因果応報
「おはよう。いい朝だね――状況は良くないみたいだけど」
「ギルドマスター!? 大変なことが起こりました!」
「早くこちらへ!」
「聖女様が大変です!」
パニックになってギルドマスターを引っ張る聖女の従者たち。
ギルドマスターに望みを託しているのか、かなり必死な様子だ。
グイグイと人込みに揉まれながら、ようやく聖女のベッドが見えてくる。
「……話は聞いてたけど、本当だったんだね。まさか聖女が襲撃されるなんて」
「朝に様子を見に行くとグッタリしていて……それで声をかけても返事がなくて……」
「ボクは医者じゃないから分からないけど、聖女は治りそうなの?」
「――かなり厳しいでしょうね」
ギルドマスターの問いに、後ろにいた医者があっさりと答える。
青くなる従者たちの顔。
下手をすれば医者が襲われてしまいそうだ。
「あ、先生。お久しぶり」
「お久しぶりです。パンを食べてお腹を壊した時以来ですね」
「ちょっと、恥ずかしい――じゃなくて。聖女は本当に治らないんですか?」
はい――と、今度は重く医者が答える。
「症状を見たところ、この毒はトサトンキンという毒です。この毒の解毒に成功したのは、公式なもので一件、非公式なもので一件しか例がありません」
「かなり難しい毒ってことだね。ちなみに先生でも解毒できそうにないの?」
「いえ。一応私は解毒に成功したことがあります」
「へ? え? どういうこと?」
頭が混乱するギルドマスター。
一体目の前の医者は何を言っているのか。
解毒に成功したことがあるのなら、どうして治せないと言うのか。
起きたばかりの脳みそでは、話に付いて行くことができない。
「先生は解毒に成功したことがあるんだよね? それなら聖女も治せるんじゃないの?」
「正確に言うと、私一人の力で成功したわけではないです。むしろ、私の働きは一割程度――とある青年がいなければ解毒は不可能です」
「青年? 誰? その人を呼んでくるのはダメ?」
「残念ながら……その青年はもうこの国を出国してしまったようです。本当にタイミングが悪い」
医者は悔しそうに。
しかし冷静に事実を伝える。
ギルドマスターの質問一つ一つに、分かりやすく丁寧に答えていた。
「それは……本当に残念だね。その青年の代役になりそうな人がいればいいんだけど」
「代役ですと…………木の実の成長速度を高めるスキルの人間がいれば、何とかなる可能性はあります」
「木の実? 農民ってこと? それなら何人かいそうな気がするけど」
医者が代役として挙げたのは、少々特殊なスキルを持つ人間。
もしこの世界にいるとするならば、恐らくその人間は農民として働いているだろう。
それならば僅かに希望が見えてきた。
探せばきっと何人かは候補が見つかるはずだ。
「今の聞いてたよね? この条件の人を農民の中から探してみてよ」
「…………」
「…………」
「…………」
「ん? どうしたの?」
ギルドマスターの指令に、何やら気まずそうな顔をする従者たち。
どういうわけか、誰も積極的に動こうとしていない。
その中で、一人の従者が口を開く。
「実は……聖女様は農民を嫌っておりまして。候補となりそうな農民は、連絡も取れないほどの辺境に追い出している現状です」
「……へ? 連絡も取れないって、こっちから出向くとしてもめちゃくちゃ時間かかるよね? どうするの? 間に合わないよ」
「それに加えて、農民たちは聖女様に少なからずマイナスなイメージを持っています。協力してもらえるかどうかすら……」
明らかになる現実。
聖女が農民を嫌っていることは何となく知っていたが、まさかここまで排除するような動きをしているとは思ってもいなかった。
もし運よく見つけることができたとしても、そもそも協力してくれないのでは意味がない。
「ツケが回ってきた……ってことだね」
不意にギルドマスターから出たその言葉に。
兵士、側近、従者。
誰も異を唱える者はいなかった。
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