第2話:例のケーキ
あの後、軽い打ち合わせをした。
総員5名、2:3に分かれて処理を行うって感じだ。
俺は当然3人の方。いくら腕があるとはいえ新人だからな、そこで実力の最終確認ってとこだろう。
そして、現在の俺はというと。
「かぁーっ、これこれ」
近所の大衆浴場に来ていた。
こういう妙な部分だけ文化が発達してるのは、転移者のせい……お陰なんだろうな。
湯船でぷかぷかと浮いていると、いつもの知り合いが入ってくるのが見えた。
片腕を上げ、声をかける。
「よう、久しぶりだなケーキ職人。調子はどうだ」
「ライト……はぁあ、聞いてくれよ」
丸刈りで中性的な顔をした青年、ヤクマだ。
ため息をつきながら、俺の隣に腰を下ろしてくる。
「高い材料費を何とか確保して一つ作ったは良いんだけど、誰も買ってくれなくてさぁ」
ヤクマのスキルは、ケーキを作れる事だ。
一見役立たずな能力に聞こえるが、実際は違う。
まず前提として。噂を聞く限り、転移者は必ず固有の能力を持ってこの世界にやってくる。
そしてその固有能力の内容は、転移前にやり込んでいたゲームであったり、スポーツであったり、見ていた作品であったり……そういった関わりの深い物事を模したような能力になるようだ。
例をあげるなら、固有の能力が【ドリブルがめちゃくちゃ上手い】なんてやつもいる。
それだけ聞くととんでもないハズレスキルに思えるが、そのスキルの保有者は公共放送されてるような試合でしょっちゅう活躍している。ある種のスターだ。俺みたいな半端な戦闘スキルよりは当たりだったってわけだな。
さて。それじゃあヤクマは転移前にケーキと関わりが深かったのかと思いきや、そうではないらしい。
本人談では1番やりこんだ事と言えばソシャゲ。様々なソシャゲを掛け持ちしており、趣味といえばそれぐらいだった、と。
ここまでくれば、勘の良いソシャゲーマーはある物を思い浮かべる。
半ばステータス増強剤と化した好感度システム。そしてその好感度を荒稼ぎするために雑にぶん投げられる——出自不明のケーキ。
無いソシャゲもあるが、やっていたソシャゲの傾向からしてほとんどにその類のものがあったはず。
つまりヤクマの能力は、ソシャゲの好感度稼ぎケーキの生産だ。
これは強い。
実質的な洗脳能力と変わらない。
「聞いてる?」
「え? ああ、聞いてるよ」
耳には入っている。
よくわらかん貧民の作ったケーキを食うやつはそういないって話だろう。
仕方ないことだ。
「ケーキを誰も買ってくれないってんならいっそのことその辺のガキとかにタダであげちまえば良いんじゃねぇか?」
効果の確認程度にはなるはずだ。
「俺もそう思ってさ。しょうがないからスラムの子供達にあげたんだよ」
「おー。まぁ悪くねぇ選択じゃねぇの?」
「選択ってか、食べてくれる子がそんくらいしか居なかったからだけど……やっぱ一個を複数に分けてあげただけじゃ効果が薄いっぽくてさー。普通に一緒にサッカーして遊んで終わった」
牧歌的な生活だな。
人間関係も職場も、全て殺伐としている俺には遠い話だ。
「金の工面はどうやったんだ?」
「今、飲食店で下働きしててさ。運良くちゃんと雇って貰ったんだ。給料は低いけど……まぁ何とかなってる」
そりゃ良かった。
ちょっと前までのコイツは、表通りで地面に頭擦り付けながら物乞いやってたからな。
俺がその時に何となく同郷の臭いを感じて少しばかり寄付したのがこの友人関係の始まりでもある。
「俺はちょっとばかし割の良い仕事を貰えそうだぜ」
「マジかよ、いいなぁ。俺も戦えるスキルだったらなぁ」
何を言うか。
結局、最終的に大物になるのはヤクマだろう。
俺は細々と掃除屋を続けるしかない。戦闘が少しできるだけのスキルだから。
「飲食店で雇ってもらえたんだからよー。収入も俺よりゃ安定性があるだろうし、コツコツ頑張れば自分の店持ったパティシエになる日もいずれ来るだろ?」
「言うね。頑張ってみるけど、そうなる頃にはとっくに老いぼれてそうだなー」
俺は、お前が大物になった時少しばかりおこぼれが貰えればそれでいい。
それまで生きていれば、の話だが。
「よし、そんじゃお先に」
良い湯だった。
ヤクマに声をかけつつ、湯船からあがる。
「金に余裕できたらさ、また飲みにでも行こうよ」
「いいねぇ。散財しねぇように自制しとくよ」
多分無理だけど。
心中で自分の言葉を否定しつつ、銭湯を後にした。
◇
「さて、パック開封の時間だな」
宿の一室。布団の上にあぐらをかき、俺はデッキホルダーを展開した。
『現在の所持ポイントは、00120です』
毎回思うんだが、最初のゼロは必要なのか?
所持上限があることを示唆してるのかもしれないが……そこまで溜め込むメリットが無いしなぁ。
「パック開封を頼む」
『100ポイントを消費して、パックを1枚開封します。よろしいですか?』
「ああ」
『樹界通信中——パック開封——カード排出を開始』
このポイントは、俺が能力を使って敵を倒す度に溜まっていく。
初見の敵だとボーナスが乗るらしい。
溜まり具合は、1日仕事をやっていれば100ポイントほど。そうすれば1日1回は、5枚入りのパックが1枚引けるってわけだ。
「頼むぜ」
目の前に裏向きのカードが5枚展開される。
まず、その内の1枚をめくる。
『ファイアストライク』
「ざっっっっけんなマジで! 何枚目だよ!?」
ぶん投げたカードが勝手にデッキホルダーの中に収納される。
確かに小回りがきく良いカードなんだが、かれこれ20枚は持っている事を考えると叫びたくもなる。
レア度の表示は今のところ無いので分からないが、最低ランクなのは間違いない。
「次だ、次!」
『ファイアストライク』
「ばーーーーーーーか!!!!!」
デッキホルダーを布団にぶん投げその場でじたばたと暴れる。
うるさくし過ぎたのか、隣の部屋から壁ドンをされるが、少しは大目に見ていただきたい。
単なるカードゲームのパックならまだ落ち着いていられたが、何せ、これは俺の命に関わるパックだ。
こうも被られると精神にくるものがある。
「もういい! 残り全部! 全部めくれ!」
『盾の召喚、ファイアストライク、蜘蛛の炸裂』
おいまだ出るのか!?
盾の召喚も10枚目くらいだし、蜘蛛の炸裂……蜘蛛の炸裂?
「蜘蛛の炸裂をもっとよく見せろ」
『コスト5:呪文:闇の子蜘蛛を2体召喚する。正面の敵に、場にある闇の子蜘蛛の数に応じた威力の物理ダメージ』
これ自体は初見のカードだ。
だが、トークンカードらしき闇の子蜘蛛に関しては見覚えがあった。
「あーーーーー……強いか?」
展開と敵の処理ができるのは優秀そうだな。
他の闇の子蜘蛛生成系は何だったか……物によっては軸にしてもいいか。
せっかくなら闇の母蜘蛛、みたいなのが居ても良いだろうに。
俺が引けてないだけか。
「シナジー活かすのも、単体で仕事するのも可能なカードなのが偉いな。妥協で入れてた枠と交換すっか」
ここで不安になるのが威力だな。
俺の能力の特にクソなところは、具体的な威力が実戦で使用するまで不明なところだ。
この世界は、ゲームチックな癖にステータス画面は自分の固有能力しか見れないわ、レベルアップの概念が無いわで本当に最悪だ。
10ダメージとか何とか書いてくれよ、1ダメージの呪文と比較して勝手に威力測定するから。
そんな事を考えながらデッキ構築をいじる。
デッキの構成枚数は40から60枚。同じカードは3枚まで入れることが可能だ。
つまり所持しているファイアストライクの内10枚以上は無駄、紙屑! クソが。
「これいらねぇな」
妥協枠のカードを外す。
次に、所持カード一覧を開き、闇の子蜘蛛系のカードをチェックした。
「少ない……まだ使えそうなのは……これか」
そう呟きながら1枚のカードをピックアップする。
『遺骸より湧き出る』
『コスト2:呪文:この呪文を行使した段階で場に存在している自分の召喚モンスターを1体選ぶ。その召喚モンスターは“破壊された時、闇の子蜘蛛を1体召喚する”を持つ』
『闇の子蜘蛛』
『コスト1:魔物:粘着性のある糸を吐いて攻撃を行う』
うん。
これ闇の子蜘蛛のスペック次第ではゴミカードなんだよな。
「採用すっか迷うなー」
一応、2枚は持っているカードだ。
しかし……蜘蛛の炸裂は1枚しかない上に、火力の詳細すら不明だ。
「ギャンブルの賭け金は俺の命……危険な橋は渡れねぇな」
蜘蛛の炸裂だけをデッキに差し込み、デッキ編集画面を閉じる。
これで良いだろう。
「明日に備えて早めに寝ますかね」
デッキホルダーを枕元に放り出し、薄っぺらい毛布を被る。
この清貧な生活にすっかり慣れてしまった俺は、すぐに意識が暗転した。




