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世界を越えた転生姫は最愛の推しを能力全開で幸せにします。勿論、死ぬ以外の方法で!  作者: 文月みい


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わたし死んだよね?

たくさんの作品の中から選んでいただき、ありがとうございます。



「うっ……はっはっ……ぁっ……」


 喉が焼ける。胸が苦しい。息が……できない。


 苦しさから胸を押えて体を丸めると、自分の体を支えられず、体が横に倒れていく。

 咄嗟に目の前のテーブルクロスに手を伸ばすが、無情にも椅子から転げ落ち、地面に思い切り体を叩きつけられる。

 ガシャーンと大きな音と共に、テーブルに並べられたカップやお皿が割れる音がその場に響き渡る。


「キャー!!お嬢様!!」


 椅子から落ちて全身を打ち付けたというのに、胸の苦しさと焼けるような痛みのせいで、それ以外の痛みなど感じない。

 息もできず苦しくて、思わず喉を掻き毟る。胃が痙攣し、何かが迫り上がってくる。


「…うっ……ぐっ…ゴボッ……」


 大量の血を吐いて、ヒューヒューと小さく呼吸を繰り返す。

 

 泣き叫ぶような声に、ドタドタと走り去る足音が聞こえるが、それは段々と小さくなっていく。肩を揺さぶられ、体を抱き起こされると、目の前には大好きなアド兄様のお顔が見えた。


「エル!エル!しっかりして!目を開けて!嫌だ!エル!目を開けてぇぇ!」


 ああ、お兄様が泣いている。「大丈夫よ」と、お伝えしたいのに声が出ない。


 大好きなお兄様には泣いて欲しくないから、「お兄様大好きよ」と、笑顔を見せてあげたいのに、それもできない。


 ああ、そうなのね。わたしは……もう……。




♢♢♢♢♢♢♢♢




「俺だけの可愛いエル、大好きだよ。」


「あっ!兄様だけズルい。僕だってエルが大好きだよ。ずっと僕だけの傍にいるんだよ。」


「フフ、わたしはアド兄様もルカ兄様も二人とも大好きよ。」


 大好きなお兄様たちとのお茶の時間。お庭で綺麗なお花に囲まれて、涼やかな優しい風に、穏やかな時間が流れる。


 わたしはこの時間が一番好き。


 毎日お勉強を頑張って、素敵な淑女になるために作法の勉強だって頑張っている。

 そんなわたしに、お兄様たちがご褒美として一緒にお茶の時間を作ってくれる。

 お勉強をすることは、ヴァレンシア公爵家の令嬢として完璧な女性になるために必要なこと。

 5歳から家庭教師について学んできたけれど、まだまだ足りないことばかりだわ。

 お兄様たちに負けないように、沢山努力して、お母様のように素敵な淑女(レディー)になるのよ。

 

 わたしは、大好きなお兄様達と大好きで尊敬できる両親に愛されて幸せな日々を送っていた。

 

 エルミア・ヴァレンシア。それがわたしの名前。この間、6歳になったばかりの公爵家の長女。兄二人との三人兄妹よ。


「エル、どうしたの?ボーとして、疲れたの?」


 声をかけられ前を見ると、アド兄様が心配そうにわたしの顔を覗き込んでいた。


「そんなことないわ。久しぶりにお兄様たちとお茶ができて嬉しくて、この時間をじっくりと堪能していたのよ。」


 今日は、数週間ぶりにお兄様たちとお茶を楽しむことができていた。

 

 最近はお勉強が忙しいのと、わたしの周りで不審な出来事が増えていて行動が制限されていた。それで、なかなかお兄様たちとゆっくりと時間を過ごすことができなかった。


「俺も、エルと久しぶりにゆっくりできて嬉しいよ。」


 アド兄様の優しい素敵な笑顔に、心が温かくなってくる。

 

 6歳になって、わたしには婚約者ができた。お相手は、この国の第一王子。長らく王妃様にお子様が生まれず、迎えた側妃様に直ぐに王子が生まれた。そして、その一年後、王妃様もお子様を授かり、第二王子が生まれた。

 

 その為、今この国では、第一王子を王太子にとする派閥と、王妃様のお子様こそが王太子だとする派閥に分かれていて後継者問題に揉めていた。

 わたしとの婚約は、第一王子の後ろ楯を強くするための所謂、政略的なもの。

 家族は、わたしのことを思って最後まで反対していたけれど、王命となれば断れず婚約を受けるしかなかった。


 それでも、第一王子殿下は優しい人で安心したし、厳しくなったお勉強も耐えられた。


 だけど、婚約が整ってからわたしの周りで不可解なことが起こり始めた。


 王宮で第一王子殿下とお庭を散策していると、そこにいるはずの無い獰猛な犬に襲われたり、王宮からの帰り道に襲撃されたり、他にも色々、明らかに命を狙ってきていることが分かった。

 それでも優秀な護衛の方達が守ってくれたので、何が起きてもわたしには傷ひとつなかった。


 この日までは―――。



「お嬢様、第一王子殿下から今日のお茶会に是非にと新しいお茶が届いております。」


 侍女が持ってきたのは、殿下から届いたというお茶だった。

 そういえば、殿下にお兄様とのお茶会の話をしたのだった。


「それなら、次に殿下に会ったときにお礼を伝えたいわ。折角なので殿下からのお茶を淹れてちょうだい。」


 侍女にお願いして、新しくお茶を淹れてもらう。


「お嬢様、どうぞ。」


 お兄様たちが、ニコニコしながらわたしがお茶を飲むところを眺めていた。

 一口飲むと、少し苦味があるけれど、香りが口いっぱいに広がり美味しい。

 笑顔でわたしの言葉を待っているお兄様たちに、感想を伝えようと口を開いた瞬間、息が詰まって胸が苦しくなる。


「うっ……はっはっ……ぁっ……」


 突然、苦しみだしたわたしを見て、お兄様たちが慌てて駆け寄ってくる。


 これは……毒?


 血を吐き、焼けるような痛みと苦しみの中で、わたしは死ぬのだと誰に言われずとも理解した。


(……お兄様……ごめんなさい……)


 涙を流し、悲痛な叫びを上げる兄たちを見て、そんな顔をさせてしまったことに心が傷んだ。


(どうか……泣かないで……)


 わたしがいなくなっても、どうかお兄様たちが幸せに笑える日がくるように願いを込める。


「……エル!……だよ…!」


 わたしを強く抱きしめて、アド兄様が何かを告げたところで、わたしは目を閉じた。






 

 聞いたことの無い、とても賑やかな音が聞こえてくる。ゆっくりと意識が戻ってきて目を開けた。眩しくて、数回瞬きを繰り返す。

 

「あれ?わたし死んじゃったよね?」


 わたしは気がつくと、知らない場所に一人立っていた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。次回も読んでもらえると嬉しいです。


もし、次も読んでもいいかな、気になるなと少しでも思ってもらえたら、ブクマなどポチっとしてもらえると嬉しいです。

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