制裁
「……ふぅ」
聖女は自室の真ん中でため息をこぼす。
神殿が邪龍によって破壊されてしまったため、今は即席で用意された小さな家で過ごすしかない。
今まででは考えられないほど質素な家だ。
工事が終わるまでに早くても数日。
それまで我慢すると考えたら、自然にため息の数は増えていった。
(それよりあの男、ライトの情報をまとめなくては……実際にこの目で見るのが一番早いと思いますけど、どうしたらいいのでしょう)
聖女の頭にあったのは、邪龍や家の問題だけではない。
むしろライトの問題に比べれば、それらはどうでもいいとさえ言える。
ライトが邪龍と戦っていた時――明らかにレーナを上回る力を感じた。
聖女の記憶が正しければ、ライトのスキルは《木の実マスター》だったはず。
農作業くらいでしか役に立たないようなスキルであり、とても戦闘系のスキルとは言えなかった。
ならばどうして、ライトは邪龍を倒すことができたのか。
その答えは、何時間も考えたが出てくることはない。
「……今日は寝ましょう。また明日コンタクトを取ればいいだけです」
「――それは無理だと思いますよ」
聖女の呟きに反応する声。
聖女は咄嗟にその声がする方向を向く。
そこには――レーナがいた。
「レ、レーナさん! どうしてここに!」
「私たちは明日この国を出るので、アナタにお別れを言いにきました」
「――! 何を馬鹿なことを!」
聖女は頭の中で状況を整理する。
レーナがここにいることは、この際考えなくてもいい。
問題だったのは、レーナがこの国から出ていくということ。
レーナの性格からして、そんな大胆なことはしないと踏んでいたが――そんなことはなかったようだ。
それも明日出国となると、かなり前から企んでいたことが分かる。
しかし。
出国する前にその事実を知れたのは大きい。
まだ出国していないのであれば、強引に引き留めることができる。
聖女は一度消した電気をつけ、レーナと目を合わせた。
「出国は考え直してください。私も手荒なことはしたくありませ――」
「……聖女さん。その前に私の質問に答えてくださいますか?」
聖女の言葉を遮って。
レーナは袋の中から一つの薬瓶を取り出す。
一見普通の薬瓶であるが、聖女は一瞬でそれが何か理解した。
「神殿にあったアナタの部屋から見つけました。アイラちゃんに打ち込まれたものと同じ毒です」
「……それが何か?」
「とぼけないでください。アナタの仕業だってことは分かっています」
「…………」
聖女はそれ以上言い訳をすることはない。
しても無駄だということが分かっているらしい。
ただレーナを見つめているだけだ。
「私はレーナさんのためを思ってですね――」
「黙ってください。私はアナタを許せません」
グッと息を呑んで、レーナは付け加える。
「アナタにも、アイラちゃんの苦しみを知ってもらいます」
そう言ってレーナが取り出したのは、これもまた聖女の部屋から回収した注射器。
中にはトサトンキンが入っており、今から何をしようとしているのかは明白だ。
「――クッ!」
逃げ場がない空間で、聖女は近くにあった武器を手に取って応戦する。
やはりこの地位に上り詰めただけあって、動きや判断はそれなりに秀でていた。
そこら辺の冒険者が相手でも、恐らく五分五分の戦いができるだろう。
しかしそれでも、レーナからすれば遅すぎる。
流れるように背後へ回り込み、足を払い、転んだ聖女の口を押さえ、声を出させないようにしたまま首に毒を打ち込む。
聖女は抵抗できるはずもなく、そのまま気を失った。
「……ごめんなさい。さようなら」
無意識のうちに。
レーナはその言葉を発していたのだった。
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