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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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決戦前夜

次回からちゃんと戦います。

 『麻久利村』は普段の静けさを忘れて人々で賑わっていた。俺の通報で来てくれた三条警部補たちと、彼らが一緒に連れて来た県警の捜査員たちで村はごった返していて、正気に戻ったばかりの村人たちは訳の分からないままに救急車に乗せられ、山の下の警察病院で検査を受けている頃だろう。

「ふむ…これが?」

「プロフェッサーDを脅して奪った中和薬です。効果も既に見られたから、本物でしょ」

 中和薬を撒いたことで『麻久利村』の村人たちは正気に戻ったのを確認した俺は、到着したばかりの三条警部補たちに残りの中和薬を渡した。

「奴はどうしたんだ?あのプロフェッサーDは」

「アイツは馬鹿ですから。多分、泳がせておいた方が計画阻止には好都合だと思います」

 既に二度にわたる情報漏えいに加え、命惜しさに計画の根幹を握る狂化ガスの中和薬を渡して逃げたあのジジイなら、支部に戻れば最悪死刑だろうし、死刑にならなければそれはそれで今後も利用価値がありそうだ。

 大体の事情を話すと、三条警部補も頷いてその意見に同意してくれた。

「まあそれはともかくだな。狂化ガスの制作手順も分かったのは大きな前進だ。この先か?」

「…あれは見ない方が良いですよ」

「どういう意味だ?」

 既に開けられた神社の扉を前に、俺は吐き気をこらえながら視線を背ける。元々、漫画を描く練習として風景を一瞬で覚える訓練は昔からやって来ていた。その為時々、ショッキングな光景を目の当たりにするといつまでもフラッシュバックしてしまう嫌な特性が俺にはあった。特に人の死体は、母さんと父さんの死んだ瞬間を思い出してしまうから余計に覚えてしまうのだ。

「こ、これは…」

 中身を見て思わずと言った面持で後ずさる三条警部補。社の中には様々な手段で殺された動物たちの死体、そして一番奥には斧や鉈、カナヅチなどこの村にある凶器でなぶり殺しにされたと思われる警察官らしき死体が。多分、哲也君を助けてくれたという駐在さんだろう。

「自分たちの手ではなく、何の罪もない村人たちに手を汚させたって訳だ。どこまでも腐った奴らだ」

「ああ。何としてでもこの日本ズタズタ計画を阻止し、『JACK』を壊滅させなくては」

 三条警部補の言葉に俺は小さく頷いた。



 警察病院の待合室は思っていたよりも普通だった。予想では目つきの悪い刑事さんたちとかがウロウロしていて落ち着かないんじゃないか、なんて思っていたけど、隣に座って両親の診察を待っている哲也君も見た所は落ち着いている。

 でも、だからと言って安心できるわけでもない。子供だからって、感情を隠すのが上手い子だっている。もしかしたら表面だけ取り繕っているけど、本当は不安で一杯なのかもしれない。

「大丈夫?哲也君」

「俺は大丈夫。それより、さっき助けてくれたヒーローって、お姉ちゃんのカレシ?」

「っ!?」

 こっちが心配して声をかけたというのに、何故か哲也君からいきなりとんでもないことを言われて思わず呑み込んだ唾でむせこむ私。

「ゴホッゴホッ!?」

「ちょ、大丈夫かよ。この程度のことで動揺するなんてお子様だなぁ」

「ち、ちがっ…ゴホッ!?」

 おまけに小学生にお子様認定される始末。私は情けないやら辛いやらで涙目になりながら哲也君を睨んでしまった。

「もう…子供がませたこと言わないの」

「お姉ちゃんに子ども扱いされたくねえよ。で、どうなんだよ。あの兄ちゃんなんでしょ。コミックマンって」

「…そうなのかな?」

「誤魔化すなよ。でも、聞いたってこれ以上は教えてくれないんでしょ?」

「分かる?」

「分かるよ。ヒーローって、そう言うもんでしょ?」

 子供らしく屈託なく笑う哲也君の顔がどこか大人びて見える。そんな彼に私が首を傾げていると、哲也君の名前が呼ばれて待合室の椅子を立った。

「もう一人で大丈夫だよ。助けてくれてありがとう」

「うん。彼にも、伝えとく」

「それじゃあね」

 それだけ言い残して哲也君はまだよく事情が分かっていないらしい両親の元に駆け寄っていく。その背中を見て、ふと私は胸にチクリとするものを感じた。

(お父さん、お母さん…)

 私を産んですぐに死んでしまったお母さんと、私の未来を守るために和也に全てを託して死んだお父さん。

 もしも何か一つでも過去が違えば、今頃は二人と一緒に居られたのかな。『JACK』のことなんて一切知らず、お父さんとお母さんが暮らしている家で寝起きして、二人に見送られて学校に行って、そして学校や街じゃただの漫画家志望の和也とデートしたりして。

 でも、それは叶わない夢だ。過去は変えられないのなら、戦って少しでもいい未来にたどり着くしかない。

(みんな、私達で守ってみせる。それでいつか必ず、この戦いを終わらせて平和に暮らすんだ)

 密かに決意を新たにして警察病院を出ると、入り口のすぐ傍に和也が缶コーヒー片手にボーっと空を見上げていた。

「よう。あの子は大丈夫だったか?」

 私の顔も見ずに聞いて来る和也。そんな彼に私は少し意地悪く答えてみる。

「そんなに心配なら、直接会いに行ったらどう?」

「いや、大丈夫みたいだからいいさ」

 それだけ言って私に未開封の缶コーヒーを投げ渡して歩き出す和也。私はその背中にちょっとだけ呆れたけど、すぐにその隣まで駆け寄る。

「…なんだよ」

「ううん。たださ、いつもよりカッコつけたからって会いたくないのは男らしくないかな、って」

「ばっか。そんなんじゃねーよ」

 照れくさそうに肩を竦める和也に、私は腕を組もうと手を伸ばしたけど、やっぱりやめた。これは、全部終わってからやろう。

 私達二人は肩を並べて駅に向かっていった。今は、家に帰って新しい動きがあるまで休まないと。



「大首領、予想だにしていない事態が起こりました」

『うむ。私も事情は察している。災難だったな。日本ズタズタ計画の成功率はいかがなものかね?』

「シミュレーションでは三十%以下と出ました。大首領、ここは作戦の延期、もしくは破棄する許可をいただきたい」

 大首領との謁見室。キャプテンZは苦渋の表情で大首領に伺いを立てていた。元々日本ズタズタ計画はキャプテンZの発案ではあったが、計画の推進と実行に当たって大首領からの指示やアドバイスは受けていた。いくら自身のあずかり知らぬ所でのミスとは言え、このまま何もせず失敗すれば自分の責任だ。

『いや、日本ズタズタ計画の決行は確定事項だ。既に日本政府への根回しまで済んで居る。ここで延期する訳にはいかん』

「ですが…!!」

『キャプテンZよ、そなたに命ずる。何としてでもこの計画を決行せよ。どのような形でも構わぬ。成果を上げよ。以上だ』

「なっ…!!」

 大首領の命令は絶対ではあるが、この時ばかりはキャプテンZも狼狽して後ずさる。

「無茶です!既に狂化ガスの中和薬までもが敵の手に…!!」

『それでも多少の成果はあるだろう。いいか。この計画は今の時点で既に成果を上げている。ならば、お前のするべきことはなんだ?』

「…この成果を無駄にしないこと、でありますか?」

『その通り。方法は任せるぞ。それと、情報漏えいした愚か者の始末もお前に一任する。くれぐれも、私を失望させてくれるなよ』

「お任せください大首領。かくなる上は、この私の命に代えても」

 その言葉を最後に大首領との謁見が終わり、キャプテンZは苛立ちを隠すことなく懲罰房へと向かう。

「ええい、この私を誰だと思っている!ここから出せ!!」

 懲罰房の中のプロフェッサーDは延々と牢屋の外に怒鳴り散らしていた。その姿にキャプテンZは頭痛がひどくなるのを感じる。まさか、ここまで『JACK』を窮地に貶めているという事実を認識していないとは。

 だが、今はそんなことは考えている暇は無い。キャプテンZは懲罰房の前に立ち、渋々と言った顔の部下が差し出した鍵を挿し込む。

「貴様、私に情けをかける気か?」

「プロフェッサーD。正直言って、貴様には腸が煮えくり返る思いではある。大首領も同じだろう。だが、汚名返上のチャンスをやろう。貴様が隠れて作っていた新型イマジネーター、稼働できるのか?」

「…可能だ。私を誰だと思っている」

「ならばさっそく出番だ。明日、それを奴らにぶつけるぞ。今すぐ最終調整を行え」

「ご命令とあらば。支部長殿」

 命令されていることに不満を前面に出しつつ、プロフェッサーDは秘密の研究室に向かって行ったのだった。



「明日?」

「そうじゃ。明日、公安とワシら天龍寺グループが全国生中継の元で今回の事件の真実を公表する。その際、『JACK』だけは別の国際テログループとして扱うこと、そしてイマジネーターとナノマシンについても秘匿するがな」

 家に戻って早々、爺さんは明日の予定を伝えて来た。

「でも、なんで急に…?」

「それはじゃな…」

「もしかして、臨時国会か?」

「それじゃ。明日の午後二時から、国会にて特別法案の審議が開始される。警察の装備拡充、及び自衛隊の治安出動がそこで可決され、『JACK』の手先が日本政府に諸手を上げて迎え入れられるじゃろう。そうなる前に真実を公表する。さすれば…」

「いくら議員を抑えて居ようとも、国民の声までは抑えきれない。なら俺たちの役目は…」

「生中継の妨害をする『JACK』のイマジネーターを倒して守ること」

「そう言うことじゃ」

 その言葉と共に渡された一枚の書類。そこには、明日の生中継の予定表と段取り、そして警備の手順が書かれてあった。

「明日はこの国の未来がかかった一戦になるじゃろう。ワシが言うことじゃあないかもしれんが、頼むぞ。小僧」

「…大船に乗った気分で居てくれ。守り切ってみせるさ」

「うん。安心しておじいちゃん。私達が絶対に守るから!」

 ありがとう、とだけ言い残し、爺さんは部屋に戻っていった。俺たちはその背中を静かに見送る。爺さんも、戦う場所は違うけどヒーローだった。

「今日はもう休もうぜ」

「うん」

 そして俺達も、明日に備えて部屋に戻る。明日は、『JACK』との二度目の決戦だった。

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