魔法学園登校初日
翌日、僕達は朝食を済ませてから家を出た。
「ところでアリシア」
「何ですか?」
「アリシアって魔術師だよね?何で昨日のアレで魔法一切使わなかったの?」
魔道具窃盗犯を捕まえる時、アリシアは魔法を一切使わずに窃盗犯を張り倒した。
魔法を使えるなら、もっとスマートに出来た筈だ。
「簡単な事です。あの程度の三下、魔法を使うまでもありません。というか、使ったらやり過ぎてしまいます」
ボコボコにするのはやり過ぎではないらしい。
「そんなに強いの?」
「えぇ、私一人でアルカディアを征服出来るくらいには」
「えっ、そんなに!?」
それ程までに強力であれば、体術を選ぶのが正解だろう。
ただ……
「嘘です」
これである。
「……来るだろうなとは薄々思ってたよ」
「ふふ、でも強いのは本当ですよ」
「そうかもしれないけど。そういえば、アリシアの属性は何?」
「秘密です、時が来れば見せますよ」
…
僕達は昨日と同じように門をくぐった。
すると、そこには青い髪の少女が待っていた。
「初登校日から随分早いな、マスミ」
「おはよう、カレン会長。制服と寮の部屋の準備があると思ってね」
「おはようございます、カレン会長」
「うむ、おはよう。部屋だがな、アルカディアでは二人一部屋を採用している。君のルームメイトはアレッド・ヴォルカニクスだ」
アレッド……昨日倉庫で会った彼か、知り合いならばと僕はホッとした。
「私は始末書提出してくるので、失礼します」
アリシアは一礼して立ち去った。
「それで、アレッドの部屋は何処なの?」
男子寮をカレンに案内させる訳にもいかない。
そう思って、僕は訊いたのだ。
「それは、アレッドに直接案内して貰うと良い」
カレンの言葉と同時に、アレッドが走ってきた。
「よう、マスミ!」
「アレッド!」
「いやー、ずっと一人部屋だったが、ようやく話相手が出来るってモンだ!宜しくな!」
「うん、宜しくね」
突然転がり込んで申し訳無いと思っていたが、このように歓迎してくれるなら嬉しい限りである。
…
「ここが、俺の……俺達の部屋だ!」
成程、二人部屋だけあってなかなか広い。
今まで一人だった分物が少ないのか、片付いている。
「部屋、片付いてるね。アレッドの性格的にもうちょっと杜撰かと思ってたよ、ごめんね」
「いやー、昨日決まってから、大急ぎで片付けたんだよ。すぐ散らかるかもしんねーぜ?ははっ」
笑いながらぶっちゃけるアレッド。
……よし、気を付けよう。
「授業までまだ時間あるし、テキトーに寛いでてくれ。あぁ、お前の分の制服とタオルはベッドの上に置いてあるから、着替えとけ」
「うん、有難う」
取り敢えず僕は、トイレや風呂場などの配置を覚える事にした。
…
そして僕は、遂にアルカディア魔法学園の授業に参加した。
クラスは“クルセイダー”、戦闘に向いた魔術師を養成するクラスだそうだ。
だから僕は魔術師じゃないってば。
「さ、自己紹介するんだ」
筋肉質なこの男性はボルグレス・ヘイムダル。
教室に入る前に聞いたが、雷魔法と剣術の使い手で、クルセイダーの担任だそうだ。
「えっと、僕は如月 真澄。聞いての通り、記憶も魔力も無いけど、仲良くしてくれると嬉しいな」
僕は柔和な笑顔で一礼した。
教室を見渡すと、アレッドは勿論、昨日出会ったレイとエリン、そしてアリシアの姿があった。
そんな中、茶髪の少年が手を挙げた。
「先生、何で魔法も使えないような奴が此処にいるんすか。おまけに記憶喪失?笑わせんな」
「……」
当然過ぎる非難の声に、僕は俯く。
「それはだな……」
ボルグレスが説明しようとするが……
「私の助手ですが、何か問題でも?」
アリシアが遮った。
「またテメェか、嘘吐き探偵」
少年がアリシアを睨み付けるが、アリシアは動じない。
「貴方と違って優しいので、ほっとけないのですよ」
「正義の味方気取りの偽善者がよく言うぜ」
「君は……!」
流石に我慢ならなくなって僕が声をあげようとしたその時、少年は無数の氷の刃に囲まれていた。
「私の前でアリシアを悪く言ったらどうなるか……分かるわよね?」
エリンが凄まじい殺気を放つ。
「いい加減にしないか!」
ボルグレスが一喝した。
「新しい仲間が出来た事を素直に喜べんのか!グレーディア・バール、君は優秀な魔術師だが、君のそういうところがいけないといつも言っているだろう!エリン・クリスタル、教室内で攻撃魔法の使用は禁止だ!」
「……はい」
二人は同時に肩を落とした。
「……びっくりした……」
隣で怒鳴られたら耳に良くない、鼓膜が破れそうだ。
「あぁ、すまない。好きな席に座ってくれ」
「は、はい」
アレッドの隣は埋まってる、アリシアの隣はエリン……レイの隣が空いていた。先程のグレーディアとやらは論外だ。
僕はレイの隣へ行った。
「宜しくね、レイ」
「ええ、宜しく!」
レイは元気でまともな女の子だ。
少なくとも、僕にはそう見える。
「それでは、授業を始める!」
やっぱ声大きいなこの人。
…
「魔力の属性は“魔力心臓”の属性で決まる。そしてその属性は基本的には遺伝子に依存するため、親から属性を受け継ぐって訳だな」
“魔力と属性と能力”に関する講義だ。
一般的に知られている内容だが、だとすれば僕の属性が分からないのは何故だろうか。
遺伝子に依存するなら、記憶など関係無い筈だ。
「それともう1つ、大事な能力があるな。クリスタル、言ってみろ」
ボルグレスがエリンをあてた。
「……“第二魔法体系”です」
「そうだな!さっき言った普通に使える属性は何て言うか……分かるか?マスミ」
何故、僕をあてるんだ先生。
さっきが“第二魔法体系”だったかな?
ならば……
「“第一魔法体系”?」
「正解だ!」
まぁ、僕にとってはピンと来ない事なのだが。
「じゃあ、そもそも“第二魔法体系”とは何か?ライアータ、お前は持ってるな。分かるだろ?」
アリシアをあてながら言った。
アリシアはどうやらその“第二魔法体系”とやらが使えるらしい。
「魔術師が極稀に獲得する後天的な能力で、その属性は“第一魔法体系”に依存し、性質は魔術師の人格に影響されます」
成程、アリシアの人格か……やはり嘘吐きが真っ先に思い浮かんでしまう。
「うむ、模範解答だな」
こんなノリで講義は恙無く進行した。
やはり僕にとっては少し退屈な授業だった。
…
「上手くやってたじゃねぇか」
「まぁ、分からないところばっかだったけどね」
夕食を終えて、僕はアレッドと今日の講義の復習をしていた。
『クルセイダークラスの如月 真澄は速やかに学園長執務室に出頭せよ。繰り返す……』
「どういう事だ?」
「さぁ……」
突然のアナウンスに僕達は顔を見合わせた。
…
取り敢えず、僕は学園長執務室に来た訳だが、何かやらかしただろうか。
今朝の騒動はエリンとグレーディアのせいだと思うのだが。
「あの……学園長、僕何かやっちゃいました?」
僕の声は震えていただろうか。
「ふふ、そう怖がるな。別に大した事じゃない……ただ、初日を過ごしてみてどうだったかを訊きたいだけだ」
ヴィロワールは赤い目を細めた。
笑顔なのか睨んでいるのか分からない。
まぁ、笑顔のつもりなのだろう。
「あ、はい。素直に楽しかったです。分からない事や、僕を歓迎しない人との揉め事があったりしましたが、それは想定の範囲内ですし」
「グレーディア・バールか。あの坊やは土属性でなかなかに優秀なのだが、何分気難しい性格なのでな、勘弁してやってくれ」
「別に気にしてません、アリシアが庇ってくれましたし」
「アリシア・ライアータは嘘吐きなどと言われているが、自分に嘘は吐けない正直者さ」
何を言ってるのだろうか、アリシアを正直者と言ってしまえば、この世の何を信じられるのか。
「……僕にはよく分かりません」
「ならば、エリン・クリスタルに訊いてみると良い」
確かに、エリンは見たところクールだが、アリシアの事を一番に考えていそうだ。
「は、はぁ……」
「そんな事より、だ」
ヴィロワールは席を立ち、窓の外を見た。
「どうも、このアルカディアを狙っている不届き者がいるようだ……忌々しい」
「え……!?」
「近い内に坊や達の力が必要になるかもしれん、覚悟しておいてくれ」
「え、でも……」
学園長がいれば大丈夫では、そう言い掛けて僕は口をつぐんだ。
敵の存在を確信した上でそう言うという事は、ヴィロワールでは手が回らない、もしくは何か別の事情があるのだろう。
「分かりました」
「うむ。それでは、もう下がって良いぞ」
「はい」
僕は学園長執務室を出た。
ヴィロワールが示唆した大規模な敵襲。
僕が編入したばかりだ、あらぬ疑いがかけられるかもしれない。
否、逆に僕が狙われて……
「それはないか」
僕のような無能、狙う理由が無い。
そう割りきって尚、僕は何故か自分の結論に自信を持てなかった。
どうも、篠風 錬矢です。
いやー、出ましたねグレーディア君。
どう見ても嫌われ役(笑)
ボルグレス先生はお米とシジミが好きなあの人みたいな熱血漢です。
いやまぁ、天気に影響はしませんが。
それでは次回、“異変の狼煙”でお会いしましょう。До свидания!




