第24話 酸っぱいサンドイッチ
ソルトのペンを走らせる音が聞こえる。
僕は、諜報員たちの報告を、紙に記すという仕事をしている。
おそらくソルトも、いっぱいいっぱいなのだろう。
こんなことをしているが、僕たちは、八歳。
子供なのだ。
なら、腹が減ったとか、着替えたいとか言わない。
……着替えは正直したいというか、したほうがいいと思うのだが。
「オース様、よろしいでしょうか」
諜報員がきた。
「はい、大丈夫です」
僕は、ペンを持ち書く準備を整える。
「現在、ビヴァイン聖王国『禁忌の地下』、ラウォード帝国『禁忌の空』、シーランド諸国『禁忌の海底』のいずれも、この王国『禁忌の森』と同様の状態です」
世界中で起きている?
「各所から、それぞれ、『屍』、『鴉』、『骸骨』、そしてこの国の『獣』が、大量発生しております」
確か世界地理で習ったな。
この世界で四つある『神の選定』が受けられる祠がある場所だ。
「現在、それぞれの国で対処を行っているようです。事態の収束には五年はかかると思われます」
急いで、紙に書き留める。
それにしても、五年か。
僕が十三歳か、試験の前の年までかかるのか。
「ソルト、これ」
報告をまとめた紙を、ソルトに渡す。
「――ありがとう。……それにしても五年か」
「聞いてたのか」
「あぁ。……オース、疲れたな」
「……疲れたな」
部屋が、静まり返る。
パンッ。
僕は、自分の頬を思い切り叩いた。
「このままいちゃだめだ。ソルト、お前は少し寝ろ」
「……いや。やらんければならないことが――」
「こうしてたら、効率が下がり続けるだけだろ。僕も着替えて、ご飯いっぱい食べてから、戻ってくるから」
「……しかし」
「いいから、寝ろ。仕事は未来の自分に託そうぜ!」
「未来の自分にか……。とんでもなく怠惰じゃないのか?」
「……それを言われたら、なんとも言えないが……。とにかく、いままで僕はこうして生きてきた!だから大丈夫だ!」
「……はぁ、正直だめだとは思うが、今は相棒の言う事に従おう」
「それでいい、まぁ、今は、だけどな」
僕も、それが良くないことを知っている。
だがたまには、そうしないと心が壊れる。
「オースが戻ってきたら起こしてくれ」
「分かった。ところでソルトさん、少しお金貸してくれない?」
ソルトから少しのお金をもらい、僕は王城を出た。
♢
「すみません、服を見てもよろしいでしょうか」
「は、はい。……本当にお体は大丈夫なんですよね?」
僕は、たくさんの視線を受けながら、近くにあった服屋に来ていた。
店員さんは、優しそうなメガネを掛けた女性で、僕を見て、心配をかけてくれた。
優しい人なんだな。
「大丈夫です」
「分かりました……。では、どのような服をお探しですか?」
「あぁ……。とりあえず動きやすくて、目立たない色の服がいいです」
僕の、服のセンスはダメダメだ。
♢
「動きやすくて、目立たない色。うん、完璧だ」
なかなか、かっこいいし、要望にも答えてもらえた。
いい店だったな。
また来よう。
「おっ、いい匂いがするな……」
なんの匂いか気になり、匂いをたどる。
「ここから匂いが……」
そこでは露天で、大きな肉が焼かれていた。
思わず、僕は店から離れ、路地裏でうずくまった。
「う、……う、うぇ、ぅぅ」
吐き出されたのは、胃液と水。
ここに来るまで、水は飲んできた。
「はぁ、はぁ……まじか……」
肉を見た瞬間、いろいろ思い出してしまった。
いろいろ。
「……くそっ……」
こればかりは、どうしようもない。
少しの間、そこにとどまり、落ち着くのを待った。
♢
「ありがとうございましたぁ」
結局買ったのは、前来たとき、ソルトと一緒に食べたサンドイッチだ。
さっきので、食欲がなくなったが、食べておかねばならないだろう。
「いただきます――」
いつか、忘れることができるだろうか。
……忘れるべきではないのか?
「―――」
時間だけが過ぎていった。




