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嘘吐き探偵の魔法戦記(エストラッテ)   作者: 篠風 錬矢
第1章 アルカディア編
6/35

異変の狼煙

二日後、学園はパニック状態になっていた。

朝起きると、敷地内が大騒ぎになっていたのだ。

「何事?」

朝の自主トレを終えて戻ってきたアレッドに寝ぼけ眼で問う。

「それが、学園長が行方不明らしいんだ!」

「何だって!?」

眠気が吹っ飛んだ。

僕は急いで制服に着替えた。

「今日は臨時休校にする、って学園長代理が言ってた」

「僕ちょっと行ってくる!」

僕はテーブルの上のレーションを口に押し込み、剣を掴んで飛び出した。



「学園長……!」

ヴィロワールとあんな話をしたばかりだ、嫌な予感しかしない。

僕は中央棟に着いた。

「遅かったですね、お仕事ですよ」

「アリシア……」

アリシアがいつもと変わらぬ様子でそこにいた。

「貴様ら、ここは立ち入り禁止だ!」

六十は過ぎてそうな男性が立ち塞がる。

「ゲイル ブライナー代理です」

アリシアが僕に耳打ちした。

「ここは私と生徒会で捜索する」

資料室がある以上、無闇に人を入れたくないのだろう。

特に今なら、どさくさに紛れて資料室に侵入し、極秘資料を盗む事も可能かもしれない。

「私は探偵です、学園長執務室だけでも見せて下さい」

アリシアが食い下がる。

「黙れ嘘吐き娘が!」

ああ、この人もグレーディアと同じなんだ。

「学園長代理、私が見張りましょう」

中からカレンが出てきた。

「カレン会長!」

「流石生徒会長、話が分かりますね」

「むぅ……貴様がそう言うなら仕方あるまい」

ゲイルが苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「では君達、私についてくると良い」



「で、何か手掛かりはあったか?」

カレンが問うものの、執務室の中は特に争ったり物色されたりした形跡は無かった。

「僕にはさっぱりだよ、っていうか何も無いでしょ」

「役に立たない助手ですね」

しれっと毒を吐くアリシア。

「なっ……じゃあアリシアはどうなのさ!」

「喧嘩は良くないぞ」

声を荒げる僕をカレンが遮る。

「何もない、正解です。でもだからこそ分かることがあるんです」

無から有を得ろとでも言うのかこの探偵は。

「何も無い、という事は賊が押し掛けてきて強引に連れ去られた訳ではない。事件が起きたと仮定しても、それは外だ。ここに手掛かりは無い」

すらすらと言ってのけるカレン。

「流石生徒会長です、正攻法しか思い付かないとは」

「……何だと?」

「喧嘩は良くないよ」

睨み付けるカレンを僕が遮る。

「内部犯の可能性を見落としていますよ」

「内部犯?」

僕とカレンは顔を見合わせた。

まさかアリシアは、学園内の人間がヴィロワールを拉致したとでも言うのか。

「流石の学園長も、学園の人間であれば多少は警戒を緩めるでしょう。そこに封魔の術式を使えば、いくら最強の魔術師といえど恐るるに足りません」

「な、成程……」

「待てアリシア。この中央棟は気軽に入れるモノじゃない。一階にある図書室は誰でも入れるが、二階より上にいくには基本的には許可が必要だ。昨日は許可申請が一件も来てなかったぞ」

二階より上に許可無く入れるのは、逆に呼び出された場合だ。

前回の僕が具体例である。

そう考えていると、アリシアがニヤリと笑みを浮かべた。

「教員と生徒会役員はわざわざ許可取らなくて良いんですよ?」

「!」

「君は私を疑うつもりか!?」

アリシアの発言は、教員と生徒会役員を容疑者として候補に挙げた事になる。

生徒会長たるカレンが声を荒げるのも仕方無い。

しかしアリシアは動じない。

「事実から推理した結果でしょう?統括者がいなくなった今、この学園内の全てを疑ってかかるべきです」

「……それは極端だと思うが、仕方あるまい。君も平静を装ってるに過ぎないのだろう?」

「私はいつでも冷静ですよ、取り乱したところで無益なだけですから」

確かに、アリシアの様子はいつも通りだ。

「それは頼もしいけどさ、内心のところ違うよね」

「私の嘘にこなれてきましたね、マスミ。確かに流石の私も焦っています」

まぁ、慣れなきゃやってられないだろう。

「すまないが、そろそろ引き揚げてくれないか?あまり長居されると私が見張っていたか疑われてしまう」

「……分かりました」

「そうだね、有難う」

カレンに促され、僕達は中央棟を後にした。



「さて、厄介な事件が起きたモノです」

食堂でサンドイッチをつまみながらアリシアは言った。

僕もレーションだけじゃ足りなかったので、早めの昼食としている訳だ。

「そうだね。それで、アリシアは見当つけたのかい?」

「犯人の事ですか?さっき言った事で全部ですよ。まず学園長を拉致する理由が分かりませんし、そもそも人為的なものであるかも確信がある訳じゃありません」

「まぁ、外出先で何かあったと考えるのも自然だよね」

「それは無いんじゃないかしら」

後ろから聞こえた冷たい声がきっぱりと否定する。

「エリン、そっちはどうでした?」

「え?」

「ああ、エリンにはちょっとおつかいを頼んでいたんですよ」

「……そうね、まず第一に、学園長はここ二日間外出してないわ。衛兵全員に訊いたから確かよ」

アルカディア魔法学園には、全ての区画に通じるように門が八つあるのだ。

因みに、“シルフ区”に通じる門が正門で、“風の門”と呼ばれている。

「となると、やはり内部犯の線が強いかな?」

「そうですね、ここからは私一人でやります」

アリシアの言葉に僕とエリンは耳を疑った。

「何言ってるのさ、僕は助手なんでしょ?」

「アリシア一人に、負担をかけたくないわ」

「嘘ですよ、勿論お二人にはこれからも私に使われて貰います」

どうしてこんなところで嘘を吐くのか。

「とはいえ、ある程度絞り込めたので捜査は私一人で十分です。お二人にはサポートに回って貰います」

「……了解」

「うん、分かった」

取り敢えず方針を決めた僕達は、食事を再開した。



翌日には、事態はある程度沈静化していた。

勿論解決などしていないが、授業は再開している。

ゲイル代理の手腕があってこそだろう。

聞けば、捜索の指揮も彼が執っていたそうだ。

事件は、更にその翌日に起こった。

「ただいまー」

「お帰り」

朝の自主トレから帰って来たアレッドを僕は制服姿で迎えた。

「ん?珍しいなマスミ、寝起きじゃないなんて」

「まぁね、ちょっとアリシアのところに行ってくる」

ヴィロワールが行方不明になる直前、僕に言った事を僕は誰にも言っていなかった事を思い出したので、アリシアに言っておこうと思ったのだ。

「気を付けろよ、いつもより人が異様に少なかった」

「早朝だからじゃないの?それに、今は学園長いないから皆不安だろうし」

「そう思ったが、昨日より少ないんだ。何か嫌な予感がする」

「そっか、有難う。それじゃ、行ってくるね」

「おう」



成程、確かに人が少ない。

不自然なくらい静かだ。

僅かにいる学生達も、不思議そうな顔をしている。

そんな中、聞き込みをしているアリシアを見つけた。

「アリシア!」

「マスミ?おはようございます。いつもより早いですね」

「うん、おはよう。アレッドに人が少ないって聞いてね。それと、言い忘れてた事があるんだ」

そう言って、僕は学園長に言われた事を伝えた。

「……何故、もっと早く言わなかったのですか?」

アリシアの声が低くなった。

「それは……」

僕の危機意識が足りていなかったからだろう。

僕が言葉を詰まらせていると……

「グガァァァァ!」

何かの咆哮か轟いた。

「何!?」

「召喚施設の方です!」

アリシアが指差した方向を見ると、巨大な翼が生えたドラゴンが飛んでいた。

「アレは…!?」

飛竜(ワイバーン)が何故こんな所に!?」

魔物の中でも、飛竜は特に恐ろしいとされる部類だ。

学園にいて良い存在ではない。

「魔物が入ってこれないよう、学園の城壁には結界が張られています……」

「じゃああの飛竜は何!?」

言葉ではそう言ったものの、僕も理解していた。

「何者かが、施設を利用して呼び寄せたのでしょう、恐らく軍用に調律されたレベルの個体を……っと、マスミ、構えて下さい」

「え……?」

気が付くと、僕達は囲まれていた。

「何の冗談ですか?」

アルカディアの学生達だ。

しかし、目が正気じゃなかった。

「狂乱、してる……?」

「どちらかというと洗脳ですね、敵味方の区別がついています」

「いやついてないでしょ、何で僕達が狙われなきゃいけないのさ」

「事件を暴こうとしてたからじゃないですかね?ついでに、彼らの首を見て下さい」

「首?……ってうわっ!?」

男子生徒がいきなり剣に炎を纏って斬りかかってきた。

僕は紙一重で回避しつつ、首を確認する。

首輪がついていた。

他の学生達も同様だ。

「何これ?」

剣を抜いて学生達の攻撃を捌きながらアリシアに訊いた。

「動物や魔物を制御する為の魔道具です。人間に使われないのはあくまで精神力の問題なので、洗脳なり催眠術なりかけておけば人間も操れます」

素手で捌きながら答えるアリシア。

「何その物騒な道具!?」

「だからもう製造も禁止された筈なんですがね……てぃっ!」

うなじに手刀を叩き込んで首輪を破壊した。

首輪を破壊された女子生徒は、制御から外れてその場に倒れた。

「首輪壊せば良いのか……よし!」

僕は切っ先で男子生徒の首輪を切断した。

その男子生徒は気絶した。

「リスキーな技を使いますね、一歩間違えれば首飛んでますよ」

「そうだね」

僕達は襲ってくる学生達を全員倒した。

「グガァァァァ!」

「飛竜がこっちに来る!」

「厄介ですね……」

対空攻撃が出来ない以上、打つ手が無い。

「仕方ありませんね、〈邪閃光(イビルレーザー)〉!」

「グガッ!?」

アリシアが指先から闇属性のレーザーを放つが、飛竜は間一髪で回避した。

「アリシア、闇属性だったんだね」

「えぇ、まぁ」

闇属性は竜属性に強いので、飛竜に対して優位に立てる。

「グガァァァァ!」

紫色の炎を吐いてきた。

竜の息吹(ドラゴンブレス)”、飛竜が恐れられる要因の一つだ。

だが、アリシアはものともせずに闇の壁を展開した。

「〈暗黒障壁(ダークファランクス)〉」

紫色の炎はアリシアの魔法にあっさりと防がれた。

「グガァァァァ!」

その事に飛竜は激昂する。

「いつまでも爬虫類に構ってなんかいられないんですよ!〈獄魔雷(ヘルズサンダー)〉!」

「グガァァァァ!?」

アリシアが放った漆黒の雷撃が飛竜を焼き尽くし、一撃で絶命させた。

骸となった飛竜は動かなくなり、落下していった。

「はぁ、はぁ…」

「大丈夫?随分強力な魔法使ってたけど」

「大丈夫です……流石に消耗が激しいですが」

肩で息をするアリシア。

「飛竜が落ちたぞ!」

「こっちからだ!」

何処からか、見た事の無い兵士達が現れた。

顔を布で隠している。

「何なのさ、君達は……うっ!?」

頭痛がした。

「マスミ!?」

僕は……彼らを知っている……?

「“世界(ワールド)”と“(ムーン)”がいたぞー!」

増援を呼ぶ兵士。

世界と月、一体何の事なのか。

「何故、私の第二魔法体系(セカンドグリモワール)を……!?」

「え?」

「私の第二魔法体系(セカンドグリモワール)の名は“真実を嗤う月(トゥルーハイドムーン)”……とすれば、世界とは恐らく貴方の事ですよ、マスミ」

「分からない……けど、突破しよう!」

頭痛が収まった僕は剣を構えた。

槍を持った得体の知れない連中に何処まで出来るか分からないが、やるしかない。

「……そうですね、〈闇剣錬成(ダークソード)〉」

アリシアは魔力で闇の剣を編んだ。

「捕らえろー!」

兵士達が襲い掛かってくる。

「どうやって入ってきたのコイツら!」

「考えるのは後です!」

僕達は槍の穂先を切断した上で敵を斬り伏せていく。

「このままじゃまずいな……」

「こうなったら私の魔法で……!」

アリシアが詠唱しようと構えたその時だった。

「伏せなさい!」

「えっ!?」

聞こえたその声に、僕達は慌てて地面に身を投げ出した。

「〈金剛氷吹雪(ダイアモンドダスト)〉」

「ぐぁあっ!」

煌めく氷塊を孕んだ吹雪が、兵士達を吹き飛ばした。

「氷の魔法……まさか」

予想通り、エリンが走ってきた。

「エリン、無事でしたか」

「えぇ、そっちは大丈夫?」

心配そうにアリシアに問う。

僕は無視ですかそうですか。

「〈獄魔雷(ヘルズサンダー)〉までさっきの飛竜に使ってしまいました。正直キツイですね、一旦撤退します」

それには僕も賛成だ、冷静になって考える時間が欲しい。

「分かったわ……まだ戦えるかしら?」

エリンの視線の先には、兵士達と操られた学生達が迫ってきていた。

「……あの数は難しいと思う。記憶が中途半端に蘇ってきてるのか、また頭痛がしてきたよ」

「私も、魔力の消耗が大きいので……エリン、申し訳ありませんが、時間を稼いで貰えますか?」

僕達が満足に戦えない以上、それが最尤(さいゆう)の手かもしれない。

追い詰められた時点で、最良の手など無いのだ。

エリンの魔法は広範囲攻撃が可能であり、氷で障壁も作れるとしたら、時間稼ぎにはうってつけだ。

「……アリシア、一つ確認しても良いかしら?」

エリンは周囲に氷塊を生成しながら訊いた。

「何ですか?」

「時間を稼ぐのも良いけど、別に彼らを倒してしまっても構わないわよね?」

不敵な笑みを浮かべて言った。

「エリン……ええ、遠慮は要りません。思いっきりやって下さい」

「じゃあ、期待に応えるとするわ。〈氷塊隔壁(アイスバリケード)〉」

僕達が下がると、僕達とエリンを分かつように巨大な氷の壁が現れた。

エリンの背中は頼もしかったが、何故か僕は胸騒ぎがした。

「必ず……助けに戻ります!行きますよマスミ!」

「うん!」

僕達はエリンにその場を任せ、学園から撤退するのだった。

どうも、篠風 錬矢です。

ついに事件が起きましたね!

そして、見事なまでのフラグ発言をしたエリンさん……明日の投稿をお楽しみに!

それではまた次回!До свидания!

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