デート
私生活に余裕がない…もしかしたら、これが最後の投稿になるかもしれません。一週間後までに更新できなかった場合、誠に勝手ながらこの物語をここで完結させることにします。
日本中を震撼させた大規模テロ事件から一週間。あれほど騒いでいた世間もまるで何も起きていなかったような様子で表面上は普通の生活に戻っていた。
一応、最大の問題でもあった日本警察と自衛隊の装備拡充や治安出動は見送りとなり、国内外で『JACK』と繋がっている企業や団体への捜査の手は伸びている。奴らの用心棒であるイマジネーターを倒すのはヒーローの仕事でも、その後ろに控える悪党を捕まえるのは大人の仕事だ。
そんなこともあって、陰ながらこの国の未来を守った私達はささやかながらも自分たちへのご褒美を求めてあの遊園地に来ていた。二週間くらい前までは『JACK』の出先機関だったこの海映グランドパークも、今ではおじいちゃんが海映ごと買収して再出発を始めている。だけど流石にこのままは使えないから、設備や遊具をそう取り換えして再スタートする予定らしい。
「遊園地貸し切り…ねえ。ありえねー」
「そう?でも、やっぱり二人っきりじゃ広すぎるよね」
再スタート前に、危険な設備を取り除いた旧グランドパークを和也と二人で楽しみたい。日本を救った私のささやかな我儘をおじいちゃんは叶えてくれた。
「まあいいや。ただで遊ばせてくれるっつーなら楽しませてもらおうぜ。なにせ、校外学習は台無しにされちまったからな」
「うん!折角のデートなんだし、楽しもうよ」
「デート?ああ、まあデートって言えばデートか。でもまだ付き合ってる訳じゃねーんだぞ」
「いいの!全くもう…人の気も知らないでさ」
「何だって?」
私の独り言を聞いて、難聴とかそう言うヒーローにお約束なスキルを発動せずに突っ込んでくる和也にちょっとむくれつつ、私は和也を連れて遊園地の様々な乗り物を巡っていく。ゴーカートにメリーゴーランドにトロッコ。せめてこの時ばかりは普通の恋人同士の様にいられるように祈りながら、私は闇雲にグランドパークを突き進んでいくのだった。
「キャプテンZ、そしてプロフェッサーD!此度の作戦の失敗、そして手駒となるダミー会社の大半を失うこの大失態、どう償うつもりだ?」
『JACK』日本支部。大首領との謁見室にて、キャプテンZとプロフェッサーDは大首領からのお叱りの言葉を甘んじて受け入れていた。しかし、本当の意味で甘んじて受け入れていたのはキャプテンZのみであり、プロフェッサーDは不服そうな顔で言い返す。
「大首領!それはわたくしの責任ではございません!すべては、あの葦原和也とか言う小僧の…」
「黙れ、プロフェッサーD!元はと言えば貴様が情報を漏らしたのが原因だろう!」
「そ、それは…」
今すぐ処刑されても文句は言えない大失態を繰り返して来たプロフェッサーD。こいつさえいなければ、と言う想いが世界中の『JACK』構成員たちが抱えており、既に支部長でも幹部でもない彼がこの謁見室に呼ばれたことからして結末は分かり切ったものだった。
「大首領、任務が達成できなかったことは私自身の実力不足故。この失態を償うためにも、どのようなご命令であろうとお受けする所存であります」
「うむ。ならば貴様に命ずる。貴様の右腕でもあるその男、プロフェッサーDを貴様自身の手で処刑せよ」
「なっ!?何故です!?私は今まで貴方の為に…!!」
「黙れ!この底抜けの愚か者め!貴様を幹部に迎えたこと、いやそもそも『JACK』に引き込んだことそのものが間違いだったわ!!」
「そ、そんな…!!」
絶望に顔が歪むプロフェッサーD。その後ろで、キャプテンZが部下から渡された処刑用の刀を引き抜いて見せた。
「わ、私を殺すのか!?私はお前の部下だぞ!?」
必死に後ずさるプロフェッサーD。キャプテンZは感情も見せない顔で刀を振り上げ、冷たく言い放った。
「もう部下ではない」
「止め――――――」
次の瞬間、プロフェッサーDの首と胴体は二つに分かたれたのだった。
「見事な腕前だ。キャプテンZよ、その幹部最強を誇る実力ならば…」
「いいえ首領。葦原和也は私の力を越えています。私は奴には敵わないことを思い知らされました…」
「なんだと?」
「すでに奴は我々を追いつめるだけの力を持ち合わせています。ならばこそ、今後は出来る限り奴と遭遇しない方針で作戦を練る必要があります」
「成程。日本支部は地下活動を始めると言う訳か。よかろう。成果を期待する」
「はっ!!」
キャプテンZの敬礼と共に謁見室の電気が消える。それと同時に部下たちが駆け込んでくるのを見て、キャプテンZはただ「片付けておけ」と命令するだけだった。
謁見室を後にし、一人支部長室に戻る。そして資料を取り出し、和也たちの写真を見つめて独り言を呟いた。
「君ともう会うことは無いだろう。例え我々が悪の組織であっても、現代にヒーローの居場所は無いのだよ」
その言葉を最後に、『JACK』日本支部はどこかへと姿を消した。
「疲れたぁ…」
俺は一人、ベンチに座って夕焼け空を見上げていた。ほぼ一日中、やたら張り切っていたヒカリに振り回されて疲れ果ててしまった。
それにしても、どうしてあそこまで張り切っていたのか。確かに校外学習が台無しになったのは残念だったけど、だからと言って二人きりで遊園地を貸し切って遊びたいなんて言うような我儘キャラだったか。
「和也、お待たせ」
「ん?ああ、もう買ってきたのか…って、他に客居ないんだから当たり前だよな」
ドリンクを二人分抱えて走って来たヒカリ。片方を受け取ってベンチに並んで座ると、ごく自然な流れでヒカリが俺と腕を組んできた。
「…なんだよ」
「恋人気分…いつ味わえるか分かんないから、ここでちょっとつまみ食い」
「待ちきれなくなったのか?だったら、いっその事捨ててくれていい」
「ううん。絶対に待つよ。だけど、今日だけは…お願い」
そう言ってヒカリはそっと頭を俺の肩に乗せてくる。彼女のサラサラした髪の毛やほんのり暖かい体温が俺の頬を染めるのが分かる。だけどここで下手に撫でたら傷つけかねないことが分かっているからこそ、俺は必死に自分の手を抑えた。
「悪いな。まだ、ヒーローだから…」
「うん。和也は皆のヒーローだもんね。私だけのじゃなくって…」
「急にどうしたんだよ?」
「別に。ただ、ふとそう思っちゃった…なんでだろ?」
ヒカリはそう言って涙を拭う。それを見た俺は咄嗟にフライトスーツで守られているヒカリの肩を掴んで目を合わせた。
「えっ…?」
「だけど、俺は泣いてる誰かのヒーローって設定なんだ。だから、今はここで泣いてるヒカリだけのヒーローのつもりだぜ」
「…ほんと?」
「本当だ。何をしてほしい?」
「じゃあ、キス。おでこでも、頬っぺたでもいいの。私、目を閉じてるから…」
そう言って本当に目を閉じるヒカリ。ヒーローの癖にヘタレなことは実感している俺だけども、今ここでやるべきことは一つしかない。
俺は細心の注意を払ってそっと抱き寄せ、ヒカリの唇にキスした。
「…ん」
一瞬だけだった。驚きの表情を浮かべて目を開けるヒカリを前に、俺は紅くなった顔を背ける。
「俺、絶対に身体を治すから。そんで、今度はちゃんと…その、最後までやってみせるからさ。待っててくれるよな?」
「うん。だったら、早く治そう?出来れば、高校卒業までに治してさ、そのまま結婚しようよ」
「お、おう…気が早いな」
「そうよ。だって私、貴方が大好きだから」
そう言うヒカリの顔は、どこまでも眩しいくらいに晴れやかな笑顔だった。




