剣神の真価
「あ! 私、聞いたことあるかも! スキルが進化したってことじゃない!?」
「スキルが進化?」
「そうそう。熟練度が一定に達すると、能力が底上げされるの! 進化するスキルは限られてるらしいけど、アイラちゃんの《鑑定》はそれだと思う!」
何も分からないアイラとライトに、レーナが過去に聞いたことのある話を説明した。
スキルには熟練度というものがあり、使い続けることで効率が良くなったり能力が向上したりする。熟練度はどんなスキルにでも当てはまることであり、どれほど強力なスキルでも熟練度がゼロなら本来の力の半分も出すことができない。
レーナが《剣神》のスキルを持つライトより総合力が上回っているのは、この熟練度が大きく関係しているからだ。
そんなスキルを語る上で欠かせない要素である熟練度だが――ごくまれに「進化」とも言えるくらい能力が向上するスキルが存在している。
戦闘系のスキルだけでなく、医療系のスキルにもその例が多い。
今回のアイラの《鑑定》もその一例だ。
「アイラちゃんの《鑑定》はどんな風になったの?」
「えっと、見ることができる情報がより正確になりました……例えば」
そう言ってアイラは棺に入っている武器と防具を見た。
「ここにある武器と防具……全部に呪いが付与されてます。かなり強力なものです」
「え? 呪い!? 触ったら危なかったかも……」
「なるほど。呪いが付与されてるのなら、ロードっていう人がアンデッド化したのも納得できるな」
危ない危ないと棺から離れる二人。
もしアイラに止めてもらわず触っていたとしたら、呪いの効果が自分たちに移っていたかもしれない。
そして、ロードがアンデッド化した謎が解消されてスッキリした。どうやって呪いが付与されたのか知らないが、呪いの装備と共に永眠するなんて可哀想な話である。
呪いだらけの棺なんて、相当誰かに恨まれていたのだろう。
「それじゃあ、あの鎧も呪われてたってことだよね?」
「結局売れはしなかったな。もう今さら関係ないけど」
「ですね。とても強力な呪いなので、大変なことになっていたと思います」
アイラの《鑑定》によって、鎧の後悔が無駄だったと分かる。
あのままミルド国に持ち込んでいたとしたら、自分たちでなく他の冒険者たちにも呪いが付与されていた。
あやうく大事件の加害者になってしまうところだった。
アイラがいてくれたことと、崖突き落とし作戦を提案してくれたことに感謝しかない。
「《鑑定》が進化したら、今まで見ることができなかったスキルも見れるようになるのかな?」
「どうなんでしょう。ちょっと見てみます」
レーナに言われたことが気になって、アイラはライトの方を見る。
《睡魔》や《白刃抜刀》など、その辺りのスキルは進化前とほとんど見えるものが変わらない。いつも通り、それぞれの効果が書いてある。
やっぱりスキルの鑑定にはあまり影響しないのかも――と思っていた。
思っていた、が。
ただ、一つだけ明らかに変わったものがあった。
《剣神》だ。
「――うひゃあぁ!?」
《剣を手にした時の攻撃力上昇》《剣を手にした時のジャンプ力上昇》《剣を手にした時のスピード上昇》《剣を手にした時の空中制御向上》《剣を手にした時の精密性向上》《剣を手にした時のスタミナ上昇》《剣を手にした時の自然治癒力上昇》《剣を手にした時のバランス感覚向上》《剣を手にした時の腕力上昇》《剣を手にした時の脚力上昇》《剣を手にした時の瞬発力上昇》《剣を手にした時のテクニック上昇》《剣を手にした時のコントロール上昇》《剣を手にした時の命中率増加》《魔法耐性大》《炎属性耐性小》《光属性耐性小》《闇属性耐性小》《水属性耐性小》《雷属性耐性小》《氷属性耐性小》《土属性耐性小》《風属性耐性小》《毒属性耐性小》《魔属性耐性小》
これらの情報が一気にアイラの目に入り込んでくる。
ついつい叫んでしまうほどに多すぎる効果と情報。
《剣神》が様々な効果を含んだスキルということは知っていたが、ここまで多く含まれているなんて知らなかった。
しかも、今見えている効果が全部ではない。他にもまだまだ湧くように効果が確認できる。
こんなに効果があるのなら、ライトがあそこまで強いのも納得だ。
「ア、アイラ? どうしたんだ? 急にビックリしたぞ」
「ビックリしたのは私もです……」
「……? それでどうだったんだ? やっぱり何か変わってたか?」
「はい。《剣神》のスキルについて、より詳しく知ることができました」
「本当!? アイラちゃん、教えてよ!」
「そうですね……ここで話すと長くなりすぎるので、馬車の中でお話ししたいです」
こうして三人は馬車が待っているであろう場所に戻った。
まず何から説明していいのか分からなかったが、アイラは落ち着いて一から丁寧に話す。
ライト自身は《剣神》にそこまで効果が含まれている実感がなかったようだ。
言われてみると確かにそれらの恩恵を受けている感じがするとのこと。
この鑑定がきっかけで、もっと《剣神》を使いこなしてくれるようになるだろうか。
これからのライトに期待が膨らむ。
「とにかく、今日は依頼の成功とアイラちゃんの成長をお祝いしなくちゃね!」
「お、いいなそれ」
「楽しみです……!」
三人は馬車の中で笑顔を咲かせる。
今日はミルド国に来て初めての祝勝会。
異国での生活でドタバタしていたが、ようやく落ち着いて楽しめる時間が確保できそうだ。
今日くらいはお金を奮発しよう。アイラの喜ぶ顔が目に浮かぶ。
レーナは自分を信じて付いてきてくれた二人に感謝しつつ、今日の夜のことを思い浮かべてニヤニヤとしていたのだった。