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温泉と見世物小屋と。

 もう妹はウチの領地には置いておけないわね。


「はぁ、ありがとう穏便に済ませてくれて、ごめんなさいね」

『いえ、私こそ、関わるなと言われて鵜吞みにしてたので。何か手伝わせて下さい、家族の事なんですから』


 もう今更、繕っても仕方の無い事だし。


「そうね、立ち合いをお願い」


 それから3日後。

 家族全員と元家族と、改めて話し合う事に。


《あ、お兄様》

『何度も言うけど私は君の兄じゃない、この人の夫、君はもうこの家の人間じゃないよね?』


《そんな》

「そんな結果になったのはアナタの股の緩さ、頭の悪さが原因、アナタが原因でアナタはウチの家族じゃなくなったの」


《でも血の繋がりが》

『なら私はやっぱり君の兄じゃないよね』


《でも、私と結婚してくれたら》

『それは無い、何の利益も無いし愚かだし股は緩いし、しかも殆ど仕事をサボってるんだよね。そうした人は大嫌いなんだ』

「報告を甘く見てもサボり過ぎです、何ですかこの手が痛いから水仕事が出来ないって、皆さん同じ様に頑張ってるんですよ」


《だって、ほら、こんなに》

「貰った軟膏はどうしたんですか」


《だって臭いんだもの、しかも馬の脂なんて可哀想だわ》

「アナタが使ってた前の軟膏も馬の脂ですが」


《でもだって、色も匂いも》

「違いますよ、それだけ高いんです、そもそも単なる馬の脂も高いのに。お祖父様がどうしてもと仰るから差し入れさせたんですが、捨てたそうで」


《そんなの私聞いて》

「嫌がらせだとまで言って、自分からは何も尋ね無いからですよ」


『コレが好きって、凄いどうかしてると思いますけど、本当に愛してたなら迎えに来てくれても良いですよね』


 そう言いながら、ドアの方を振り向いて。

 あら、私、何も聞いて無いのだけど。


《あの人が来てくれてるの?》

『声を掛けたんです、一生他人に迷惑を掛けずに面倒を見れるというなら、ウチの実家が援助するって。けど入って来ませんね、流石に分かったんですかね、愚か過ぎて一緒に生きるのすら難しいって』


《だってお祖父様が何も知らなくて良いって》

『そこは確かにお祖父様も悪いかも知れませんけど、直ぐに仮病を使って勉強をサボりまくってたのは君、お祖父様のせいにして学ばない道を選んだのは君。結局は全部、君のせいだよ』


『すまんかった、甘やかし過ぎた、許してくれ』

「いえ、無理です、残念ですがお祖父様には療養所へ行って頂きます。婿養子だからとせめて気兼ねなく孫娘を可愛がる時間をと、取り上げなかったのも悪かったですが。ココまで勝手に甘やかした罰です、多いんですよ最近、ですからしっかり見せしめとして精々嘆き喚いて下さいね」


『すまんかった、許してくれ、こんな風にさせるつもりは無かったんだ』

《そんな、お祖父様まで》

『君がバカだからお祖父様が療養所送りなんだよ、可哀想な事になったのは君のせい、全部君のせい』


《私のせい?》

『うん、君がバカなのも君のせい』

『すまん、悪かった、だから修道院送りだけは』


『彼が迎えに来たら修道院送りにはならなかったんですけど、うん、来ないみたいですね』

《そんな!だって好きだって、愛してるって》

「男は無責任にヤりたいだけだから適当を言うのよ、それは一緒に習ったわよね?」


《けど、でも》

『私は違うけど、婚前交渉を強請る男は皆そうだよ、本当に愛してるなら結婚してからじゃないと責任すら取れないからしない。本当に愛しているなら、相手の為に我慢するんだよ』


 何か、言いたい事を半分取られた気がするけれど。

 スッキリしたし、まぁ良いでしょう。


「うん、もう出ましょう」

『良いのかい?』


「えぇ、時間が勿体無いし」

『分かった』


 祖父と妹を其々の馬車に押し込み、私達も馬車へ。


「あら、本当に居たのね」

『出て来るなって言ったのに、ごめんね』


「いえ、頭を下げさせる位なら良いわ、行きましょう」




 そうして私は馬車の中で、どうして妹を甘く育てたのか。

 その言い訳を彼女から聞く事に。


『嫁ぐ用の娘だから、ねぇ』

「だから甘かったのよね、私も両親も。ココまでバカだと思って無かったの、それなりの振る舞いが今まで出来てたから、愚かな可愛らしい娘が大好きそうな所に嫁がせて乳母はウチの親族から。分かったフリで本気で分かって無かったなんて、難しいわ」


『ぁあ、返事だけ良い質だったんだね』

「それもだけど、答えも、今思うとお祖父様が全て先んじて答えを教えてたんでしょうね。一生手元に置くなら良いけど、嫁に出すのに、何て事を」


『君が何とかしてくれると思ったんだろうね、凡庸なお祖父様だって聞いたし』

「貴族でも才が無いとね、苦しかったんでしょうね、頼られるのは祖母ばかりだったから」


『なら早く曾孫を見せようよ?』

「子育てが怖いから無理ね、あんな物覚えの悪い子が生まれたらと思うとゾッとしちゃうもの」


『ならウチの実家に預ければ良いよ、出来るのも出来無いのも扱いは上手いから』

「それで出来る子だけを手元に置くの?無理よ、ソッチが気になって仕方無くなりそうだもの」


『優しいね、とても冷酷な令嬢とは思えない』

「はいはい、知ってますよ、冷徹冷酷な鉄の女ね」


『生身で良い女なのにねぇ』

「良く言われるの、どうも」


 元婚約者はバカだな。

 うん、バカだからバカに行ったのか、成程。


『別宅にウチから何人か呼んで、子供の世話を任せよう。で、5人は欲しいね』


「は?」

『5人も居れば当たりが出るだろうし、1人に構って失敗するよりは良いでしょ?』


「まぁ、5人も居たら悩むどころじゃないでしょうけど」

『アレが生む筈だった数を考えたら妥当でしょう、それでも甥っ子君が優秀なら継がせれば良い、支えるのが得意な子達に育てるにもウチの実家は最適だよ』


「何で?何が良いの?」

『全部、知る限りの全て』


「凄い絶叫するかも知れないわよ、行為の時」

『それはそれでまぁ、意外と興奮するかもだし』


「サイズが合わない、とか」

『ぁあ、それは確かに困るかもね、見てみる?』


「追々で、疲れたわ、眠い」

『どうぞどうぞ、肩を貸しますよ』


「ありがとう」




 服も出来た、大きな問題も片付いた。

 保存食の量も問題無し、燃料も税収の。


《ほらほら、妹よ、さっさと新婚旅行に行きなさい》


「お姉様、元はアナタがですね」

《はいはい、だから冬期の統治の代理に来たんじゃない。はい、お土産をお願いね》


 長女なのにも関わらず他家に嫁いでしまった姉に、もし甥っ子が生まれたらココを継いで貰う事になっている。

 本来は姉の家、私は嫁に行く筈だった。


「はぁ、はい」

《あ、私の甥っ子をあてにしないで頂戴ね、アナタが生んで育てても良いんだから》


「え、でもだって」

《人の気持ちは良い方にも変わるのよ、アナタの夫に新しい契約書は渡してあるから、ほら、さっさと行きなさい》


「ぇえ、ええぇ」


 また、自由奔放な姉に翻弄されるだなんて。


『また、全く違う人だったねぇ』

「書類を貰ったのでしょう、早く出しなさい」


『はぃ』


 そうして新しい契約書には、男児が最低でも2人以上生まれた場合。

 健康に育ちどちらも優秀だった場合、ウチを継がせる権利を持たせる、と。


「前は何がなんでも継がせる内容だったのに」

『妹君の事と、君が何の繋がりも無い筈の私と直ぐに結婚したものだから、向こうが折れたらしいよ』


「勝手に同情してくれるのは結構ですけど、こう何度も変更されたら」

『廃嫡は大きな出来事だし、それこそお姉さんも予想外だったみたいで、責任を感じての事らしいよ』


 嫁いで分家となり、本家を乗っ取らせない為の契約書だったのに。

 凄いわね、どんだけ手練手管を使ったのかしら。


「そう」

『コレで赤ちゃんを作っても大丈夫だよ』


 耳元で何を言うのかと思えば。


「あらそんなに直ぐ出て行きたいのね」

『違うって分かってるでしょう』


 ダメだわ本当、顔が好みだと何でも許せちゃいそう。




「絶対に経験有るわよね?」


 凄い疑われてるけど、無いんだよねぇ。


『ウチの教育方針で、年頃になったら夜伽を見に行くんだよ、男だけ』


「そう見て覚えた、と」

『うん、ほら頭が良いから』


 凄い疑われてる、可愛い。


「はいはいそうですか」


『妬いてる?』

「疑ってるの」


『知ってる、可愛いね』


 相手を傷付けない為と、穴を間違わない為。

 親戚の誰かが間違えて大爆笑されて、一時期離婚騒動にまでなったから、男は見に行って勉強する決まりになってて。


 年に1回。

 まぁ半年に1回でも良いんだけど、早朝の見世物小屋に見に行かせて貰ってて、結構人気。


「アナタの家だけじゃないのね」

『女性用も有るし、夫婦で見に行ってるのも、見に行こうか、来るらしいよココにも』


「えっ、普通の見世物小屋よね?」

『表向きはね』




 夜の薄暗さとは違って、朝焼け前の薄暗い中で、人の睦ごとを見る。

 凄い背徳感と淫靡さ、でも綺麗だったわ。


「不思議、異国の方だから、かしらね?」

『どう?勉強になった?』


「はぃ」

『明日も見に来ようか』


 私、無知なのよね、こうした事って。


「はぃ」


 どうして見世物小屋だけで生計を立てられるのか不思議だったのだけど、こうした裏の見世物も有るからよね。

 しかも多めに払うと悩みや相談事に乗ってくれるし、産み分けに良い療養地の事も知っていて。


『してないって信じてくれた?』


「まぁ」

『可愛いね』


 可愛いって言われると嬉しい反面、イライラするのよね。


「その可愛いって止めてくれない?悪気が無いのは分かるのだけど、妹みたいにバカだって言われてるみたいで、嫌なの」


 妹は可愛い、可愛げが有るけど。

 君は可愛げが無い、可愛くないとか良く言われてたのよね。


 まぁ、そう言ってた輩は気が付いたら居なくなってたけど、もしかして姉のお陰かしら。


『愚かで可愛いんじゃなくて、恥じらいが有って愛おしいねって意味なんだけど、それでも嫌?』


「まだ、可愛いって言葉の印象が、悪くて」

『じゃあエロい、エッチ』


「それもそれで」

『恥ずかしそうにされると凄くムラムラする、エロい、唆る』




 散々温泉でゆっくりして、食べて寝て、偶に買い物に出て。

 見世物小屋が来てからは、食べて寝て、温泉に入るを繰り返して。


「私達、ゆっくりしに来たのよね?」

『疲れた?それとも飽きた?』


「あんなに食べて怠惰に過ごしてる筈なのに、ちょっと痩せてるのよ」


『えっ?』

「ほら、仕立てた服、ココにこんな余裕は無かったのよ」


『体が引き締まった?』


「凄いわね、性行為、コレで運動しなくて済むなら最高じゃない」

『まぁ、夜の運動とも言われてるし』


「なら幸せ太りってどうなるのよ?」

『コレからじゃない?』


「あぁ」

『少し料理を変えて貰おうね』


 私のも量が少し増えたけれど、最も増えたのは夜食や間食、デザート。

 この甘い物でお酒を飲む所も可愛い、欲張りな感じが凄く良い。


「屋敷に戻るのが億劫」


 働くのが好きだと少し思ってたから、ビックリ。


『なら暫くの間、私に任せてくれないかな?』


「良い、けれど」

『お義姉さんからの引き継ぎが有るだろうし、君が妊娠したら私が回す事になるんだし。どうかな』


「本気なの?」

『あ、避妊してたのは暫くエッチしてたいからってだけで。契約書、見直そうか』


「うん、はい」


 ほら可愛い。

 確かに可愛いって言い過ぎてたかもと思って、ココ最近は控えてるんだけど。


 可愛い、可愛いモノは可愛い。

 子供が出来たらこんなに好き放題は難しいだろうし、うん、もう暫くだけ。




《お帰り、もう居るかしらね?》

「居ない、筈よ」

『そこでご相談なんですけど。お義姉さん、今回の引き継ぎは私に、ご指導お願い出来ませんでしょうか』


 あら良い男。

 前のだったらこうはならなかった筈、別れてくれて本当に良かったわ。


《良いわよ》


 ついでに男には分からない苦労も教えてあげないとね、だってもうウチの家族なんだし。




『お義姉さん、前はもう少しふくよかだったんですか?』

「そうね、母乳で生命まで吸い上げられてるとか言ってたけど。確かに、体重が増えたら次をって、何故?」


『授乳が、乳の出を良くする作業が、お互いに地獄だって聞いて』


「仕事の合間にそんな会話を?」

『はぃ、なので、子作りはもう少し先にしません?殺したくなるらしいんですよ、その作業』


「ほう?」

『張った胸を、親の敵の様に揉み解さないとならないって』


「あぁ、確かに何度殺そうかと思ったかって手紙に書いてたわね」

『嫌われたく無いし、その覚悟が出来るまで、もう少し先にしましょう?』


「ふふふ、良いわよ」


 飽きる心配、飽きられる心配が少し有ったのだけれど。

 そうなったら見世物小屋へ行けば。


 凄いわね、あの巡業を考えた人。




『あっと言う間に、1年が』


「妾を?」

『いやあの時は離縁して子種無しだと思われた時の対策に余白を、と思って何も言わなかっただけで、要らないからね、前も今も』


「なら私が妾を持つのは?」


 確かに。

 全くの想定外だった。


 ウチの実家を軽んじない契約だったから、けど、制限する文言は最初のにも。

 今の契約書にも。


『ダメ』


「でしょうねぇ、けど子が出来なかったら流石に離縁を」

『しない』


「契約書の意味」

『出来るまでする、今年は違う温泉地に行こう、子宝の温泉に』


「で、あっさり出来そうよね」

『だと良いんだけど』


「溜めてからが良いみたいよ」

『我慢しないとかぁ、そうなると名残惜しいなぁ』


「なら、3年目に子作りに」

『離縁されたくないから嫌です』


「そこまで労働と結婚に執着する人だったかしら?」

『好きな人の為、一緒に居る為だと思うと意外と苦じゃないし、君が良い様に振り分けてくれてるし』


 目立つド派手な仕事でも無いけれど、それが逆に丁度良い。

 程々に働いて、休暇はたっぷりと。


「物好きの好きモノ」

『はいはい、私は良い嫁に探し当てて貰って凄く幸運だよ、ありがとう』


 あのバカは準男爵の女に拾われて馬車馬の様に働かされる種馬に、嘗て妹君だった何かは男に唆され修道院を逃げ出した後で遺体に。

 お祖父様は呆ける事も許されず、来訪者に教育を切実に訴えさせられる日々を送っている。


 うん、賢い相手と一緒になるのが1番楽。

 しかも好ましい相手なら、尚更。


「コチラこそ、ありがとう」


 ほら可愛い。

 うん、私の嫁に不足無しだ。

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