19.引っ越し
ずっと立ち話では疲れるからと、中庭に面したテラスに案内される。
白いテーブルを囲うように椅子が並べられており、時計回りにアルシャーク、アンリ、俺、母さん、父さんの順に座る。セーナはアンリの後ろに立って控えていた。
運ばれてきた紅茶を飲み、ようやく落ち着いたらしいアンリが口を開いた。
「それで。お父様がこの子を王都に連れていくんですの?」
アンリは固有能力持ちの扱いを知っている様子。
アルシャークは意外そうに方眉を上げた。
「まさか。そんなことをして、王都の連中にアフロス君を囲わせる機会を与えて何になるんだい? 折角仲良くなれたローディたちまで失いかねないよね」
そういう事態もありうるのか。
「うちに仕えて貰えるかどうかはともかく、領内にいてほしい人材なんだから、不義理を働くつもりはないよ。アフロス君の固有能力がどんなものか、気にはなるけどさ」
アンリや俺に説明しているというよりも、父さんたちに言っているみたいだった。
「固有能力って、そこまでのものなんですか?」
さすがに不穏に思ったのか、母さんが問う。
「どういう能力かによりますが、基本的に通常のスキルより強力なものであることは間違いないでしょう。王都にいる固有能力持ちを四人知っていますが、内訳は上級冒険者、近衛騎士、宮廷魔術師、将軍。アフロス君の場合、通常のスキルも魔術系ですので、固有能力も更に強力な魔術もしくは補助系統だと思われますし、ましてや現時点で宮廷魔術師クラスの魔力持ちです。どんな固有能力だったとしても、引く手数多でしょうね」
アルシャークの説明に、父さんは開いた口が塞がらず、母さんは「すごいね~」と単純に喜んで、俺の頭を撫でていた。
「では、どうするつもりなんですの?」
アンリが再び問う。
「私としては、これまで通り、懇意にして貰えたらと思っているんだが……」
アルシャークは言いよどみ、俺たちを見る。
俺は首をかしげて、続きを促した。
「できれば、他所から変なちょっかいを掛けられないように、うちで囲ってしまいたい。ローディ、ベルナ。アフロス君の将来を縛るつもりはないから、正式にうちの家に仕官して貰えないだろうか?」
元々アルシャークと一緒に仕事をしていた両親に否やはなく。
こうして、一家共々伯爵家に仕えることになった。
***
今の家は引き払い、伯爵の屋敷の敷地内、執務のために陪臣貴族が寝泊まりする家の一つに引っ越すことになった。当然、ケリーも一緒だ。
広さは然程なく華美でもないが、しっかりした造りの家で、これにある程度の庭があれば屋敷と呼んでも差し支えないほどの物だった。
周囲にいるのは陪臣貴族とその家族や家臣で、平民の俺たちでは肩身の狭い思いをしそうだったのだが、そこはアルシャークが予め手を打った様で、特にトラブルなどは起きなかった。元々、伯爵が気さくで身分を気にしない付き合いを好まれる方だと皆が理解していることもあるのだろう。公式の場で無礼を働こうものなら厳罰に処することを躊躇う方でもないらしいのだが、一方で身分を理不尽に笠に着る様な行いも嫌悪していることでも有名らしい。そのおかげで、領民にも人気が高く、辺境であるにも関わらず大きな商会がいくつも支店を出していた。
アルシャークが手配したのだろう、アンリの教育係の人たちが、交代で新居を訪れるようになった。
雑談レベルの話をするだけなのだが、その雑談の中で、俺の興味や学力を探っているみたいだった。
鍛錬についてはさすがにまだ早いと思われているらしく、俺が五歳になったら色々鍛えてくれると約束してくれた。




