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異世界右手お祈りゲーミング  作者: ペリ一


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第30話:愛情表現

「何こいつ」


 ローリスが呆れたような声音でそう返す。

 

「俺か? 俺はトクメイ! 特例外部協力者。君らと同じだね。よろしくぅ!」


 モニターの中の美少女キャラが敬礼する。

 コドクが舌打ちをした。


「こいつの身柄を抑えられる奴がいなくてな。暫定でそういう立ち位置という事になってはいるが、ほぼ奈落院所属の転移者と思ってもらって構わない」


「あんな可愛くねぇ王様の下になんかつかねーっての! あのだせぇオールバックやめろって言っとけ!」


「……」


 コドクが気まずそうに咳払いをする。

 おい、ダサくねぇって言ってやれよ。


 にしてもオールバックか。俺がこの世界に来て最初に会った人物の特徴に合致する。

 やっぱりあいつが転移都市の管理者なんだな。


「それで、調査結果は」


「おいまだ雑談を楽しむ時間だろ!? 仕事しか頭にねぇのかよコドクちゃん!」


 コドクが椅子を乱雑な手つきで引っ張り、腰掛ける。

 そしてモニターに手のひらを向けた。


「うおキモ! おえぇっ! おいキモいってやめろそれ!」


 なんかぐじゅぐじゅ音がしてるし、手のひらをエグい見た目に変形させているんだろう。

 

「さっさと報告しないと各所のカメラにこいつを貼り付ける。24時間。無休でな」


「報告申し上げますコドクの旦那! 微弱異界の剥離を確認した地帯はこちらでござい!」


 モニター上に地図が表示され、その一部が赤線の囲いで強調される。


「こちら6年前の転移者の余波災害によって他の街や国から流れ着いた人々が勝手に家を建て勝手に住み着いている区画が中心となっております。治安の悪化はもとより、近隣ダンジョンへの不法侵入や違法採掘を繰り返しており、ダンブルグのここ数年の悩みの種です」


 コドクが唸る。

 文脈的に階層暴走(フロアオーバーフロー)が起きる場所だよな。


「ダンブルグの王が事前解決に消極的だった理由はこれか。どこで起きるのか既に調べが着いてたんだな」


 地図の右下にワイプのような形でトクメイが出てくる。


「厄介者が排除された後にゆっくり鎮圧部隊を派遣すれば良い。ま、そういう考えだろうな! 自国民を最優先! 慈悲深い王様だぜー!」


 そう言って美少女キャラの目の上にサングラスのアイコンが表示される。

 どういう感情表現だよ。


「人が大量に死ぬだろう。それが困るんだよ」


 コドクがため息まじりに言う。

 そうか。人が死ぬと困るのか。


 しばらく黙って話を聞いていたが、流石に気になる事が増えすぎたので発言する事にした。


「なぁ、事前に解決するったって方法はあるのか?」


「階層暴走を引き起こそうとしている迷宮の管理役の魔物とその管理部屋を探し出して破壊する」


 なるほど。結局戦闘なのか。

 トクメイが横から口を挟む。

 

「紙オタクくんの行った戦闘のおかげで管理部屋に関する情報が増えたぜ! お手柄だな!」


 そうだったのか。

 ひょっとしてあのエントランスって管理部屋か?


「というか他の管理役の魔物はその過激な奴を止めないのか?」


 コドクが首を横に振る。


「あいつらには基本的に正義感だとか、人を守ろうという意思はない。ただ惰性でずっとやってきた事を続けているだけだ。主人の遺品関連かなんかになると少し反応が変わるらしいが」


 ふーん。

 俺はその辺の椅子を2つ持ってきて、ローリスと共に座った。

 

「俺らの協力が必要な理由は?」


「今回の階層暴走の犯人である魔物は、これまで尻尾を隠してたわけだ。場所も、もしかしたら止められづらい所を選んだ可能性すらある。知略に長けた個体かもしれん」


「ますます俺らの出番があると思えないんだけど」


 知略なんて練ろうと思った事すらない。

 デッキ構築って知略って呼んでいいのかな?

 呼んで良いならオレ知略チョットダケワカル。


「別ベクトルの強さを持った奴が欲しかった。お前みたいなルールを押し付けるタイプの奴は意外に刺さる時がある」


 ルール押し付けられてるの俺っすけどね。

 皆アクションゲーム状態なのに俺だけカードゲームやらされてんだわ。

 両方強制でターン制になるみたいな事してくれや。


 俺の悩みを他所に、コドクが続ける。


「強さの方向性を複数持って対処に挑む。俺はこれが奈落院の職務をこなす上でのコツだと考えている」


 はいはい、なるほど。

 まぁ理解はした。


「保険ってことね」


 コドクが肩をすくめる。

 

「最低限の実力は把握した。その上で誘ってるんだ」


 俺らの実績作りの面もあるだろうな。

 ローリスの方をちらりと確認する。


「何?」


「なんか流れで手伝う事になりそうだけど、お前はいいのかよ」


「別にいいけど」


 けど?

 人助けはいまいち興味が薄い分野か?

 まいったな。

 俺もあんま興味無いけどさ。


「いくら貰えんの? てかそれランクの査定に関係したりすんじゃね? 一応ダンジョン内での出来事だろ?」


 そういえば1番大事なとこだった。

 金、金!

 宿代は節約できてっけどその他の出費がすげぇんだわ。生活地盤の無い土地ってのもあるけど、そもそもの物価がえぐいっすこの国。


「都市で車が3台買える程度には」


 ほーん。3台!?


「うおマジ!? え、待てよ、えーと……すっげぇいっぱい貰えね!?」


 ローリスが語彙力を無くしている。

 

「そうだ。いっぱいあげるぞ」


「なんか言い方きめー」


「……」


 ローリスの心無い言葉にコドクが無言になった。

 

「コドクの旦那、後輩のノリに無理に乗っかると厳しい感じになりまっせ」


「トクメイ、てめぇ殺すぞ」


「いひひー!」


 モニター内のキャラクターがぴゅーんと音を立てて消える。

 どんだけアニメーション用意してんだよ。


 コドクはしばらく言葉を選んでいる様子だったが、諦めたようにため息をついた後にこう言った。


「まぁとにかく。明日から仕事を始めるぞ。俺の店に集合だ」


 俺たちは概ね了解の意を示す声を発した。

 おぉー。



◇



「生き急ぎすぎだね」


 その日の晩。布団に入り、気付けばいつもの白い空間にいた。


 アオバが腕組みをして座っている。

 

「何が?」


「コドクと戦うなんて。君、半分あのループが試したくて喧嘩売ったろ?」


「そりゃそうだろ」


 相手側の動き次第でいくらでも止まる可能性があることが分かったのは、良い収穫だった。

 現状俺の最大出力の形と言えるな。


「もっとこう事前に……ああいや、初期コストの関係上コドクレベルの相手じゃないと無理なのか……」


「そうなんだよ。あとアレだ。ただ山掘り切ってループするよりゴブレットでコスト確保しながらグッドスタッフ気味に動いて、締めにループした方が強そうだった。こういうのは実際に回さないとなかなか気付けない」


 俺はカードが好きなだけの素人なんでな。

 回す前からそのデッキの最適な動きを理解する事なんぞできん。


 いずれにせよ、あんな恵まれた条件下での試合なんてしばらく経験できないだろう。

 貴重な一戦だった。


「君の言い分は分かるけどね。用意してたコンボをやり切りたいがあまりに若干無駄な動きもしただろう」


 何? プレイ指示すか?

 結果論になってないかよく考えてから発言しろよテメー。

 

「生贄の剣は……どうだったのかなぁ……」


「不意打ちが決まれば仕留められそうだと思ったんだよ。結果耐えられたけど。失敗したから後付けで言ってるだけちゃいますのアオバさん」


「なにその口調……」


 言い返せないから俺の喋り方に文句?

 やれやれ、呆れさせてくれるねぇ!


 俺はアオバを最も強い言葉で非難しようと机に足をかけ乗ろうとした。

 その瞬間。足に糸が絡みつく。


「うわーーーーーーッ!?」


「我を生贄にした挙句、即刻呼び戻し指示を飛ばすとは……偉くなったものだな……」


 瞬く間に頭部を残して蜘蛛糸にくるまれ、闇の母蜘蛛の眼前に吊るされた。

 いやぁ! その件に関してはですねぇ!


「勝利のため! 勝利のため!」


「ほう。勝利か。あのような仕打ちは初めてだった……我に囁いた愛は偽りだったのか?」


「勝利を捧げることこそ愛! 勝利を捧げることこそ愛!」


 ほんとほんと! 右手くん嘘つかない!


「そうか。ではお前の愛、しかと受け取った。ところで、この空間で怪我をしても現実には反映されぬ事を知っているか?」


 え? そうなのか。

 アオバぶん殴ったのって意味なかったってこと?

 ムカつくなぁ。

 いや待て、アオバにとってはここが現実だったりするか?

 わかんねー。何なんだよこの空間。


「ミギテ……君の思考には毎回驚かされるよ」


 何? アオバくん。

 驚いてないで魔王様のご機嫌取るの手伝ってくんね?


「ミギテ・ピカライト……我を見ろ」


 魔王様にそう言われ、御尊顔を拝む。

 口が人間的な限界を超えて開き、凶悪な牙がその全容を見せる。


「これが我の“愛”だ」


 視界が一瞬で暗くなり——俺は人生で初めて、自分の頭蓋が砕ける音を聞いた。

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