過去を断ち切る月の意志
「〈闇剣錬成〉!」
アリシアが瞬時に闇剣を生成した。
僕は天羽々斬を一刀形態にして突っ込む。
「如月流・初ノ型〈初月一閃〉!」
如月流の技の中で最もシンプルな技だが、故に最速。
極めれば最強の技と言っても過言ではないだろう。
「〈真・闇剣錬成〉」
ヴァールハイトの手にアリシアのモノより洗練された闇剣が出現し、僕達の攻撃を纏めて受け止めた。
しかしアリシアは読んでいたらしく、闇剣から手を離してヴァールハイトの懐に飛び込んだ。
「何!?」
アリシアの右手と左足を闇の魔力が包んだ。
「〈暗黒魔空三連撃〉……!」
アリシアの右の拳がヴァールハイトの顎を捉えた。
「ごふぅっ!?」
更に顔面に踵落としを打ち込み、トドメの回し蹴りを放つ。
しかし回し蹴りが当たる寸前に、アリシアの左足が掴まれた。
「なっ!?」
……でも、僕が目の前にいる事を忘れて貰っちゃ困る。
「〈月輪散華〉!」
回転斬りが炸裂し、ヴァールハイトの身体が吹っ飛んだ。
しかし、どういう訳か血が出ない。
アリシアの足がヴァールハイトの手を離れ、アリシアは着地した。
「……流石といったところでしょうか……死して尚、最強の魔導騎士と恐れられたその強さは健在のようですね」
「寧ろ、私は強くなった」
アリシアとヴァールハイトが同時に右の掌を突き出した。
「〈滅殺波〉!」
「〈暴滅の波動〉」
互いに巨大な闇の爆風を放った。
恐らくヴァールハイトの技はアリシアの技の原型もしくはその強化版なのだろう。
「うあああああっ!」
アリシアの魔術は押し返され、僕達は荒れ狂う闇の暴風に吹き飛ばされた。
「やはり、魔力量が足りませんか……」
「ゼクス戦が効いてるね……」
僕達はなんとか立ち上がった。
……でも僕には無限回復が……アレ?
僕はふと気が付いた。
タナトス区に来てから、魔力の回復が遅い。
というか、八岐大蛇との繋がりを感じない。
「……ねぇ、アリシア……まさか……」
「気が付きましたか。闇の封絶結界です」
封絶結界とは、魔力の伝達を妨害する事で魔術の起動を封じる結界だ。
闇の封絶結界という事は、闇属性以外の魔力は封じ込められてしまう。
つまり、水属性と火属性しか持ち合わせていない僕の第二魔法体系は全く役に立たないという事だ。
……でも、僕の力は幻想の世界だけじゃない。
「どうした?アリシア、キサラギ……その程度だったのか?この私に抗うというなら、失望させてくれるな」
ヴァールハイトが闇剣を生成し、突っ込んできた。
「アリシアは、僕が守る!」
剣を構え、前に立つ。
「無駄な抵抗を……!」
ヴァールハイトの剣が僕の剣に触れた。
……今だ!
「如月流・鏡ノ型〈鏡花水月〉」
……加減はしない。狙うは断頭一閃、一撃必殺!
僕のカウンターがヴァールハイトの首をはねた。
「はぁ、はぁ……悪く思わないでよ……仕掛けてきたのは君の方なんだからね……」
僕はヴァールハイトの頭を見下ろした。
「!?」
断面からやはり出血はしていない。
それどころか、黒い闇が溢れている。
「クハハ……」
不気味な笑いと共に頭は闇に溶け、その闇がヴァールハイトの身体を包み込んだ。
「な、何が……!?」
……何が起きてるの?いや、察しはつくけど……その予感は外れて欲しい。
「マスミ、離れて下さい!」
「え!?」
アリシアの声とほぼ同時だった。
ヴァールハイトの身体を包む闇の塊から無数のエネルギー弾が放たれ、僕は吹っ飛ばされた。
「ぐ、あっ……!」
地面に背中を強打し、呼吸が一瞬止まった。
「マスミっ!」
アリシアが僕に駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!?」
「何とかね……」
立ち上がった僕は、予感した通りの光景に戦慄した。
ヴァールハイトが完全に復活していたのだ。
「無駄だと言っただろう?」
ヴァールハイトが嘲笑う。
「どうやって……」
「母の……“死神”の力で命を取り込んだのでしょう。そして、その命を抜き取られた抜け殻が、あのゾンビ達です。“皇帝”の力で支配しているのでしょうね。“皇帝”は我が強くない存在を操ったり、人間を洗脳したりする力がありますから」
「そんな……」
……じゃあやっぱり、姉さんを操っていたのはヴァールハイトだったという事だ。
「絶望してはいけませんよ、操られますから」
「……うん」
僕は剣を構え直した。
「私の命が底を尽くのが先か、君達の力が潰えるのが先か……試してみるか?」
「……」
ヴァールハイトが挑発するが、アリシアは動じない。
というか、元より殺意マックスな気がするが。
「……マスミ、ヴァールハイトを仕留める技はありますか?きっと先程のカウンターは通用しないと思いますが」
アリシアが小声で僕に訊いてきた。
……あるにはあるけど……。
「あるけど、八岐大蛇の回復力が使えないから一発限りだよ。それに、これ以上ダメージを受けたら身体がその技に耐えられなくなると思う」
如月流奥義・終ノ型〈終幕如月乱舞〉。
白夜がせめてもの贖罪にと僕に託した秘奥の剣技だ。
あの技ならヴァールハイトの防御を真正面から打ち破り、彼を撃破する事も可能だろう。
しかし、あの技は如月流奥義だけあって肉体の消耗が凄まじいのだ。
僕に八岐大蛇の回復力が無ければ、習得すら出来なかっただろう。
「……そうですか。ではマスミは下がっていて下さい」
「え!?」
言うが早いか、アリシアはヴァールハイトに突撃した。
「〈闇双剣錬成〉」
「〈真・闇剣錬成〉」
アリシアとヴァールハイトの闇剣が、互角に打ち合う。
……そうか、アリシアはヴァールハイトに戦技を教わったからヴァールハイトの剣捌きが分かるんだ。
「やるな、流石は我が娘だ!」
打ち合いながらヴァールハイトは嬉々としながら言うが、アリシアは苦虫を噛み潰せる限り噛み潰し尽くしたような顔をしていた。
「今更父親ヅラしないで下さい!」
アリシアの闇剣の刀身が巨大化した。
「〈暗黒双魔刃〉!」
巨大化した闇の刀身を射出した。
「ぐっ!?」
剣で受け止めるが、その勢いを殺せずに刀身に押される形で吹っ飛んだ。
「……死んだなら死んだで大人しく眠ってて下さい」
アリシアの魔術がヴァールハイトの剣を穿ち、ヴァールハイトの胸に突き刺さった。
「ぐおぉっ!?」
そして、大爆発を起こした。
「……や、やったの?」
僕が訊いた瞬間、爆煙から無数の闇剣が飛び出してきた。
「まだです!〈暗黒障壁〉!」
アリシアが展開した闇の防壁に二十はゆうに超える数の闇剣が突き刺さり、爆発した。
防壁は破られ、トドメと言わんばかりに闇剣が爆煙の中に降り注ぐ。
「アリシアっ!」
……〈闇剣展開〉って魔術だろうけど、数も威力も違い過ぎるよ。それに、アリシアはさっき大魔術を放ったばかりだ。多分追撃を喰らってる、後は僕が……!
「むっ!」
僕がヴァールハイトに攻撃をしようとした時、彼は自分が攻撃した場所の真上を見ていた。
僕も釣られて上を見るとそこには、闇の塊が飛んでいた。
「〈七重暗黒障壁近接型〉……!」
アリシアだ。
「どうやって……?」
「〈暗黒障壁〉を自分に張っただと……!?」
……そうか、最初の防壁は囮だったんだ。本命はその場にしか展開出来ない今までとは違う、自分自身に付与する防御魔術。それを爆発の瞬間に発動して、爆風で飛んだんだ。
その時に一枚使ったのか、今アリシアを守る障壁は六枚だ。
「終わらせます!」
防御魔術を展開したまま、ヴァールハイトに向かってダイブしていく。
「所詮、六枚だ!〈真・闇剣展開〉!」
百本を超えるであろう闇剣が出現し、アリシアに襲いかかる。
「凌ぎきります……!」
一枚目が割れた。
アリシアは動じない。
二枚目が割れた。
アリシアは動じない。
三枚目、四枚目、五枚目。
……お願い、アリシア……!
六枚目が割れた。
爆風でアリシアの帽子が吹っ飛んだ。
「後が無くなったぞアリシア!〈死皇帝の剣〉!」
残りの闇剣が巨大化した。
その大きさも魔力量も、アリシアの放った魔術の五倍はある。
「もう少し……!」
アリシアとヴァールハイトの距離は、十メートルといったところだろうか。
「私に歯向かうなら、ここで骸となれ!」
「アリシアーっ!」
巨大化した闇剣がアリシアに直撃するその刹那。
「〈影渡り〉」
アリシアがヴァールハイトの足元の影に現れた。
その右手には真円の闇があり、帽子を失った事で露になった右目は禍々しく輝いていた。
「何っ!?」
上に意識が向いており、大魔術を放った直後のヴァールハイトは一瞬遅れて反応した。
手練れ同士の戦いではその一瞬が、命取りとなる。
ヴァールハイトが動揺したその瞬間に、アリシアは“真実を嗤う月”を叩きつけた。
「“ヴァールハイトはラーミアの第二魔法体系を継承していない”」
「!」
その一撃で、ヴァールハイトの力の一つが嘘へと消えた。
「おのれ……………おのれアリシア!貴様、一度ならぬ二度までも我が夢を阻むというのか!貴様だけは許しはせん!」
「あぐっ……!」
ヴァールハイトがアリシアを蹴り飛ばした。
……今しかない!
僕は宝剣と処刑剣を抜き放ち、二本の両手剣を構えて一気に突っ込む。
「如月流奥義!」
「これ以上私の邪魔立てをするなァ!」
僕に気付き、残った闇剣が一斉に僕に牙を剥いた。
……この事件で、ヴァールハイトに殺された人はとても数えきれない。ゼクス達も、いわばヴァールハイトのせいで死んだと言っても過言じゃないと思う。ヴァールハイト、君は人を殺すどころか、ゾンビに変えて命を弄んだ。その罪はこの都市の守護者に託されたこの剣で断罪する!
「終ノ型〈終演如月乱舞〉!」
僕が放った奥義は、襲いくる闇剣をヴァールハイト諸とも塵に変えた。
決着!今夜、エピローグ投稿します。




