ニンジャ!?
アイエエエ!?ニンジャ!?ニンジャナンデ!?
深夜。俺は滝先生の命令に従い、一人寂しく職員室の金庫前で寝ずの番をしていた。もう春も終わりが近づいて来ていたからか、昼はそれなりに過ごしやすい気候ではあったが、夜は流石にまだ肌寒い。タオルケットでも持ってくればよかったが、そんな物を持ってきてしまえば間違いなく見張りの仕事を果たせなくなるだろう。
「畜生…変なこと言うんじゃなかった…」
眠気覚まし用の缶コーヒーも、既に二缶目を飲み干してしまっていて空っぽ。ここに常備してあるコーヒーメーカーは使うなと言われているし、ここからまた連絡通路の自動販売機まで行くと考えると憂鬱になる。
持ち込んだ漫画は、どんな名作でも夜の十二時を過ぎれば読んでいて眠くなると言う発見と共に封印され、スマホは現在充電中だ。すぐ傍に学校のコンセントがあるのでそこを使って充電させてもらっているが、気づいた時には残り十五%にまで減っていたせいで色々と気になってしまい、暫く触りづらくなってしまった。
「ゲームでも持ってくりゃあ良かった…そもそも、とっくに流出させたんだからもう来ねーだろ…」
チラリと新しい答案用紙が入った金庫を見ながらやけに豪華な教頭の椅子に座る。が、机の上に置いてある水虫の薬を見て何だか不愉快な思いをしてしまい、すぐに立ち上がった。
「こうなれば、ちょっと眠気覚ましに体操でもするか…?」
少し体を動かすだけでも大分違うはず。そう信じて身体を動かし始めたその時、コンコン、と言う音が聞こえて来た。
「ん…?ヒカリ?」
そこに居たのは、足裏ジェットで職員室の窓の外でホバリングしているヒカリだった。ジェスチャーで開けろ、と言うので、俺は少し驚きながら窓の鍵を外す。するとヒカリは足裏ジェットを切ると同時に窓枠に手をかけ、まるで体操選手みたいなスムーズな動きで職員室に入って来た。
「どうしたんだ?こんな夜中に」
「どうしたんだ?じゃないよ。心配だから来たの。ほら、缶コーヒーとタオルケット」
「おお。今まさにほしいと思ってたところだ」
冷めたホットの缶コーヒーとタオルケットを渡され、俺は思わず顔をほころばさせながら床に座る。そしてまずは缶コーヒーの蓋を開けてしっかりと味わいながら飲んだ。
「あー…頭が冴えるぜ…ありがとうな。ヒカリ」
「もう。今夜は寒くなるからタオルケットくらいは持っていったら?って、ちゃんと聞いたのに」
「さっきも言ったけど、お前は俺のお袋かよ。まあ、でも助かったぜ。予想よりも肌寒かったし、電子機器は全部使えないようにしてあるからどうしようもなかったしな」
「全部予想通りじゃない。全くもう」
本当に母親みたいな口調でぶつくさ言いながら俺の隣に座るヒカリ。シャワーは浴びて来たのか、ふわりと花の香りが漂ってくる。ちょっとだけドキッとしたのは内緒だ。
「それにしても、犯人来そう?」
「さあなぁ。とっくに仕事は終わってるんだし、まさか学校があの裏サイトの隠しリンクを知ってるとは思っても無いだろ。来ないんじゃねーのって思って来た所…」
その時だった。俺の脳裏に微かなナノマシンの気配が届き、俺は咄嗟にヒカリと二人で物陰に隠れた。
「ちょ、ちょっと!?まさかここで…!?」
「静かにしろ。ナノマシンの気配がするんだよ…」
「え…?」
何を勘違いしたのか真赤になっていたヒカリが慌てて眼鏡の縁に手を当てる。イマジネーターの反応を探知するレーダー機能が作動したらしい。
「あ、ほんとだ…ってあれ?消えた?」
「消えた?気配はするぞ?」
「でも、消えたよ?って、また出て来た。付いたり消えたりしてる…」
「付いたり消えたり…?って、んな話は後だ。そろそろ来るぞ」
ヒカリと二人、真っ暗な職員室で息を殺して気配を待ち受ける。そして一呼吸置いて、なんと職員室の扉が独りでに開いた。
(なんだ…!?カメレオンか!?)
(ううん、サーモグラフィーにも反応しないよ。でも、あれ?)
そこまで言って違和感を感じたのか、首を傾げながらヒカリが物陰から少しだけ顔を覗かせる。俺もその奥から金庫の辺りを見てみると、なんと金庫の扉がまたしても独りでに開き始めていた。
(ど、どうなってるんだ!?)
視界に映らず、音も聞こえず、おまけに行動していると言う結果しか残っていない。まるで忍者か幽霊に化かされているのではないかと思ってしまったその時、ヒカリが眼鏡を外して立ち上がった。
「見えた!!君ね!!」
「―――――――――」
「観念しなさい!とっくに学校にもバレてるのよ!!それに、その身体を作った奴らのことも!!」
「え?ちょ、ヒカリ?何言ってるの?何見えてるの?」
突然何もない所に居る何者かに話しかけ始めるヒカリに、まさか霊能者なのかと疑ってしまう俺。しかしヒカリはちょっと面倒くさそうに首を横に振った。
「和也、このイマジネーターは多分、電子機器を狂わせて操る能力があるんだと思う。だから、私の眼鏡とか、ナノマシンで強化されちゃってる和也じゃ見つけられないの。だけど、私の裸眼なら…」
「見えるのか!?」
「ううん。私、視力両目とも0.1だから」
「どーすんだよそれ!?」
「―――――――――」
「キャッ!?」
独りでにヒカリが飛び上がり、ものすごいパワーで後ろの壁に背中から叩き付けられる。どうやら今目の前に居るであろう敵イマジネーターに制圧されてしまっているらしいが、俺には精々何かが通ったと思われる風しか感じ取れない。これが敵イマジネーターの仕業と知らなければ、マジでポルターガイストに遭遇してしまったとテンションを上げる所だが、生憎そんな状況じゃない。
「くっそぉ!!変身すりゃあ見えるって信じてぇ!!」
原稿用紙を取り出し、コミックマンへ変身する。しかし、やはりと言うか何と言うか。独りでに浮かび上がってジタバタしているようなヒカリしか見えない。
「見えねえじゃんかよ!!畜生!!」
取りあえずボードブレードを取り出し、ヒカリの周囲に斬りかかる。手ごたえは無かったが、それでもヒカリは解放されて床に着地した。
「どこだ!?ヒカリ、見えるか!?」
「見えないよ…!?普通の眼鏡、持ってきたっけ…!?」
「くっそぉ…!!おおぁ!?」
慌てて持ってきた荷物を探り出すヒカリをよそに、俺はどこからともなく襲って来た凄いパワーにタックルを決められて吹き飛ばされてしまう。
机や椅子にぶつかり、散らかった職員室の中でボードブレードを構えなおす。しかし、見えも聞こえもしない敵をどうやって倒せと言うのか。
その答えを示すように、何度も彼方此方から殴りつけられてしまう俺。何とか尻尾だけでも掴もうと闇雲に手を伸ばすも、敵は一度も捕まらなかった。
「――――――」
「あーくそ!!今、笑われた気がしたぁ!!」
「馬鹿!後ろに居るんだよ!って笑ってる!!」
「あ?後ろかぁ!!」
ヒカリの通訳で咄嗟に後ろをボードブレードで斬りつける。が、遅すぎたのか全然当たらない。このままじゃ不味い。こうなったら、ヒカリに頼るしかないな。
「ヒカリ!!どこにいるかだけでも教えてくれ!!」
「だ、ダメ!!眼鏡無いと、止まってるものしか見えないの…!!」
「あー!?マジかよ!?」
ヒカリのあんまりな言葉を聞いて唖然とする俺に、敵の強烈なキックらしき一撃が叩き込まれる。吹き飛ばされ、開けられた扉から廊下に追い出されてしまう。
「不味いな…!!どうにかして見えるように…!!がっ!?」
またしても強烈なパンチと思わしき一撃が顔に入り、更に腹に追撃の一撃。気配すら感じ取らせてくれないのでは反撃のしようが無いが、ここまでワンサイドゲームに追い込まれるとは。
「てええええええい!!」
「ヒカリ!?」
「――――――――――」
その時、ヒカリが足裏ジェットを吹かして超高速でタックルを決めて来た。俺からしてみれば俺目がけてタックルしてきているようにしか見えなかったが、ヒカリは俺の目の前で何かにぶつかった様な音を出して動きを止めると、そのまま足裏ジェットを器用に操り空中で回し蹴りを放つ。
「ぐえっ!?」
「どうだぁ!!」
締めに靴を突きつけ、ジェット噴射を全開にして爆風を叩き付けると、そこには黒い機械で出来た忍者みたいなイマジネーターが姿を現した。
「あ、見える!!」
「え?な、なんで!?」
「ヒカリの連続攻撃でダメージを負って、ナノマシンが不調を起こしたか!ならこいつでとどめだ!!」
姿が見えるようになれば、後は倒すのみ。ボードブレードを両手で構え、精神を統一する。するとボードブレードが細長い日本刀型に形が変わり、俺の身体もサムライモードに変化する。
「一刀!神速突き!!」
目にもとまらぬ速度でボードブレードを突き出し、ボードブレードのリーチ以上に突き出されたその一撃で貫かれた忍者イマジネーターは静かに崩れ落ちた。
「二年A組の朝倉顕…ねえ。なんでこんなことしたんだ?」
ナノマシンが取り除かれて判明したイマジネーターの正体は、やはりと言うかこの学校の生徒だった。犯人確保の連絡を受けて駆け付けた滝先生が学生証を確認し、ふて腐れた顔の先輩に質問するも、先輩は舌打ちして顔を背けるだけだった。
「そんなの、決まってるだろ。皆テストは嫌だろうから、助けてやろうと思っただけさ。まあ、変な奴らに何か注射されてからは記憶が曖昧だけどさ」
その答えを聞いてため息をつく滝先生。まあ、全部『JACK』に操られていました、だったら何か理由を付けてお咎めなしにするつもりだったんだろうが、元々何らかの形でやろうとしていたとは。
「まあ、皆テストは嫌いさ。俺だって嫌いだったな」
「普通そうだろ?だったら見逃してくれよ。俺だって、悪気があった訳じゃないんだよ。ただ、皆を助けてやろうと…」
「馬鹿。テストを公平に苦しみながら受けるのは学生の義務だ。それが出来ないって言うなら高校生になるんじゃない。他に生きていく道はいくらでもあるんだよ。分かったら退学届けにサインするか、今回のテストを全科目零点扱いにして高校生を続けるか、どっちか選べ」
淡々と告げる滝先生の横顔は、隠れて見ている俺達にもかなりの迫力があった。頭ごなしに大声で怒鳴られるよりも、機械的に淡々と扱われる方が怖いって言うのはよく聞くが、これは…。
「…はぁ。帰って真面目にテスト勉強するか」
「そうだね」
頭をかく俺を見て、ヒカリはまた呆れた顔で笑うのだった。
感想待ってます。




