちゃって」

「えぇえ? それはまた奇妙なことが起こったんだね」


「まさかメノアさんがこんな国にいるとは思わなかったです。どうしてミルド国に来たんですか?」

「私は旅行だよ~。久しぶりに長期の休暇を貰えたからね♪」


 はっはっはーと自慢するメノア。

 Sランク冒険者ともなると、旅行に行けるほどまとまった休日の取得は難しい。


 どうやってメンバーやギルドに承認してもらったのかは知らないが、相当頼み込んだようだ。

 メノアが自慢したくなる気持ちは何となく分かる。


「そうだ、レーナこそどうしてこの国にいるの?」

「新しい依頼を受けたくてこの国に来たんです」


「ほほー、凄い向上心だね。ということは、後ろのお二人は仲間なのかな?」

「ライトにアイラちゃんです。とっても頼りになる仲間ですよ」

「は、初めまして……」


 まさかの再会でレーナと盛り上がるメノアに、ライトはようやく挨拶をする。

 初対面だが、何となく優しそうで話しやすい人という印象。

 確かにこの人はマリアが探している冒険者ではない。


 たった今出会ったばかりのライトでも、雰囲気だけでそれを察することができた。


「初めまして~私はメノアっていいます。ライト君……ってもしかしてだけど、邪龍を倒したのは君だったりする?」

「え、あ……はい。一応」

「やっぱり! 噂では聞いてるよ! 新人の冒険者って聞いてたけど、こんなところでお目にかかれるなんて!」


 メノアは目を輝かせてライトを見る。

 その目からは、しっかりとしたリスペクトの意思が感じられた。

 邪龍を倒したという功績は、やはりSランク冒険者にとっても一目置かれるものらしい。

 いつかは自分もSランク冒険者に昇格できるのかなぁと、ライトは軽い気持ちで考える。


「アイラちゃんもよろしくね♪ あ、飴あるけど食べる?」

「は、はい。ありがとうございます。メノアさん」


 メノアはポケットから飴を取り出し、ニコリと笑ってアイラに渡した。

 アイラのような幼い女の子の扱いも慣れているようで、どうすれば仲良くなれるのかを知っている。

 普段から子どもと接する機会が多いのだろうか。


 警戒心が人一倍強いアイラも、メノアは無害だと認識して気を緩めていた。

 こういう人間がパーティーに一人でもいるだけで、雰囲気はグンと良くなるはず。

 これでサポート系のスキルを持っているというのだから、他パーティーからの引く手あまたであろう。


「メノアさんはあとどれくらいミルド国にいるんですか?」

「うーん、大体二週間くらいかなぁ。のんびり観光するつもり」

「観光かぁ。そういえば私たちしたことなかったなぁ」



「そうなの? それなら、いくつか一緒に回らない? 私もやっぱり一人じゃ寂しいし、大勢の方が楽しそうだし!」


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