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来た。ついに来た。俺の元に春が来た。
ピンク色の封筒が、俺の家にやって来た。
小躍りしながら自分の部屋で嫁を抱きしめながら、机の上で未だ封を切られていないそれを見つめる。嫁と言っても、もちろん結婚しているわけではない。浮気は許せない質なのだ。ならば、今俺が抱いているのは誰か。アニメ『マギカル☆リリカ』のヒロイン、リリカちゃんだ。当然だろう。
彼女いない歴=年齢は当たり前。アルバイトのまま親の脛にかじりつき、2次元に我が収入を捧げる生活。
そんなやつにもラブレターは届くのだ。
巨大ネット掲示板、「さちこ」、通称「さっちゃん」にもスレを立てた。釣り?痛いからやめろ?知ったことか。
切手のない、宛名もない、差出人の名前もない。不思議なラブレターを、眺めこそすれ、開ける勇気はなく。
それでも中身を透かしてみては、読み取れない細かな文字に胸を焦がす。
われながら女々しいが、郵便受けでこれを見てから40分経ってようやく、ハサミを持ち出すに至った。
さくり。
切り込みを入れる。
高揚感と期待で爆発しそうな、重低音のドラムロールにも似た心音を聴く。
薄暗い部屋の中、ここだけが輝いて見えた。
中身にあるのは甘い告白の数々。そうと信じて取り出した赤色の紙は、どうも俺の信じたものには遠く及ばない、絶望の塊だった。
召集令状
あなたは非リア充軍として選ばれた兵士です。リア充軍を撲滅するという使命があります。あなたは武器を決め、夜中の3時46分に最寄りの駅のホームでお待ちください。
TRPGのハンドアウトのような、または頭に直接語りかけてくるような、威圧的な内容に、俺は嫌気がさす。
とんだ暇人がいたものだ。全くもって腹立たしい。
俺はリリカちゃんを離し、パソコンに向き直る。さっき立てたスレには、誰も書き込まない。
なんだよ。みんながみんなして、俺に恨みでもあんのか。
赤紙の追伸に書かれている、武器には特別な力があっても構いませんという文字を横目に、俺は深く眠ることにした。
かすかに鼻をつく薔薇の臭いに誘われ、眠気が近づいてくる。
薔薇?
眠ってはいけない。そう気づいた時には時すでに遅く、キーボードに額を打ちつけて耳障りな音が響いた。起き上がろうにも体が重すぎて。
誰かに持ち上げられる感覚を最後に、記憶がない。
そして今、聞いているのはエンジン音と波の音だ。もう何時間にもなると思われる。
小さな(と言っても齢18の男子が収まるくらいはあるのだが)箱に入れられ、足を伸ばすこともできない。拘束されているといったことはないが、携帯や腕時計は取られている。
そう。考えるにも及ばない。俺を誘拐しても得などないのだから。あの手紙くらいしか心当たりがない。
これは、文字通り、徴兵。
強制的な兵役。
今から何をされるのか、させられるのか。だいたい様子は掴めてきた。日本史2を舐めるなよ。
となると、決めないといけないのは、武器だろう。
俺は、中二の頃を思い出しながら、必死に武器を考える。
冥府の死神と書いてデスサイズと読んでいた中学二年生だ。必殺技の1つ、思いついても良いだろう。
銃剣はかっこいいが、俺に扱えるだろうか。重くない銃剣ならば、攻撃力は格段に落ちるだろう。
それこそ鎌なんてどうだ。いや、鎌なんて使ったことがない。形もうろ覚えだ。これでは振り回す自分のイメージが沸かない。
もう普通に拳銃とかにしようかと思っても、なんとなく、違うような気がしてならない。
リリカちゃんの武器は弓だし、俺には引けそうもない。力がいらない弓ならば?
違う。俺はそうじゃなくて。
そして、思いついた武器は。
まだ手元にないというのに、まだ戦争をすると確定したわけでもないのに、しっくりと収まる武器だった。
これで行こう。
まさか、死ぬわけがないんだから。
あんなふざけた手紙で誘拐されて、死ぬわけが
ない。
だから、あれがいい。
思いを固めた時、ちょうど蓋が開く。立ち上がると、そこは。
小さな港がある、よくある島だったのは、かなり意外であったけれど。
もっと驚くべきことは、そこにひとつの剣があって、それは今しがた、自分が考えていた武器と、全く同じであったことだった。




