39.王子
「これは……またとんでもない人材が出て来たな」
国王がようやくという感じで言葉を発した。
それによって、周囲の者たちも再起動した様子。
「できれば、国に仕官して貰いたいのじゃがのう」
「彼の性格から考えれば、無理強いしては敵対されそうですよ。彼は今のところ冒険者になることを希望しています。ここは誼を結ぶに止めておくことをお勧めします」
国王の呟きに、アルシャークはそんなことを言っている。聞こえてるぞ?
「何を言っているのです。来るべき戦いに備えて、是非とも手駒に加えておくべきでしょう。幸い平民のようですので、奴隷にしてしまっても問題ないでしょうし」
国王の隣にいた少年が、唐突にそんなことを言い出した。
謁見の間でも玉座の隣にいたから、この国の王子だろう。まだ十代半ば、王妃と同じ金色の巻き毛、緑がかった青い瞳のイケメンだった。
「……お前は何を言っているのだ?」
国王は、王子の発現に驚いている様子。「有能な子供が見たかっただけ」と言っていたのは本心なのだろう。気のいいおっさんみたいだ。だが、王妃も隣にいる王女らしい子も、特に反応は無かった。
「父上は何も心配する必要はありません。ギア、その子供を捕らえよ!」
王子が騎士姿の男に指示を出す。騎士は腰から何やら武器の様な物を手にすると、俺に出て来た。それは、剣ではなく。メイスの様な物で、何やら術式が仕込まれているのは感じるので魔道具なのだろう。スタンガンの様な、相手を無力化するための物と予想。
「やめぬか! ギア、下がれ!」
国王の指示が飛ぶが、騎士は無視して俺に近づく。
俺は、レイルに家族たちを守るよう目配せした、レイルも俺のことは心配していない様子で、素直に頷いた。
騎士がメイスを振るう。
メイスは俺に届くことなく、三十センチほど手前で紫電を放っていた。
「結界か。面倒なスキルだな」
王子は呟くと、女騎士の方に目で指示を出したみたいだ。
女騎士もメイス状の武器を手にして、俺の両親に近づいた。だが、そっちはアンリの結界に阻まれる。
「王族に楯突くとは……母上、近衛騎士を呼んでください」
王妃は頷くと、その豊かな胸元からペンダントの様な物を取り出して、何やら術式を展開した。あれもどうやら魔道具らしい。防犯ブザーの様な物なのだろう。
「お、お前たちは一体どうしたのじゃ?」
国王が狼狽している。いつの間にかお飾りの王になっていたらしい。周囲にいる貴族らも無反応だった。グランのおっさんだけが、面白そうに目を細めていたが。
王子らは、近衛騎士の到着を待っているらしくおとなしくしている。話をするなら今がチャンスかな。
「陛下。この事態は、陛下が望んだものでは無いみたいですが。この場を収めるために、抵抗してもよろしいですか?」
一応、好き勝手に暴れるのはまずいだろうと訊いてみる。脳内では『殿中でござる』とか囁いていて、いつの時代だよとか突っ込もうと思ったけど、こっちの世界じゃそぐわない言葉でもないのか。
「う、うむ、よく判らぬが、出来るのなら王子らを止めておくれ」
許可が下りたので、まずは行動準備。
魔術発動待機プロセスに仕込んである、初級の雷魔術を中級の物に換装。同じく中級の風魔法について、範囲を収束するとともに威力を最大まで上げておく。普段は暴発しても影響が少なく済む様に軽微な魔術にしてあったので、対人で相手を無力化出来るものにしたのだ。これ以上にすると殺傷してしまいそうなのでこの程度に止めておく。
さて、反撃開始だ。




