ナノ
「部屋が荒らされてる……掃除したばっかりなのに」
ヴァンパイアは、ライトたちが通った後の部屋を見て悲しげに呟く。
確かにライトたちはいくつか部屋を散策していた。
そしてそれは、逃げ道を作るために必要なことだ。
扉は開けっ放しにしておき、いざという時は窓から逃げられるように打ち付けられた板を剥がしている。
自分たちの行動は冒険者としての基本であり、間違っていることは一つもない。
しかし、それでもヴァンパイアの表情を見ると少しだけ心が痛んだ。
「その……ごめんね?」
「……掃除手伝ってくれたら許してあげる」
「レ、レーナ、どうするんだ?」
「えっと、一応荒らしたのは私たちだし……」
と、レーナはヴァンパイアに続いて掃除に取り掛かる。
こうなったら、ライトも手伝うしか道が残されていない。
レーナはもうヴァンパイアのことを敵として認識していないようだ。
確かにライトたちは、耳を既に貰ったため戦う必要がない。
ついでにヴァンパイアも攻撃してくる意志を持っていなかった。
今は敵同士という関係ではなく、掃除を手伝う仲間(?)という奇妙な関係だ。
「そういえばアナタの名前を聞いてなかったけど、ヴァンパイアでいいの?」
「名前はナノ。呼び方はどうでもいい」
「あ、うん……私はレーナ。こっちはライト」
ナノ――その名前が二人の頭に刻み込まれる。
どういうわけか、かなりしっくりくる名前だ。
まるで昔から知っていたような、そんな不思議な気持ちになった。
「ナノは人を襲ってるんだよね? もうしないって誓ってくれないと、私たちは帰れなくなるんだけど」
「別に私から襲ってるわけじゃない。勝手に人間の方が近付いてくるだけ」
「え? そうなの?」
予想外の答えに、レーナは目を丸くする。
ギルドから聞いていた情報だと、かなり凶悪な話が書かれてあったはずだ。
「人間たちが私を殺そうとしてここに来る。私は殺されたくないから殺すしかない」
「……どう思う? ライト」
「報酬欲しさで依頼を受ける冒険者が多いんじゃないか? ナノが嘘を言ってるようには見えないし」
「そっか。そうだね、ちょっと勘違いしてたかも」
二人の会話を聞いて、ナノはピクリと体を動かす。
表情は大きく変化していないが、少しだけ嬉しそうだ。
「すごい。私の話を信じる人間は珍しい」
「まあ……納得はできたから」
「それじゃあどうするかだよね。私たちがヴァンパイアを倒したって報告したら、人はもう来なくなるのかな?」
「少なくなると思うよ。だって依頼がなくなるわけだし」
「なるほどなるほど」
「それにレーナはSランク冒険者だから、この辺に冒険者を近付けないようギルドに伝えてもいいかもな。無視されることはないと思う」
二人の会話に、ナノはもう一度ピクリと反応した。
これもまた、少しだけ嬉しそうな表情である。
「そうなの? それは助かるかも」
ありがとう――と、初めて感謝の言葉を口にする。
とても満足そうな様子だ。
まだ案の段階であったが、引くに引けなくなったライトとレーナだった。
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