戻ってきて初めての魔法?
変態王子が来訪したあの日から1週間以上が経つが、あれから変態王子からは音沙汰なし。奏人の乱入で何か処罰されたらと不安だったが、平和な日々を過ごしている。
そもそも、王子が我が家にやって来たのは、王子の独断だそうで、逆に陛下から謝罪の手紙が届いた。
私との婚約もちゃんと白紙に戻っていて、再婚約は考えていないと明記していた。というか、変態王子には、私との婚約を白紙にした後に新しい婚約者ができていた。
同じ公爵令嬢で、第一王子派だと言うから、後ろ楯としても申し分ない相手だろう。私よりも相応しい相手だと思う。相手の令嬢も第一王子が大好きなようで、私とは違って本人の希望も強かったみたい。その点も、私よりも相応しいと思う。
それなのに、あの変態王子は勝手に訪問してきて、勝手に婚約者にすると抱きついてきて、私の気持ちは完全無視。
婚約者がいるのに他の女性に結婚を迫るなんて最低だ。陛下からは、厳重注意と謹慎処分を受けたと聞いたので、変態王子もこれ以上何かしてくることはないだろうと思う。
それに、私の奏人への気持ちもハッキリと伝えたし、変態王子もそこはちゃんと理解したはず。
ファンとして、身も心も全てを奏人の為に捧げると、ファンになった日に心に誓った。
奏人以外の人にかける労力も心も微塵もない。私は、奏人一筋。婚約者がいても他の女性に言い寄る変態王子とは違うのです。
♢♢♢♢♢♢
「カナト、基礎訓練が終わったら、次はこっちで新人との打ち合いしてみろ。」
「はい、分かりました。」
我が家の護衛騎士達の訓練に、本人の希望で奏人も参加している。
『ここにいる間、何もしないと体が鈍るし、自分の体の為にも何かしたいな。そうだな…騎士になるのもいいな。ミア、騎士の訓練に参加出来るよう話してくれないか?』
奏人の希望は、何でも叶えたい。それで、両親に話して、無事に了承を得られた。
変態王子の件があった翌日には、奏人は早速訓練に参加している。
当然だけど、日本では騎士の訓練に参加したことはないし、剣を扱ったこともない。それでも、元々体を鍛えていて体力もある。しかも、運動神経が良くて言われたことは少し練習したら直ぐに出来るようになる。団長からも褒められていた。奏人は国宝級イケメンなだけじゃなく、何でも出来る天才だ。
「はぁぁ、剣を振ってる姿も格好いい。」
私は、奏人が訓練中ひっそりと応援するのが日課になっている。
歌手としても役者としても素晴らしい奏人だけど、騎士として頑張っている姿も素晴らしく格好いい。
真剣な表情で剣を打ち合う姿に、打ち負かした相手に手を差し伸べる姿に、額から流れる汗を手で拭う仕草に、全てが格好良くて見惚れてしまう。
(あぁぁ、あの騎士さん相手してもらっていいな。はぁぁ、奏人の汗になりたい。楽しそうだな。いいなぁ、みんなが羨ましい。)
私も奏人と一緒に騎士の訓練に参加したいと両親にお願いしたら却下された。
特に、お父様が猛反対して許してくれなかった。この世界では、令嬢が剣を持つことは余り良いことではないようだ。それに、私が参加すると、騎士のみんなが遠慮して訓練にならないと言われてしまって仕方なく諦めた。奏人と参加できないのは残念だけど、見学の許可をもらったので、私の毎日も充実している。
「おい、ミア何をニヤニヤしているんだ。気持ち悪いぞ。顔を引き締めろ。」
突然の推しの声に、ビクッと体が揺れる。声のする方を見ると、訓練を終えた奏人が呆れた顔で私を見ていた。
「お疲れ様、奏人。今日も訓練すごく頑張ってたね。疲れたでしょう。レモンのハチミツ漬けを作ってきたの。飲み物もあるよ。一緒にどうかな?」
騎士のみんなにも差し入れで持ってきたけれど、奏人の物は私が手作りしたものだ。
「ああ、ちょうど喉乾いてたんだ。ありがとう。」
奏人は、飲み物を受け取りゴクゴクと音を立てて豪快に飲み干す。それから、レモンを口に入れた。
「うん、飲み物もレモンもどっちも美味しいな。」
外だから王子様スマイルの奏人に、眩しすぎてクラクラする。
「はぁ、汗でベトベトだ。お風呂入ってさっぱりしたいな。」
洋服の袖で汗を拭きながら、奏人が不快な顔をする。
「それなら、急いで部屋に戻った方がいいね。汗で体が冷えてもいけないし、早くお風呂に入った方がいいよ。」
奏人が風邪を引いては大変だ。急いでお風呂の準備をして、なるべく奏人が快適に過ごせるよう用意しておこう。
「シャンプーとかボディーソープとかあれば、もっと最高なんだけどな。」
ポツリと呟いた奏人の言葉を、私は聞き逃さない。
「シャンプー欲しいの?」
私の言葉に、奏人が期待に満ちた目で見つめてくる。
「えっ?もしかしてシャンプーとかボディーソープあるのか?」
期待された目で見つめられてドキドキするが、残念ながらこの世界には、どちらも存在しない。普通に泡立ちの悪い石鹸のみで、私も日本で使っていたシャンプーたちを恋しく思っていた。
「有るなら取り寄せるとか出来ないか?泡立ちの悪い石鹸だと髪もパサついて、俺のスベスベ肌もカサカサして困ってたんだよ。」
それは一大事だ。国宝級イケメンの髪や肌が、パサパサやカサカサして傷ついてしまったら奏人が悲しい思いをする。
だけど、この世界の石鹸はあれしかない。どうやって、奏人の髪や肌を守ろうか。
(うーん、どうにかしたい。奏人の為に、何とか出来ないかな。ああ、お取り寄せ出来たら良いのにな。)
そう考えた時だった。体の中心が突然沸騰したように熱くなる。そして、中心から何かが沸き上がり、全身を巡っていくのが分かる。
(うぅぅ、何これ。何かが溢れて抑えられない。)
全身を巡る何かが、どんどん溢れて止まらず、両手で自分の体を抱えるようにギュと掴んだ。
「おい!ミアどうした。大丈夫か?」
心配したような奏人の声が聞こえるが、私は溢れる何かを抑えるのに必死で声も出せない。
(うぅぅ、もうムリぃぃ)
ボムッ!!
大きな音と共に、私の周りが光に包まれた。そして、目の前にコロンと転がる見慣れた容器。
「はっ?えっ?これって俺が使ってたシャンプーにトリートメントまである。あと、ボディーソープ?」
奏人の驚きの叫び声に、地面に転がる日本製のシャンプー他。
突然現れたそれらに、私も訳が分からず立ち尽くすだけだった。
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