第16話:獣の転移者
『初期コストは3です』
大した戦力じゃないらしいな。
選択しておいたデッキはコストの軽い呪文を多数採用したバーンデッキ。
この1ヶ月でちまちまパックを開けたおかげで、ファイアストライク以外の軽量呪文が3枚揃ったからな。
さて、ハンドは?
“自由自在”ローリス
コスト2:呪文:アクア・ウィップ
水を束ねて、敵を打ち据える。
コスト1:呪文:サモンファング
目の前に魔力による牙を発生させ噛み付かせる。
コスト1:呪文:魔法陣
カードを1枚引く。
「良いね。かなり良い」
一部テキストが改訂され、使用凍結が解除された魔法陣がさっそく手札にきている。
「魔法陣を使用」
ドローしてきたのは盗人の仕事靴、共鳴の魔法陣。
共鳴の魔法陣はコストが2の代わりにどんなカードでも指定可能な群呼びの唄みたいなカードだ。
「アクア・ウィップを使用」
ローリスに飛びかかろうとしていた狼型機械兵に水でできた鞭が振り下ろされる。
「ナイス〜」
姿勢が崩れた狼型機械兵。
そこへすかさずローリスが刀モドキを叩きつけ、頭部と前腕を破損させた。
「残るは汎1匹。雑魚だな」
「マジでなー」
ローリスが地を蹴り、汎型へ一気に距離を詰めて腹の辺りを両断した。
マジで強いなコイツ。
『戦闘終了』
「……対あり」
まぁこんなもんだろ。
◇
「絶対こういうデッキ組むなら魔導の掟選んでた方が良かったんだよな」
なんかなぁ。
コンボパーツっぽいカードが単品で置かれてるみたいな感じなんだよな、召喚士の装いのカードって。
ペンダントは3枚揃ったけど、なんか意外と弱かったし。
召喚連鎖理論はハンドの要求値が高い。
再臨の契約書はロングゲームになれば強いが、そんな事態がなかなか無いからなぁ。
「イカサマ師の手袋くん……頼むぜ……お前の株を今の内に買っておくよ」
トップ操作はどっかで悪さできると信じてる。
てかアレだな。もっとコストを踏み倒させて欲しい。
コスト渡されまくった時の闇の母蜘蛛即召喚は楽しかったなぁ。
てかどう考えても1番強いカードは闇の母蜘蛛なんだよな。
展開力と本体性能が違いますわ。
「10秒って相手によっては死んでるもんなぁ」
「右手くんさっきからブツブツ言ってんね。どうしたの」
「俺の能力が微妙って話だ」
ローリスが首を傾げる。
「そうか? あのデカい蜘蛛の人とかマジで強かったけどな」
「手軽に出せりゃ最強だけどそうもいかねぇんだわ」
お守り程度に全デッキにピンで採用してるけど、まぁマジでお守りだ。
デッキ選択が事前にやっとかなきゃならんのが扱いが難しいところだな。
状況を予想してないといけない。
「うーん……結局グッドスタッフに落ち着くよなぁ」
嫌いじゃないよ? グッドスタッフ。
でも何というか……先生俺コンボがやりたいんですよ。
「魔導の掟だった、マジでミスった……」
クソ、想像が無限に広がっていく。
超有能パックに見えてきた。絶対コンボできるやつだ。
俺はそうして苦悩したり、ローリスにカードゲームの何たるかを説明したり等で暇を潰しつつ順調に進んだ。
何度か野営も挟んだが特にトラブルも無く、気付けばフロウダインは目前といったところまで来ていた。
「焦げ臭いな……」
町のところどころで煙が上がっている。
揉め事か平常運転か。
「キンさん、フロウダインっていつもこんな感じか?」
「ここ最近はそんなもんだなぁ。火消すような団体もいねぇから周りの家ごとぶっ壊すんだわ」
江戸時代かよ。
いや江戸時代より酷いわ。
そもそも火消しがいないのか。
「4年前までは火消しがおったんやけどなぁ。火達磨の転移者の事件でな……抵抗しようとしたら全員殺されたらしいんだわ」
この世の終わりみたいな町だな。
火達磨の転移者ね。
周囲を自分ごと焼く、みたいな能力か?
「酷いっすね」
「あんたみたいに転移者みんなが気の良いやつやといいんやけどねぇ」
そりゃ厳しい話だ。
俺はそうとう気の良いやつだからな。
世界が全員俺だったらいいのにな。
ガタンと音がしトラックが止まる。
何だ?
「おいおい止まれ止まれ、今町の中に入るな!」
「はぁ? そりゃどうしてですか」
なんか揉めてんな。
荷台から顔を出し、様子を見る。
ボロを着た中年の男が腕をクロスさせてバツの形を作っている。
「転移者が暴れてるんだ! 鎮圧部隊が来るまで町の外で野営でもしてろ!」
警告してくれるだけ親切なんだろうな。
「どうするよキンさん」
「どうもこうも無いわなぁ。こりゃあ野営の準備……」
瞬間。突風が駆け抜けた。
そして獣の臭いが鼻を刺す。
「ああ、忌々しい! 異界の法を待つものよ!」
その男は血と汚物に塗れていた。
周囲には正気を失った目の熊のような生物が2匹。
「この俺を見下し、追いやり、迫害した!」
「知らんが人違いだ!」
「違うものか、俺は、おれは」
男が頭を掻きむしる。
俺は最低限の動作でデッキ選択を切り換えた。
「死の瞬間を覚えている、ではここは……黄泉の国か? 魂が、この奈落に落ちていく」
死の瞬間。転移じゃなく転生か?
ローリスと共に荷台から降り、キンさんに遠ざかるよう指示する。
「何の話をしている。これは経験だがな、転移直後ってのは記憶が混濁してるもんだ。深呼吸しろ、落ち着け。今ここで暴れてもろくな事にならん」
男が一瞬真顔になり、こちらを見つめる。
気味が悪い。
少なくとも俺と同じ世界から来たとは思えんな。
「……いつも、いつもいつもいつも! お前達は! 自分が散々勝手を働き! 俺たちが立ち上がってから暴力は損だ、復讐は悪だなどと! 自分にだけ都合の良い言葉を! 耳を貸しても腐り落ちそうな戯言ばかりを! くだらない! くだらない!」
ああ……ダメそうだな。
デッキホルダーを構える。
背後でローリスも刀を抜いた気配を感じる。
「誰も彼も……死に絶えろ」
『システム起動』
能力は何だ?
獣を従えることか?
『初期コストは、10です』
「は、強そうだな」
初期ハンドが排出される。
“自由自在”ローリス。
コスト2:付与:焦げた召喚鈴
焼け焦げた臭いがする黒い鈴。
付与中:対象を30秒間狂乱させる。
コスト3:魔物:闇の守蜘蛛
子蜘蛛達の子守を行う大型の蜘蛛。
頑丈な顎を持ち、侵入者を執拗に追い回す。
コスト3:付与:盗人の仕事靴
どこかの盗人が使用した、素早く移動できる靴。
付与中:体重を軽くする。
「盗人の仕事靴を使用。対象は俺」
身体が軽くなり、機敏に動けるようになる。
ドローしてきたのは竜頭蛇尾。
コスト6:魔物:竜頭蛇尾
竜の頭部に蛇の尻尾を持つキメラ。
《召喚時》
>コスト3を得る。
悪くない。再臨の契約書を採用しているからな。
「竜頭蛇尾を召喚」
「キモいやつきたー!」
キモいやつ言うな。
ドローは再臨の契約書。
コスト3:呪文:再臨の契約書
この戦闘中に自分が召喚し、破壊された魔物を1種類選ぶ。
それを再召喚する。
10秒後、再召喚した魔物は自壊する。
別に今すぐ欲しいとは言ってないです。
一旦手を止め、状況を見る。
左右の熊はなんだ?
唸るばかりでこちらにはやってこない。
ローリスにどう攻めるか目配せしていると不意に、男が動いた。
「俺がお前達の未練を晴らす。獣骸装」
男が左右の熊の腹へ腕を突き刺す。
すると熊が徐々に変形し、最終的に2振りの斧になった。
「キモっ!? なんだその能力」
自分で殺してんじゃねーか!
「すっげー」
「ウオオオオオオオ!」
男が獣のような雄叫びをあげながらこちらへ突進してくる。
竜頭蛇尾がそれに飛び掛かり、一撃を与えるが——返しの斧で両断された。
「獣骸装ォ!」
そして竜頭蛇尾の死骸が変形して一本の杖になる。
男が即座に斧を手放し杖に持ち替えた。
「いやお前それ」
竜の頭が付いた杖から、炎が吐き出された。
「元より強くなってんじゃねーかいい加減にしろッッッ!!!!!」
横に思い切り跳躍し、ドラゴンブレスを躱す。
ローリスもそつなく民家の影に入り回避している。
ああクソ、嫌な予感がする。
「……まさかとは思うけどな。再臨の契約書」
『対象がいません』
だと思ったよ畜生!
クソ、破壊してない判定か!
「召喚する奴は絞らねぇとな……」
強魔物を出すならせめて盾の召喚とセットで出したい。
闇の母蜘蛛を殺されて武器にされた日にゃ俺らどころかこの町は終わりだ。
まぁ頻繁に終わってるらしいが。




