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COMIC-MAN  作者: ゴミナント
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初乗り~スカイガール~

今回、新しいバトル要員が。

 和也が気を失った直後。崩れ落ちた岩盤の下敷きになっていたキャプテンZは涼しい顔で脱出していた。顔にはくっきりと殴られた痕が残っていたが、本人は特にダメージを負った様子も見せずスーツに付いた土埃を払う。

 そして気絶している和也を眺めて暫く考え込んでいると、ふと彼は自分に向けて発射されたレーザーに気づいて飛び上がる。

「外したか…!!」

「日本警察か。予想よりも動きが早いな」

 三条警部補率いる特殊チームが周囲を囲い、先に確保しようとしていたカミキリムシのイマジネーターも既に奪われている。

「どうやら時間をかけ過ぎたらしい。もしかすると、これも君の作戦か?」

 特殊チームのメンバーによって介抱されている和也を見ながら薄く笑う。どうやら、わざわざこのアジアの平凡な国に来た甲斐はあったらしい。

 キャプテンZはそう独り言を呟くと、夜の闇に消えていった。

「…追いかけますか?」

「いや。負った所でどうすることも出来ないだろう。下手に手を出して民間人に被害を出すわけにもいかん。今日は被害を食い止められただけでも良しとしよう」

 三条警部補も、姿を消したキャプテンZを睨みつつ部下たちにそう宣言する。部下たちもその答えに納得し、戦場となった採石場を後にした。



「ん…」

 俺が目を覚ましたのは、三条警部補たちが運転する黒塗りの特殊車両の中だった。全員で採石場から長野の旅館に戻る道すがらだったらしく、窓の外はまだ真っ暗で何も見えなかった。

「気が付いたか?」

「ああ…くっそ。めちゃくちゃ痛てぇ…」

「あの戦場を見る限りでは余程の戦闘だった様だ。キャプテンZと交戦して生き延びたのは君が初めてだろうな」

「なんだそれ…アイツ、そんな危険な奴だったのかよ…」

 三条警部補の話を聞いて、ナノマシンの治癒力で消えたはずの痛みが改めて蘇ってきたような感覚に陥った。全く、とんでもない奴に目を付けられたもんだ。

「それで、どうする?奴らは恐らくもうここには残らないだろう。危険が無くなったと判断された場合は、我々も今夜中に東京に戻るが、君は?」

 三条警部補に聞かれ、俺は改めてこの街に来た理由を思い出す。そう、ここに来たのはあくまで水城さんのスランプの理由を探す為であって、あの訳の分からん『JACK』なんぞと戦う為なんかじゃないんだ。

「電車のチケットは明日の昼なんで、もう少し残りますよ。爺さんには説明しておくんで…」

「そうか。天龍寺グループへの説明は大変だろうが、我々としても重要な案件だ。よろしく頼む」



「お腹空いたぁ…」

 天龍寺グループ本社ビル最上階新製品発表カンファレンスルームにて、私はロッカーに一杯しまっておいたあんぱんを取り出して口に頬張る。昨日から和也が取材旅行で長野に行ってしまったから、料理を作ってくれる人が居なくてひもじい思いだった。一応、ここの社員食堂とかは私用に大盛りを作ってくれるけどそんなに美味しくないし、味も求めてあずま屋に行けばお小遣いが足りなくなるし。

「私も長野に付いて行けばよかったかなぁ?でも、練習しなきゃいけないし…」

 新品のローファーで床を叩きつつ、私はあんぱんの山をたいらげて立ち上がる。脇に設置してある姿見に写る自分を改めて見てみてちょっと驚いた。黒のストッキングとアームカバーは予想以上に制服とマッチしていて中々おしゃれだ。これから日差しが強くなることも考えれば、不自然に思われるようなことも無い。おじいちゃんがデザインを仕立てたと聞いて不安だったけど、これなら安心だ。

 そうしてもう一度練習しようと決心したその時、制服のポケットに入っていたスマホに着信が入った。

「もしもし?おじいちゃん?」

『ヒカリ!!不味いことになった!!イマジネーターが地下の隔離施設に侵入しよおった!!』

「え!?じゃ、じゃあ水城さんは…!?」

『電波遮断機は壊された!!既にイマジネーターとして暴れ出しとる!!お前は何とかして…』

「分かった。すぐに出るね」

『は?』

 スマホを切り、私はカンファレンスルームを出て屋上に向かう。そして屋上の真ん中に立ち、懐からカードキーを取り出して左腕のアームカバーに入れる。

「初陣だね…カードキーセット!!」

 一見ただの黒いアームカバーに見えるが、これもおじいちゃんたちが完成させた新型フライトスーツの装備の一つ。足元から手のひら、そして首元まで覆った黒い布状のスーツは、様々な環境に適応できるよう設計されたパワードスーツでもあり、これさえ着ていればトラックに撥ねられても逆に押し返せると言う優れもの。

 そしてこのフライトスーツに連動して起動するのが、ローファー型のジェットエンジン。私の靴が激しく燃え出し、噴射するジェットのエネルギーで私の体浮かび上がる。

「たあっ!!」

 私は屋上から飛び上がり、そして高速で本社ビルに沿って降下していった。重力とジェットエンジンの相乗効果ですぐに地上が見えてくる。

 私は高低差に耳にちょっと違和感を感じつつ、空中で一回転して地上付近で急速停止。そのままホバリング状態で本社ビルのホールに入る。

「水城さん!!」

 そこには、水城さんが変身した白鳥型のイマジネーターと、背中に大量の針を背負ったハリネズミ型のイマジネーターが。

「女子高生が空を飛ぶか…!?」

「ハリネズミ!!これ以上水城さんをどうするつもり!?」

「決まっている!!優秀な実験体を手放す科学者が居るか!!」

 問答無用で針を飛ばしてくるハリネズミ。

「この針…公園で和也を攻撃した針!!」

 この間襲撃してきたイマジネーターはこのハリネズミだったのか。私は納得しつつジェットエンジンを吹かして縦横無尽に飛び回って回避すると、やがてハリネズミの背中の針が尽きたのか針が飛んでこなくなった。

 チャンス、と思って突撃していく。頑丈なこのパワードスーツとジェットエンジンの推進力なら、相当なダメージになるはず。

 だけど、次の瞬間水城さんが私の体を狙って刀を振り下ろしてきた。咄嗟に体勢を崩して回避するけど、その時には既にハリネズミの針が充填されたらしく針が飛んできた。

「あっ!?」

 慌てて両足をそろえて最大出力のジェットエンジンで回避する。だけどそうしたらすぐ目の前に天井が。

「きゃあああああ!?」

 両手で顔を守るけど、そうしたらそうしたで手が天井にめり込んでしまった。

「いったぁ…」

「間抜け!!」

「あ、待ってよ!!」

 こんな状況なんだから待ってくれてもいいのに、ハリネズミは容赦なく私に向けて針を飛ばして来た。私は頑張って手を引き抜いて避けるけど、避けきれずに制服の裾の辺りが破けてしまった。普通なら恥ずかしがるべきなんだろうけど、下に着ているフライトスーツのお蔭で恥ずかしくは無い。

「ほお?制服の下にストッキングとは…何と色気のない」

「は、はあ!?」

 けど、ハリネズミの言葉に頭に血が上った。

「悪いか!?このスーツは…!!このスーツはぁ!!」

 怒りのあまり私はまだ未完成の必殺技の構えに入った。ジェットエンジンを最大出力で吹かし、体を横に倒す。私の体は足裏のジェットエンジンの推進力で回転し、推進力を遠心力に変えて円盤型のUFOのように見えるように高速回転。

「アンタなんかに見せるためのスーツじゃないのよぉ!!当たれ!!私の渾身のスカイソーサーアターック!!」

「な、なにぃ!?」

 傍目に見れば赤く光る円盤のような形になりながら、僅かな体勢の変化でハリネズミに突撃していく。ハリネズミも水城さんも予想だにしていなかった攻撃らしく、動揺した様子であたふたする。その隙を突いて私は高速回転したままハリネズミに思いっきりぶつかった。

「ば、馬鹿かぁ!!」

 ジェットエンジンの推進力と遠心力、そして高熱の籠った渾身のつま先キックがハリネズミのわき腹に当たり、ハリネズミは派手に吹き飛ばされていった。

「うっ…あんぱん吐きそう…」

 着地と一緒に回転の勢いを殺しきるも、全身を激しくシェイクされたことによる体への負担は大きかった。やっぱり、この必殺技は禁止かな。

「で、でも…流石にこれならイマジネーターと言っても…」

 思わずそう言って振り返りつつ、口走ってしまった言葉にハッとする。これ、フラグだよね。和也が言ってた。流石にこれなら○○と言えど…だなんて。

 果たして、その言葉の魔力ゆえか、瓦礫の中から立ち上がったハリネズミは片足を引きずりつつ水城さんの隣に立っていた。

「…成程。天龍寺グループの脅威レベルを引き上げねばならないようだな」

「ま、待ちなさい!!水城さんを解放して!!」

「その必要は無い。彼女は我々が有効活用させてもらうとしよう。では、さらばだ!!」

 ハリネズミはその言葉を最後に謎のフラッシュを放って私の視界を奪う。そして目のチカチカから解放された時には、既にハリネズミと水城さんは行方をくらました後だった。

「ど、どうしよう…和也…」

 和也が居ない間に、水城さんを連れ攫われてしまった。こんなことになるとは思ってもみなかった。だけど、このままにしておく訳にも行かないし…。

「と、とりあえず、連絡しなきゃ…」

 私はそう呟きながら、制服のポケットに入れていたスマホを取り出した。



 その電話がかかって来たのは、駅の立ち食い蕎麦屋でサラリーマンらしきおっさんたちに紛れて昼食を食べていた時だった。

『和也!水城さんが連れ去らわれちゃった!!どうしよう…!?』

「水城さんが!?くっそ、何だってこのタイミングで…って、そうか。俺が居ない間にか」

 ヒカリからの連絡を聞いて、思わず歯噛みする俺。そう言えば、昨日の夜にカミキリ野郎やキャプテンZと戦ったんだから、俺が長野に居ることは向こうとしてもお見通しだったわけだ。これじゃヒーロー失格だろうに。全く…。

『すぐに帰ってこれる!?』

「ああ。大体の目的は達成したからな。これから戻るが、電車より変身して戻った方が早いな…一時間くらいで戻るから、待ってろ!!」

 俺はそう言って電話を切り、蕎麦の残りを一気飲みして代金とお椀を一緒くたに突き出して店を出る。そして駅を出て、周囲に誰も居ないことを確認してから原稿用紙を取り出した。

「速くしなくちゃな…!!」

 炎と共に変身し、俺はボードブレードに乗って東京の方角へと一直線に飛んだ。

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